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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
堕天怪盗と天才技師
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ヘルズ陣営、準備開始

人は皆、誰かの教師である。故に厳密に言ってしまえば『教師』という職業は存在しない。


by藤方綾峰

 ヘルズ、降谷、ユル、チャルカ、姫香の順に時計回りになって座る。席に着くなり、ユルが口火を切った。


「それで、状況は?」


「聞いての通りだ。二ノ宮が攫われた。ていうか、お前ら今まで何してた?」


 ヘルズがユルとチャルカを怪しげに睨む。すると、チャルカは即答した。


「私は家出宿題やってた。全然解けなかったけど」


 学校は倒壊したせいで、しばらく休みのはずだ。真面目なのか、それともその事を忘れた脳筋なのか。多分後者だろう。


「ユルは?」


「ワタシは新しいご主人様の所へ挨拶に行っていました。なので戦争への参加は基本、深夜しか出来ません」


「そうか、分かった」

 

 ヘルズが目力を緩めたその時、ドアを開けて綾峰が入って来た。どうやら、姫香の寝ている間に玄関のドアは直ったらしい。綾峰はまるでサンタクロースのように、何かがパンパンに入った白い袋を肩から担いでいた。


「おお、ヘルズか。部屋に行っても居なかったから焦ったぞえ。しっかし、大変な事になったのう」


 そう言いながら、袋を床に下ろす。ズシン、という音が床から聞こえてくる。


「おい綾峰。それは何だ?」


「ん? ああ、ヘルズが『復讐屋』から手に入れて来た金の一部じゃ。今のうちに渡しておこうと思ってな。現金の受け渡しは、速く済ませた方が良いからの」


 綾峰が袋の中からジュラルミンケースを取り出し、ヘルズに放る。ヘルズはそれを慌ててキャッチする。


「その中に一億入っておる。流石に札束のまま持ち運ぶのが躊躇われたのでな、勝手だがケースに入れさせてもらった。後九個分、今のうちに渡しておくな」


「悪いんだが、今は無理だ。この戦いが終わった後で頼む」


 ヘルズの言葉に、綾峰は露骨に嫌そうな顔をした。


「こんな大金を預かるのかえ? 盗まれそうで怖いのだが」


「そこはオーラか何かを使って何とかしてくれ。とにかく、今から作戦会議をするところだ。参加してくれるよな?」


 ヘルズの質問に、綾峰は胸を張って見せる。


「無論。妾の学校の生徒が攫われたのじゃぞ。それに金の匂いもする。ならば、乗るしかなかろう」


「おい、後の理由は何だ一体」


 とにかく、これでヘルズチームの全員が揃った訳だ。ヘルズは一同の顔を見て、重く低い声を出した。


「じゃあ、これから『二ノ宮来瞳救出作戦』を始める。二ノ宮は俺達の大事な戦力だ。皆忙しい中悪いが、二ノ宮を救うために尽力してくれ」


 いつものヘルズとは違う、有無を言わせぬ響き。その言葉に、姫香は身体が強張るのを感じた。


「指揮はこの俺、ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニングが取る。異論はねえな?」


 全員が頷いたのを確認すると、ヘルズは続ける。


「まずは情報収集だ。降谷、綾峰、ユルの三人は敵の情報を一つでも多く集めてくれ。姫香、俺、チャルカは情報が集まるまでの間、戦闘訓練と弾薬などの補給だ。じゃあ、始めるぞ」


 ヘルズの言葉が終わると同時、姫香を除く全員が立ち上がった。そして各々の仕事を果たすべく動き出した。


「は、速い・・・・」


「何してる姫香。お前は特訓だろ。急ぐぞ」


「は、はい!」


 ヘルズに急かされて姫香も立ち上がり、ヘルズとチャルカに続いた。






「次! もっと速く!」


「は、はい! ふんっ!」


「もっと速くだ! それとチャルカ、攻撃が単調すぎる! そのままじゃ敵に隙を突かれるぞ!」


「了解、主席」


 降谷のアジトを出て、広大な面積を誇る『地下広場』にてヘルズは姫香とチャルカを相手に戦闘の訓練を行っていた。姫の顔は汗だくで、今にも倒れそうだ。だがそんな事は関係ないとばかりに、姫香は突っ込んで来る。


「はああああッ!」


「甘い!」


 姫香の掌底がヘルズの顎を的確に捉える。だがヘルズはのけ反って躱すと、姫香の手首を蹴り上げた。姫香の手が上に弾かれ、正面が無防備になる。ヘルズは躊躇わずに、姫香の鳩尾に右手を伸ばす。


「甘いな姫香。このままじゃ――――」


「まだ、終わってません!」


 唐突に姫香の身体がブレ、ヘルズの眼前に移動する。これには流石のヘルズも驚いたのか、一瞬だが動きが止まってしまう。その隙を、姫香は逃さない。


「《プリンセス・ショット》!」


 空中で放たれた回し蹴りが、ヘルズの腰目がけて飛んでくる。ヘルズはその蹴りを右腕で防御すると、左腕をスッと引き、拳を握りこんだ。瞬間、姫香が叫ぶ。


「今です、チャルカさん!」


「ッ!」


 ヘルズが振り返ると、そこには大きく跳びあがったチャルカが居た。その手には木刀が握られており、チャルカはそれをヘルズの脳天に向けて振り下ろす。


「えいやっ」


 やる気のなさそうなその口から放たれた攻撃は重力に加えてチャルカ自身の力も加わり、相当の強さを誇っている。当たれば強靭な肉体を持つヘルズとてただでは済まないだろう。ヘルズは避けようと足を引く。


 ――――瞬間、姫香の手がヘルズの右腕を掴む。


「何っ⁉」


「捕まえました!」


「行くよ、主席」


 チャルカの持つ木刀が迫って来る。ヘルズは回避しようとするも、姫香に腕を掴まれているせいで自由に動けない。動かそうとすれするほど、姫香はガッチリと握りこんで来るのだ。やがて、大ダメージを誇る一閃が振り下ろされた。


「もらったよ、主席」


 ――――勝った。そう姫香は確信した。


 この一撃を食らわせれば、姫香とチャルカの勝ちだ。『ヘルズの無防備な部位に攻撃を一発でも当てられれば勝ち』のこのゲームにおいてこの攻撃は、勝利を掴める一撃だ。


 だが――――


「まだ、まだぁ!」


 ヘルズが叫ぶと同時、姫香の身体がフワッ、と浮き上がる。それがヘルズの足払いを食らったのだと気が付いた時には、何もかもが遅かった。


 ヘルズは姿勢を低くして足を半円状に滑らせ姫香を転ばせた後、軸足で床を蹴ってその場を離れた。直後、チャルカが一秒前までヘルズの居た場所を木刀で襲う。


「惜しかったな、二人とも!」


 ヘルズは楽しそうに言うと、チャルカの腹を蹴った。木刀のスマッシュ後で一秒の隙があったチャルカは

蹴りをもろにくらい、吹き飛ぶ。


「うわっ!」


「また、俺の勝ちだな」


 ヘルズは額に浮き出た一滴の冷や汗を拭いながら不敵に笑った。だが、その目は笑っていない。


 姫香はすぐさま起き上がり、ファインティングポーズを取った。身体には未だに疲労が残るが、こんな所で止まってはいられない。本当の戦いの敵はもっと強いし、容赦ない。こんな所で止まっていては、二ノ宮を救えない。


「も、もう一回お願いします!」


「辞めておけ。もう三時間もぶっ通しでやってるんだ。少し休めよ。チャルカも限界っぽいしな」


 しかしヘルズはそんな姫香を見て鬱陶しそうな顔をすると、大の字に倒れて荒い息を吐いているチャルカの隣に腰を下ろした。それを見て、姫香も渋々腰を下ろす。だが、抑えきれない不満が口を突いて出てくる


「でもヘルズさん。このままじゃ私はやられてしまいます。そうしないためにも、休みなしで戦った方が――――」


「身体に疲労が溜まってると、思わぬ事故が起こるぞ。今怪我をしてどうするんだよ。それにさっきも言ったが、チャルカに限界が来てる。二人掛かりで勝てなかったのに、お前一人で勝てると思うのか?」


 ヘルズの呆れた口調に、姫香は何も言い返せなくなる。確かにそうだ。さっきからチャルカと二人でヘルズに挑んでいるが、一度も勝てていない。チャルカは木刀を用いているのに、だ。


「ま、お前の動きはどんどん良くなってる。それに脳筋のチャルカをあそこまで器用に使いこなしている所を見ると、指揮能力も高い。『戦闘力』単体ならともかく『総合力』って面で見れば、お前はそこら辺の裏家業に匹敵する。まあ、俺には全く届かんがな」


「・・・そうですか」


 自然、暗い面持ちになってしまう。それはヘルズのある言葉が引っかかったせいだ。


『「戦闘力」単体ならともかく』


 つまり、姫香の戦闘力はそこまでの脅威ではないという事だ。


 姫香はグッと拳を握りしめる。もっと、もっと強くなりたい。『戦闘力』のみで、並み居る敵を圧倒できる存在になりたい。


 でなければ、裏の世界では生き残れない。


(もっと強くならないと――――そして、速く皆の足を引っ張らない人間にならないと・・・)


 自分を追い込み、無理やり鼓舞していく。


 そんな姫香に、ヘルズはデコピンを叩き込んだ。


「そおい!」


「ひゃわん⁉」


 ベチ! と姫香の額にヘルズのデコピンが突き刺さり、姫香は思わず変な声を上げてしまう。威力を押さえてくれたのか痛くは無かったが、突然やられたのでとても驚きだ。


「な、何するんですか⁉」


「いや、何か深刻そうな顔してるな、と思ってさ」


 姫香に詰め寄られても、ヘルズは平然としている。そんなヘルズを姫香は殴ろうとして――――どうせ躱されると思って辞めた。そんな姫香に、ヘルズは言う。


「何悩んでるか知らんが、お前の強さは気にする事ないと思うぞ? 別に『戦闘力』が全ての世界じゃない。あらゆる策を張り巡らし、道具を使い、相手を騙し、時には卑怯な手を使ったり、運に頼ったり――――そういう闘い方だってアリだぞ。別に優等生らしく正攻法で行く必要なんかねえ」


「で、でもそれじゃ――――」


「大体、ニセ教師を見てみろよ。アイツは戦闘力単体で見ると雑魚だが、ほぼ全ての戦いにおいて恥ずかしげもなく卑怯な手を使って、自分よりも戦闘力が上の奴に勝ってる。もしもニセ教師がお前みたいな人間だったら、俺に出会う前に死んでたさ」


 嘲笑するように、しかしどこか認めたように、ヘルズは嗤う。


「勉強に真面目である事は自由だ。だが、戦いにおいてまで真面目である必要はないぞ、姫香。てか、そんなかしこまってただ言われた事をやるだけが闘いなら、俺は戦う事を嫌いになってたね」


 ヘルズはそこまで言うと、バッと両腕を広げた。腕に連動してマントもバサッ! と派手にたなびく。どうやら、どこかで彼の厨二スイッチを押してしまったようだ。


「血の滲むような努力で手に入れた《自分だけの秘技オリジナル》、先祖代々受け継がれて来た戦法、何かと引き換えに手に入れた異能力、戦いには様々なレパートリーがある。 


 俺は敵と対峙するたびに思う。奴はどんな能力を持ってるんだろう、どんな武器で攻撃してくるんだろう、奴は俺をどのくらいワクワクさせてくれるんだろう、ってな。


 だから、俺は戦う事が好きだ。十人が十通りの戦い方をしてきて、飽きる事が無い。勉強一択の表社会よりも、俺は遥かにそっちの方が好きだね」 


「は、はあ・・・・」


 どうしよう。何を言っているか分からない。


 前から思っていたが、ヘルズは自分が喋りたい事を喋るあまり、話の論点がずれて行ってしまう事があるのではないだろうか?


 前に誰かが言っていた。厨二力の高い人ほど、自分語りをする傾向があると。


 そしてそのせいで、話が訳の分からない方向にずれてしまう事もある、と。


「ま、そんな訳でお前も俺に習ってばかりじゃなくて、自分で能力を作る事も大切だからな」


「は、はい・・・」


 その時、ヘルズの携帯が鳴った。ヘルズはすぐに着信ボタンを押す。今回は緊急事態という事もあってか、いつものおふざけは無しの様だ。


「もしもし、俺だ。情報は集まったか? ―――ああ、分かった。すぐに向かう」


 ヘルズはすぐに電話を切ると、姫香を見た。


「ニセ教師から電話だ。敵の正体が分かったらしい。特訓はここで終わりだ。急いでアジトに戻るぞ」


「は、はい!」 


 三人は慌てて荷物を纏めると、アジトに向かって走り出した。



 

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