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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗と復讐鬼
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ボス、段階変化

 何も起こらなかった。


『何・・・?』

 

 ニブルが驚きと疑問の入り混じった声を出す。どうやら、肉の千切れる音が聞こえなかった事が意外だったようだ。動揺しているであろうニブルを、ヘルズと沙織は嘲笑う。


「かかっ。愚かな奴だ」


「もうその技のトリックは読めてるのよ。まあ、どういう原理で動いているのかは分からないけどね」


『な、何だと⁉』


「それじゃあ、謎解きの時間と行こうか、ロリコン野郎」


 ヘルズは不敵な笑みを浮かべると、「ククッ」と笑った。


「そもそも、『皇帝の物は皇帝に』―――いや、ここは分かりやすく『カエサルの物はカエサルに』と言った方がいいかな? まあとにかくこの言葉の()()()意味は『神に従う事と国に従う義務は別の次元の物だから、その両方を守ることは矛盾にはならない』って言う意味だ。だが、こんなややこしい文章をロリコンかつ短絡的なお前が取り入れるはずもない。そんな時、思ったんだよ。この言葉にはもう一つ意味があったな、って」


 ヘルズはそこまで言うと指を銃の形にして、影未に突き付けた。


「『人の物は人に返しましょう』。そのままの意味がな」


『ッ⁉』


 ニブルの狼狽する声が聞こえる。そんなニブルを追い詰めるように、ヘルズはニヤリと笑いながら続ける。


「この事から、その能力は影未が失った物を強制的に回収する能力だという事が分かる。じゃあここで言う『人の物』とは何か? 弾丸か? それとも羽根か? いいや、両方違う。何故ならそれらは俺の体内に入っていないからだ」


 影未が能力を発動した時に一度、ヘルズは腹を中心とした体内から破裂している。つまりこれは、ヘルズの体内に入った影未の『何か』が、能力によって強制的に回収されたという事だ。


『き、貴様ら・・・』


「影未さんの爪や皮膚、ボロボロね。その状態で腕を振れば、爪に付いた垢や汚れ、もしくは皮膚がまとめて落ちていくんじゃない?」


 ヘルズの言葉を引き継ぎ、沙織が勝利を確信した瞳で聞いて来る。その口元は、口裂け女のように不気味に笑っていた。


「さあて、長々と話して分かりづらくなったから、一言でまとめてやろうかロリコン野郎」


 ヘルズはニタリ、と笑うと、一気にまくし立てた。


「影未の能力は、失った自分の身体の一部を強制的に回収する能力。要は強力な電磁石と砂鉄の原理だ。影未じしゃくが動いて辺りに皮膚の一部さてつをばら撒き、能力発動時に一気に回収する。違うか?」


 影未がヘルズの身体を破壊するという大技を行ったのは、確か影未が爪でヘルズの身体を貫いた後だ。爪を刺した際に体内に皮膚の一部が置いて行かれ、結果ヘルズの身体を破壊したのだろう。


「まあ、悪くはなかったぜ。だが、分かってしまえば種は簡単。影未の身体に触れないようにしつつ、少しずつでも攻撃を食らわせていく。そうすれば、俺達の勝ちだ」


 身体が触れた瞬間に皮膚の一部が張り付き、好きな時に相手の体を引きちぎれる、鬼のような能力。


 だが、その能力は分かってしまえば大した事はない。


 ヘルズはコルトガバメントを、沙織は様々な武器を持ち合わせており、投擲だけでもギリギリ勝てる。また、影未の叫び声はヘルズと沙織には効かないし、黒い羽根も近づかなければ意味がない。


 ほぼ無敵を誇る影未の能力は今、打ち破られようとしていた。


『くっ・・・』


「ホラ、どんどん行くぜ!」


 ヘルズがコルトガバメントを構え、影未に向けて引き金を引く。沙織もどこから取り出したのかガトリング銃を取り出し、影未に照準した。


「終わりだ! 薄頼影未!」


『クソッ!』


 ヘルズの掛け声、そしてニブルの悔しそうな声は全て、銃撃音にかき消される。派手な音が、鼓膜を叩く。影未は空を飛んで避けようとしたが、翼が曲がっているせいでよく飛べない。態勢を崩した影未に、銃弾の雨が降り注いだ。


「終わりよ。安らかに眠りなさい」


 当たる寸前に影未は最後の抵抗のつもりか、黒い羽根を球体に展開して自分自身を包み込んだ。だが、それも無駄だろう。黒い羽根には電磁波はあっても、銃弾を止める効果はない。このまま蜂の巣になって終わり。機械人間なので、死ぬことはないだろう。


 数秒後、ヘルズの持つコルトガバメントが同時に弾切れを起こす。その一秒後に、沙織の持つガトリング銃もカチカチという音を立てる。二人は同時に銃を床に落とすと、互いの顔を見た。


「終わったのかしらね」


「どうだかな。何せ向こうは機械人間だ。まあいくら何でも、死んだとは思うがーーーー」


「いいえ、生きているわ。残念だったわね」


 その言葉に、ヘルズと沙織は声の方向を見た。そこには、黒い羽根を破って中から這い出して来る、一人の人間の姿があった。その姿は先ほどのように全身ボロボロでも、髪の色が変色しているわけでもない。


 黄色人種特有の肌と髪を持った、一人の女がそこにいた。


「まったく、私の第一形態を打ち破るなんて、さすが怪盗主席よね。今まであの形態が敗れたことなんて一度もなかったのに。まあでも、この形態に勝てるわけないけど」


 髪をかき上げながら、影未は長髪するようにヘルズを見た。ヘルズはコルトガバメントを素早く拾い上げて弾丸をリロードすると、隣の沙織の脇を小突いた。沙織も素早くガトリング銃を拾い上げ、弾薬を交換する。その間、ヘルズは影未を見ながら会話で時間を稼ぐ。


「しっかし、一体どうやったんだ? あの身体からそんな状態に」


「脱皮したのよ。私、細胞人間でもあるから」


「半人外と機械人間の掛け持ち・・・・マジかよ」


 余談だが。


 機械人間と細胞人間の掛け持ちは、能力によっては出来なくはない。


 もちろんヘルズや綾峰のような細胞そのものを再生させてしまう類は不可能であるが、その他は基本的にやろうと思えばできない訳ではない。


 ただし、やった方がメリットがあるかと言われれば微妙な所ではある。


 例えば、猫の細胞を有した人間は爪に力を込める事で爪を伸ばせるが、そんな人間が爪を機械化しても何の意味も無い。また、サイの細胞を有した人間は全身の皮膚が硬化しているため、無駄に機械にする必要などない。


 故に、大抵の場合は機械化手術が無駄に終わることが多い。


 だが、稀に機械化の能力と細胞の力が上手くマッチする事がある。それが今の影未なのだろう。


「私の脱皮は、自分の身体を分子レベルで解離出来る。そして融合も出来るから、機械化人間になったり解除したりできるわ」


「それはもう脱皮と呼ばなくないか?」


 ヘルズがツッコミを入れるが、サラッとスルーされる。その時、沙織がヘルズに声を掛けた。


「ヘルズ、準備完了よ」


「よし、じゃあ行くか」


「上等よ。二人纏めて掛かって来なさい」


 言うなり、影未がヘルズ達に跳びかかって来る。その動きは、先ほどの機械化状態の数倍速い。


「チッ、さっきまでギャーギャー叫んでた奴とはとても思えねえな!」


 繰り出された拳を躱すと、ヘルズはムーンサルトキックを繰り出した。影未はそれを紙一重で躱すと、背中から翼を出現させた。


「翼を融合。食らいなさい!」


「っぶね!」


 翼から放たれた弾丸、そして黒い羽根をバックステップで素早く回避し、ヘルズは舌打ちする。黒い羽根で視界が塞がれている。これでは、敵の姿をとらえる事ができない。


「大丈夫よ、私は気配でわかるから」


 ヘルズの耳元で声が聞こえたかと思うと、次の瞬間には前方で銃撃音が聞こえてくる。それが沙織の動きなのだと理解したとき、ヘルズの首の毛が逆立った。


 ---まさか、あの一瞬で!?


 キィン、という音が聞こえる。続いて、大きな発砲音。


「くっ、やるわね!」


「そっちこそ、随分といい動きをするわね!」


 二人の苦戦するような声が聞こえて来た。ヘルズは思わず唾を飲み込む。


 ――――いったい、向こうで何が起こってるんだ⁉


 しばらくして黒い羽根が晴れ、中から傷だらけの沙織が飛び出してきた。ヘルズは慌てて沙織に駆け寄る。


「沙織、大丈夫か⁉」


「この程度の傷、怪我の内にも入らないわ。そんな事よりアイツ」


 沙織が血の混じった唾を吐き捨てながら、影未を指差す。


「厄介ね。こっちが攻撃を仕掛けようとすると、すぐに第一形態に戻られちゃう。かといって遠距離にすると、接近されて不利な攻撃をくらう」


 沙織は懐の中身を全てぶちまけると、その中にあった懐中電灯をヘルズに渡す。


「これで奴の視界を一瞬でいいから眩ませて。そのくらいならボンクラの貴方でも出来るでしょう?」


「あ、ああ」


 ヘルズが頷くと同時、沙織は立ち上がる。その姿はとても勇ましく、神々しかった。


 戦いももう終盤。誰もがそれを感じていた。

 





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