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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗と復讐鬼
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怪盗&復讐鬼VS『復讐屋』⑩

この章、長々と続いてしまい申し訳ございません。

 むせ返るような血臭の中、ヘルズは目を覚ました。


「ここは・・・」


 目覚めると同時に、昨日までの記憶がどっと押し寄せてくる。

ーーーーそうだ、昨日俺は、尚っちとの戦いに負けて。


「沙織を抱えて逃走・・・雷門橋に近い廃墟を見つけて、その中に潜り込んで寝た。ハッ、我ながらあの状況でよくやれたな、俺」


 誰が見ても賞賛されるような行動だろう。ヘルズはホッと安堵の息を吐いた。


「しっかし、壁で寝るなんて俺も随分ーーーーって、え?」


 そこで、ヘルズはようやく目の前の光景に気が付いた。


 そう、辺り一面血の池と化した、その光景に。


 元は工場であっただろうと思われる広さを持った廃墟の中に、死体が転がっていた。それも一つや二つではない。おびただしい量の死体が、そこら中にある。


 ある者は喉をかき切られ、またある者は内蔵を引っこ抜かれ、またある者は眼球を二つとも潰されていた。


「何だよ、これ・・・・」


「あら、お目覚めかしら」


 真横から聞こえてきた声に、ヘルズはバッと首を傾けた。するとそこには、血の滴るサバイバルナイフを構えた沙織が立っていた。


「おい沙織、何だよこれ・・・」


「見ての通り、死体よ。昨日の夜から今日の朝に掛けて、この烏合の衆どもが徒党を組んで襲いかかってきたの。恐らく、この廃墟に入る所を誰かに見られたのね。面倒だから、全員殺したまでよ。何か問題でもあった?」


 沙織は挑発するように髪をかき上げる。ヘルズは沙織を糾弾しようと、声を張り上げかけた。『いくら何でもやり過ぎた』と。沙織の実力なら、全員無力化する事も出来たはずだ。なのに、それなのに。


 だがその言葉は、沙織の目の下の隈を見た事により引っ込められる。


 沙織は、本当に徹夜で戦ってくれていたのだ。しかも、ヘルズを守りながら。自分も疲れているだろうに。動揺した目をしているヘルズに、沙織は肩をすくめる。


「別に、疲れてないわよ。貴方が松林刑事と戦ってくれたおかげで、大体回復できたから。貴方ほどとは行かないけれど、私にだって治癒能力はあるのよ」


「どのくらい強いんだ?」


「痣を十秒で再生できるくらいには。流石に骨折とかになると半日は掛かるけど、かすり傷なら貴方とさほど変わらないわ」


「凄いな」


 普通の人間なら、かすり傷を負ったらまず瘡蓋ができ、その後瘡蓋が塞がって剥がれると言った順序を経てようやく、傷が治る。だがそれらの過程をすっ飛ばして、いきなり回復すると言うのだ。凄いことこの上ない。


「内蔵破裂レベルの傷を負っても即再生する貴方に誉められても、嬉しくないわよ。そんな事より、身体の調子はどう?」


 沙織に言われ、ヘルズは軽く腕を振る。心なしか、身体の調子が良い。


「なかなかいいな。何かしたのか?」


「貴方が寝てる間に血を飲ませたのよ。奴らの血を飲んで、口移しをする形でね」


 沙織が意味ありげに唇を撫でる。それを見て、ヘルズは背筋を悪寒が走るのを感じた。この少女は、一体何回ヘルズに口づけをしたと言うのだろう。


「もう既に一回してるんだからいいでしょ。それに、貴方を守って戦いながら血を飲ませるのって、結構難しいのよ。例えるなら赤ん坊にミルクを上げながら戦ってる気分ね」


「俺は赤ちゃん扱いかよ」


 とは言え、ヘルズは素直に沙織の実力を凄いと思った。


 いくらヘルズが熟睡していたとは言え、大きな音が立てば起きてしまう。それは声も同様で、誰かが声を張り上げた瞬間、目を覚ましてしまう。そうならなかったのは、沙織がヘルズを起こさないようにと配慮をしてくれたためだろう。


 音も無く、かつ仲間に傷一つ付けさせず、ナイフ一本で敵を殲滅する。そんな事、誰でも出来るわけではない。


「ありがとな、沙織。俺を守ってくれて」


 ヘルズが殊勝な態度で礼を言うと、沙織は顔を青くしてそっぽを向いた。


「・・・やめて。寒気が走るわ」


「何でだよ⁉」


 繰り返すが、そっぽを向いた沙織の顔色は赤ではなく青である。恋愛フラグぶち壊しだ。


「というか、別に気にすることはないわよ。貴方は腐っても、お姉ちゃんの彼氏な訳だし。好きな人の好きな人を守るのは、当然でしょう?」


「は、はあ・・・」


 なんだ、その超理論。『友達の友達は友達』と言われている気分だ。


 ちなみに、ヘルズに友達は居ない。強いて言うならチャルカだが、別にチャルカの友達を友達と思ったことはない。


「そんな事より、お風呂にでも入ってきたらどうかしら? 昨日、ゴミとして出されていた浴槽を拾ったから、簡易的ではあるけれどあるのよ。 貴方、帰り血で結構汚れてるわよ?」


 浴槽をゴミとして出す事なんてあるのだろうか、とヘルズは疑問に思いながら沙織に言い返す。


「いや、そんな事を言うならお前の方が汚れてるんじゃ―――」


「いいから入って来なさいよ。私は後でいいから」


 沙織の言葉に、ヘルズは首を傾げながら隣の部屋に移動する。一体どうして、沙織はこうも自分に風呂を勧めるのだろうか。不思議でたまらない。


「俺ってそんなに匂うのかね」


 自分の脇を嗅いでみるが、特に何も感じない。まあただ単に連日の疲れを癒して欲しいという善意だろうと勝手に解釈し、浴槽に向かう。


 沙織の言う浴槽とやらは、ポツリと部屋の中心に佇んでいた。部屋が広いという事だけあって、物凄い虚無感がする。


「湯まで張ってあるのか。凄いなこりゃ」


 浴槽の中を覗き込み、ヘルズは感嘆の声を上げる。一体どうやって沸かしたのだろうか、浴槽には湯が並々と入っていた。


「アイツ、本当に何でも出来るんだな」


 血にまみれた服を脱ぎ、風呂に浸かる。事前に身体を洗いたかったが、洗う道具も無ければ石鹸も無いので仕方ない。多少不衛生だとは思うが、そこは目を瞑るしかないだろう。


「しっかし――――疲れたな」


 ヘルズは浴槽に入るなり、大きく溜め息を吐いた。


 流石に今回は疲労の連続だった。テロリストに第六期暗殺者主席、よく分からん噛ませ犬モブキャラに松林尚人。最終章直前かと思われるような量の敵キャラが登場した。


「敵多すぎだろ・・・・おまけに、この後も噛ませ犬が出てくるんだろ? もう早く終わって次の章に行けよ」


 ついに章そのものに愚痴り始めたヘルズ。その時、ヒタ、ヒタという足音が聞こえる。


「ん? 何だ?」


 敵襲だろうか。いや、それなら沙織が気が付くはずだ。ならば、一体誰だろう?


 やがて、闇の中から人の輪郭が現れる。それを見たとき、ヘルズは噴き出しそうになった。


「お、おいお前、何て恰好してんだよ⁉」


 そこに立っていたのは沙織だった。ただし、一糸纏わぬ姿のまま。


 動揺するヘルズに、沙織はいつも通りの口調で言う。


「敵が半径三キロ以内に近づいて来てるわ。このままだと私だけお風呂に入れないまま戦いが開始しちゃうから、恥を忍んでこうして混浴に来たのよ」


「全然恥じらってるように見えないんだが?」


「知らないわよ。とりあえず、入るわね」


 沙織は一言そう言うと、ヘルズの了承も無しに浴槽に入る。溢れた水がザバァ、と外に溢れ、廃墟の床を濡らす。


「お、おい、急にエロ展開に持ち込んでもな、誰も満足しないんだよ。読者も作者。それこそ『魔剣は素潜りと共に』のコメント欄みたいに『は?』で溢れかえると思うぜ。だから辞めようぜ? なっ?」


「うるさいわね。いちいち読者の顔色を窺わなくちゃいけないのかしら貴方は」


 ヘルズは必死で最後の抵抗を試みるが、沙織は鬱陶しそうにヘルズの胸をつま先でグリグリとなじった。Mからすればご褒美なのかもしれないが、ヘルズからすればただただ迷惑なだけだ。


「こうして見ると、貴方って結構筋肉あるのね」


 沙織がヘルズの胸をなじりながら、ヘルズの身体を見る。ヘルズは「ああ・・・」と曖昧な声を出す。


「一応、怪盗主席だからな。それに欠損した部位は再生した時に余計な脂肪が落ちるから、いくら食っても太らないんだよ」


「へえ、便利な能力ね」


 一年間、非健康的な食事を取り続けた挙句、ほぼ運動をせずに身体を鈍らせ続けたヘルズがいきなり怪盗として仕事を出来た理由もこれにある。全て、吸血鬼の回復能力のおかげだ。


「まあ、私の方が立派なプロポーションをしてるけどね」


「さりげなく自慢をするなよ・・・・ッ!」


 うっかり沙織の身体に目を落としてしまい、ヘルズは絶句する。


 沙織の肉体は、それはもう『美』であった。


 まず、余分な脂肪が全くない。腰のくびれが綺麗に描かれており、引っ込む所がしっかりと引っ込んでいた。更に胸も大きすぎず小さすぎず、腹には適度な腹筋が覗いている。


 ヘルズは雑誌の写真などでスレンダーな美女を見たことがあったが、沙織の身体はその二十倍美しいと言っても他言ではない。もはや一つの芸術、肉体美だ。


「何よ、そんなにマジマジと見つめて? まさか私の身体に欲情した?」


「そんな訳ないだろ。というか、そうだったらまずいだろ」


 ヘルズはシスコンかもしれないと自分でも思っているが、ソロ婚の域には踏み入れないと誓っていた。


「じゃあ何かしら?」


「普通に綺麗だな、と思っただけだよ。正直、クルシアよりもヤバい」


 クルシアも凄い綺麗な身体付きをしていた。というか、クルシアは料理を覗いてはほぼ完璧だった。

 料理の腕さえ含めなければヘルズのような引きニートには勿体無い女だった。


「お姉ちゃんと比べられるのは心外ね。私がお姉ちゃんよりも綺麗な訳ないじゃない」


 ヘルズの褒め言葉に、相変わらず沙織は謙虚な姿勢で返す。・・・他の人間だと『私の方が上』と憚らない癖に、クルシアを引き合いに出された時のみ謙遜とは、どうなのだろう。


「私は生まれた時から醜い、不完全品よ。料理を除いて完璧なお姉ちゃんとは程遠い、ね」


「クルシア至上主義のお前でも、料理の腕だけは酷いって認めるんだな」


 どうやら、ここにもあの料理の被害者が居たらしい。ヘルズの言葉に沙織はバツの悪そうな顔をすると、口を開いた。


「せっかくだし、話してあげるわ。私とお姉ちゃんの昔話を。同じ料理の犠牲者としてね」 


キャラクター紹介⑩


クルシア


攻撃力 3500 回復力 300

敏捷力 2100


特徴

 

第六期怪盗次席にして、黒明弐夜の彼女(国によっては結婚している)。二ノ宮と並ぶ絶世の美少女であり、幼少期から告白を数多く受けていた。極端なまでの善人であり、困っている人を見過ごせない上、他人を助けるためなら自己犠牲も厭わない。妹が一人いる。


ワイヤー技術において弐夜を凌駕する実力を持つ。料理が壊滅的に下手であり、一口食べれば『最強の犯罪者』にすらダメージを負わせるほど。また愛が重く、弐夜と付き合い始めた日から欠かさず同衾と混浴を強要するほど。そのせいでヘルズは女の裸を見てもラノベ主人公のような大きな反応が出来なくなった。




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