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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
幼き怪盗と永久の物語
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ヘルズとクルシア⑪

 簡単な卒業式が終わった後は、訓練所を出るための準備を行う。自分の荷物を整理し、一夜身体をゆっくりと休めた後、次の日の朝早くに訓練所を出る。


「ねえ、弐夜。せっかくだから、最後に麓の町を見て来ようよ」


 弐夜が数少ない思い出の品を整理していると、既に荷造りを終えたクルシアが来た。


「別にそれは明日でもいいんじゃないか? どうせ出ていく時に通るだろ」


「そうだけどさ。時間がある内に行っておいた方が良くない? 町の人たちにもお別れの挨拶をしたいし」


「いつの間に町の奴らと仲良くなったんだよ」


 クルシアが町に降りた回数は数得るほどしかない。その間に、もう顔見知りになったと言うのか。


「うん。私が買い物に行くとね、皆サービスしてくれるんだ。だから、最後に改めてお礼を言わなくちゃ!」


 どこまでも律儀なクルシアに、弐夜はやれやれと頭を掻く。クルシアの持つ性善説は、未だに変わっていない。人と人とが助け合い。彼女の持つこれは、揺らぐ事を知らない。


「そうだな。じゃあ、行くか」


 二人で山を下り、町に向かう。道中、ますますパワーアップしたと思われる罠がてんこ盛りだったが、それらを平然と回避しながら、二人は街へと降り立つ。


「それじゃあ、行こうか。まずはお肉屋さんからね! あの人、私が来るたびに霜降り肉をサービスしてくれるんだ!」


「何してんだよ肉屋。絶対儲かってねえだろ」


 弐夜のツッコミを余所に、クルシアは弐夜の腕を取ると歩き出す。弐夜は腕が絡まれている事に対して驚かず、黙って肩をすくめる。腕を絡めるなど今の二人にとっては日常茶飯事だ。


 恋人のように腕を組んだまま、世話になった人たちにお礼を言っていくクルシア。町の人たちの反応はまちまちで、クルシアがもう来ない事に純粋に残念がる者、最後だと言ってただで物をくれる者、中には弐夜と腕を組んでいるのを見て失恋したかのようにその場で泣き崩れる者も居た。


「よし、これで終わりだね。最後に町を一回りしてから帰ろうか」


「そうだな」


 やがて町の中心部分だろうと思われる場所に着く。二人。そこには複数の円が描かれており、中心にダイヤのような物が埋め込まれていた。


「何だこれ? 初めて見たぞ」


「私は何回か見た事あるけど、これが何なのかは分からないな。あ、あそこにお爺さんが居るから、ちょっと聞いてみるね」


 そう言うとクルシアは弐夜から腕を放し、老人に話しかける。いかにも人が好さそうな老人だ。どこかの最強なのをいい事に馬鹿笑いしているジジイとは大違いだ。


「すみません。あの円って、何か意味があるんですか?」


 クルシアの指さす先を見て、老人はニコリと笑う。


「おお、あれか。あれはこの街のシンボルでな。あの中心の模様の上に立って神様に祈れば、恋が成就すると言われているんだ。お嬢ちゃん、好きな人が居るなら是非、やった方がいいよ」


「そうなんですか。ありがとうございます」


「フォッフォッフォッ、何、いいんじゃよ」


 老人は気持ちよさそうに笑うと、その場から立ち去って行った。後には、弐夜とクルシアが残される。


「ねえ、弐夜。一緒に神様に祈ろうよ」


「何でだよ。もう俺達の恋は叶ってるじゃねえか」


「より確実にするためだよ。せっかくだからやって行こうよ!」


 クルシアが弐夜の手に自分の指を絡めて恋人繋ぎをしながら、弐夜に言う。弐夜は溜め息を吐くと、クルシアと一緒に中心に立った。


「弐夜とずっと幸せでいられますように!」


 クルシアが周りに聞こえるのではないかと言う声で叫ぶ。弐夜は顔を赤くしながらもクルシアを冷ややかな目で見つめ、自分は心の中で祈る。


(クルシアが幸せでいられますように)


 クルシアの幸せを最優先に祈っておく。自分の安全は二の次だ。クルシアが居なければ、自分は生きていく事もままならないかもしれない。クルシアは失いたくない。


「じゃあ行くか。俺はもう心の中でお願いしたから大丈夫だ」


「何をお願いしたの? 私にも教えてよ」


「内緒だ」


 流石にこんな所で、彼女の幸せを願っただなんてリア充アピールが出来るほど弐夜は度胸があるわけでもチャラい訳でもないため、ここは黙秘する一手だ。


「えー、いいじゃない、教えてよ!」


「駄目だ。言ったら俺が社会的に死ぬ」


「そうしたら私がキスで目覚めさせてあげるから大丈夫だよ!」


「男女が逆転してるぞ」


 ちなみに、弐夜が初めてクルシアにキスした時の事は、クルシアと付き合って一週間経ってから話した。クルシアは驚いたが、その事実によって何かが吹っ切れたのだろう。その日以降、一日もクルシアの舌が弐夜の口の中に入らなかった日はなかった。


「ねえ、弐夜」


「ん? 何だよ」


「結婚式、ここで上げようね」


 クルシアの弾んだ声に、弐夜は頷く。


「ああ、いいぜ。その時は盛大にやるか。結婚式の常識が吹き飛ぶ位にな」


「いいね。楽しみにしてるよ!」


 和やかなムードに包まれながら、二人は訓練所に戻る。


 その日、弐夜が精魂尽きるまでクルシアにいただかれたのは、言うまでもない。






「――――夜、起きて。弐夜、起きて」


「う、うん・・・・・」


 誰かに揺さぶられるような感覚に、弐夜は目を覚ます。目を開けるとそこには最愛の彼女、クルシアの顔があった。その顔は心配の色に染まっている。


「麓で火事があったみたい。皆寝てたから逃げ遅れた人がたくさんいるみたい。ちょっと助けに行ってくるね」


 どうやら、麓の名前も知らない奴らがピンチだから、助けに行くらしい。クルシアらしい判断だ。そして、わざわざ弐夜に報告してくれるのもありがたい。


「マジかよ。お前も大変だな。まあいいや、俺も手伝うか?」


 弐夜の質問に、クルシアは頷く。


「うん、そうだね。怪我してて動けない人が居るかもしれないし、お願いしていいかな?」


「分かった。じゃあ着替えたらすぐに向かう。それまで死ぬなよ、クルシア」


「うん。じゃあ、また後で」


 クルシアは言うが早いか、靴を履いて走り出してしまった。その速さは弐夜が知る限り、彼女の最高速度。人助けには自分の力を惜しまないという信念は、相変わらずらしい。


 弐夜は枕元に置いておいた服を拾う。つい数時間前までクルシアと布団の中でイチャイチャしてそのまま寝てしまったため、弐夜はほとんど服を着ていない。手早く着替えを済ませ、麓まで向かう。


「しっかし、夜だと罠が見えなくなって危険だな」


 山を下りながら、弐夜はボソリと呟く。訓練のおかげで夜目は割と効く方だが、人間である以上やはり限界がある。流石に光が全くない場所では一般人とさして変わらない。


 そして、この山の罠に一度掛かればたとえ弐夜と言えどただでは済まない。今の弐夜なら死ぬ事は無いだろうが、腕くらいは失うかもしれない。卒業して早々、そんな事故に遭うのは御免だ。


 よって弐夜は、クルシアよりも速度を落として下らざるを得なくなる。クルシアにはワイヤーを使った超速度の降下があるが、弐夜は出来ないからだ。弐夜は出来るだけ速度を上げながら、かつ十分に罠に警戒して、麓へと降りる。


「確かに燃えてるな・・・・ってうわ!」


 近くにあった木に登って様子を確認しようと目を凝らした瞬間、火の粉が飛んでくる。弐夜はそれを手で振り払い、とりあえず指揮官であるクルシアの元へと向かう。その途中、助けられる人間は全て助けて行く。


「助けて! 中に赤ちゃんが!」


「了解。今助ける!」


「タンスに挟まれて脱出できない!」


「了解。今救出する!」


「助けて! 天井に潰される!」


「もう助けた!」


 縦横無尽にあちこちに飛び回って大声を出し、人を救いながらクルシアの姿を探し・・・・息を吐く暇もない忙しすぎる作業に、弐夜は目眩がして来た。


「クソッ、一生分の善行を積んだ気がするぞコレ!」


 ひとまず視界内の人間は全員助け終わり、弐夜はここでようやく息を吐き出す。そして、クルシアの姿を探す。


「クルシア! どこだ!」


 だが、いくら探してもクルシアの姿は見つからない。まさか建物の倒壊に巻き込まれて潰れてるんじゃないかと弐夜が嫌な想像をし始めた時、見慣れた白髪が目に入った。


「あれは・・・・」


 愛しい恋人の姿が目に入り、弐夜の口から呟きが漏れる。クルシアは、それはもう奮迅の働きを見せていた。


 凄まじい脚力を使って燃え盛る家から複数の人を同時に救い出し、常時持ち歩いているワイヤーを空中に放って落ちてくる天井から人々を救い、更にそのワイヤーにぶら下がって高速移動し、次の人を救う―――――


「何だよ、アレ・・・・・」


 常人には視認する事すら不可能であろう速度で飛び回るクルシアを見て、弐夜は絶句する。そうしている内にも、クルシアはどんどん人を救っていく。


 やがて、近くに助ける人が居なくなったのか、クルシアはホッと息を吐く。その時、近くから助けを呼ぶ声が聞こえる。


「だ、誰か助けてくれ!」


 見ると、老婆が家の下敷きになって倒れていた。距離は目測百メートル。弐夜は走り出そうとするが、その足を何者かが掴んだ。


「た、助けてくれ・・・・」


 見ると、そこには全身に火が回って、今にも焼死体になりそうな男の姿があった。弐夜は一目でコイツは助からないと判断すると、その男を蹴り飛ばす。そして、クルシアの方へと姿を戻す。


「クルシアはどこだ―――――」


 居た。家の残骸を持ち上げ、老婆を助け出している。その間にも声を掛けるのを忘れない。


「大丈夫ですか、立てますか? 私がこの家を持ち上げているので、お婆さんは早く脱出してください!」


 クルシアが持ち上げている間に、老婆は残骸から抜け出し、立ち上がる。そして、クルシアに向かって微笑む。


「ありがとう、お嬢ちゃん。本当に、ありがとう」


 老婆の言葉に、クルシアは微笑む。その会話を聞いて、弐夜の頬も緩む。










 ――――それが一瞬の油断だった。







 突如、焼け落ちた家の一部が、クルシアに降りかかる。クルシアはそれにすぐに気が付き、老婆を突き飛ばす。だが、自分はその残骸をもろにくらってしまう。


「クルシア!」



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