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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と囚われの姫
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ヘルズvsチャルカ(後編)

 今回でヘルズとチャルカの戦いは終わりです。かなり壮絶なバトルなので、楽しんで読んでください。

※「怪盗≒二次元廃人」のジャンルが、「空想科学」から「アクション」に変更になりました。ご了承ください。

「ったく、人がちょっと手を抜いたと思ったらすぐこれだ。全く、これだから女子という生き物は」


「なっ・・・・」


 チャルカは絶句していた。

 チャルカが振るった剣は、ヘルズの腕に受け止められていた。


――――正確には、ヘルズの腕に巻かれた包帯に。


「ぼ、防刃性能・・・」


「まさか俺が身に着けている装備が、全部厨二病の道具だと思ったか?」


 ヘルズが退屈そうに言い、腕を振るった。チャルカは慌てて跳び退き、態勢を整える。包帯には浅い切り傷が付いているだけだ。ヘルズが切り傷のついた包帯を見て、驚いたような声を出した。


「あれ、傷ついてる。こりゃ〝白馬に乗った暴れん坊将軍が日本刀で切りかかってきても大丈夫″っていう二ノ宮のキャッチコピーは終わりかねえ?」


 いろいろとツッコミたい衝動を無理矢理抑え、チャルカは剣を構えなおした。


「仮に防刃性能の包帯があったとしても、それで貴方の勝率が上がるわけじゃない。私の勝ちは揺るがないまま」


 チャルカがドスの利いた声で言うと、ヘルズはがりがりと頭を掻いた。


「ったく、分かってねえな」


 そして、拳を構えると、言った。


「ここからが本気だろうが」


 その体が消えた。残像すら置き去りにする速度でチャルカに接近すると、超速の突きを放った。剣で防御するものの、凄まじい衝撃が手首に伝わる。


―――硬い!


 先ほどとは速度も硬さも違う一撃。まさか本当に手を抜いていたのだろうか。


「くっ、でもまだまだ・・・」


 チャルカは歯を食いしばると、自分の中で最高速度の斬撃を繰り出す。そのままやみくもに剣を振り回す。剣閃の嵐がヘルズを襲う。


 いくらヘルズでもこの速度の攻撃は耐えられまい。チャルカがそう思った直後、ヘルズが腕を振った。チャルカが振った剣を、防刃包帯で全て受け止める。そのままヘルズは身体を回転させ、回し蹴りを放った。蹴りはチャルカの手首に当たり、剣を手から弾き飛ばす。


「あっ・・・」


「さっきまでの威勢はどこへ行った?」


 先刻(さっき)とは打って変わって冷酷な声がチャルカの耳に入ると同時、頬に鋭い痛みが走った。見ると、ヘルズの拳が頬すれすれを擦過していた。頬からはわずかな量の血が出ており、ヘルズの拳を赤く濡らしている。


「こ、のっ!」


 繰り出された膝を蹴り、上に跳躍する。上からヘルズに向かって攻撃しようとした時、自分がヘルズの上を取っている事に気が付いた。


 ―――一瞬でもあの主席の上を取ったという事実が、脳内を沸騰させる。その時、轟! という音を立てて、空気が震えた。下を見ると、ヘルズが床を砕くように蹴り、跳躍してくる。瞬時にチャルカの頭上に移動したヘルズが、右足を振り上げた。


「《没落(ぼつらく)権勢(けんせい)―――》」


 慌てて構えようとするも、空中で上手く身動きが取れない。ヘルズはそれを見ると口の端を歪めた。


「《天覧(てんらん)(ざくら)!》」


 必殺技名と共に上空から撃たれた踵落としが、チャルカの脳天に炸裂する。重力+速度によって放たれた必殺の一撃は、たやすく少女を床に叩きつけた。


「く、あっ!」


「悪いな。俺にも譲れない物があるんだよ」


 ヘルズは悪びれていない様子で言うと、床に降り立った。


「それに見たいアニメもあるしな。悪いが、今ここで捕まるわけにはいかない」


―――こんなふざけた奴に、負けてたまるか!


 一瞬にしてチャルカの殺意に火が灯る。チャルカは気合で立ち上がると、近くに落ちていた剣に飛びついた。


「これだ、これさえあれば、私は主席に・・・」


「勝てるのか、今のお前が?」


 チャルカは振り返り、ヘルズに剣を向けた。


「師匠との約束を破る事になるけど、私は主席、貴方を殺す。覚悟して、主席」


 目の奥に殺意を秘めたまま、ヘルズに一歩一歩近づいて行く。ヘルズはそれを見ると、溜息を吐いた。


「お前ってホント馬鹿だよな」


 ヘルズは肩を鳴らすと、チャルカの目をまっすぐに見据えた。


「『怪盗の道を進む者は人を殺してはいけない』。たかが俺一人のためにその掟を破りやがって。言っとくけど俺、殺さなきゃいけないほど大切な人物じゃないよ。ネトゲ三昧でろくに学校も行かないし、厨二病な事言って周りを巻き込むし、『怪盗』なんて肩書きがなけりゃ俺、ただの駄目人間だよ?」


 チャルカを説得しようとしているらしいが、チャルカの耳には命乞いにしか聞こえていないようだ。説得が効かない事に気が付いたヘルズは、また溜息を吐いた。


「分かったよ。お前がそこまで本気ならしょうがない。今回ばかりはお前に同情して、お前を救ってやる。ちょっと痛いかもしれないけど我慢しろ、な?」


 ヘルズは真剣な顔で言うと、拳を構えた。その時、指が紐を引っかけたのだろう、ヘルズの付けていた眼帯が、ハラリと落ちた。人間の習性からか、チャルカの視線がその目に吸い込まれる。


 ーーそして、チャルカの心臓が一瞬、止まった。


「な・・・・」


 呼吸が続かない。ただ、ひゅうひゅうという音が聞こえる。それを見たヘルズは眼帯を拾い上げ、元通り装着した。


「見られちまったか。まあ仕方ねえ、そういうわけだよ」


「主席、それはーーーーー」


 そう、チャルカが見たヘルズの目。


 それは、人間の目ではなかった。かといって、チャルカのような改造による、機械の目でもない。


 完全に、人外の目。それも、化け物の類の、だ。


「じゃあ、主席はもう人間じゃ、ないの?」


 ヘルズが頷く。

 

「ああ、ーーーーー半分だけな」 


「嘘。そんなーーー」


 必死で否定しようとするチャルカに、ヘルズが畳み掛ける。


「嘘も何も、お前がその目で見たものが真実じゃねえか。まあ安心しろ、『邪眼』、『隻眼』、『ハーフ』の3つは、俺の好きな言葉だ。」


 ヘルズはあっけらかんと言うと、最後に一言呟いた。


「俺がこんな化け物になったって知ったらアイツ、どう思うかな」


 そして、床を蹴った。その速さは、音速など比ではないレベルだ。ヘルズの身体が速度に耐えられず、みしみしとなる。


「第六期怪盗主席、黒明弐夜。コードネームは『ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニング』いざ尋常に勝負」


 ヘルズ達が元居た訓練所の、本気を出す時の宣言。


 ヘルズがその宣言をすると同時、足の皮膚が摩擦でわずかに裂け、血が宙に舞う。


 そんな事はお構いなしとばかりにヘルズはチャルカの眼前に迫ると、顔面に掌底を叩きこんだ。チャルカの身体が一瞬揺らぐ。直後、ヘルズの四肢が唸りを上げる。


「《昇華(しょうか)残影(ざんえい)―――》」


 意識が時間を引き延ばし、一秒を数千秒に錯覚させる。


「《(えん)()(かぐ)()!》


 ヘルズがありったけの声で叫ぶと同時、神速の突きがチャルカの剣に当たった。剣は粉々に砕け散り、破片となって宙を舞う。勢いもそのままに体を回転させ、回転蹴りを彼女の腹に、胸に、顔面にお見舞いする。


チャルカがたたらを踏んで後方に吹き飛ぶのをこらえた瞬間、両足を踏みしめ重心を固定しながら《スプラッシュ・インパクト》を放つ。一撃一撃が殺人的な拳にチャルカが両手を交差させて攻撃に耐える―――かと思いきや、その両手がみしり、という音を立ててひしゃげる。


ヘルズはさらに連打の速度を上げ、彼女の身体をめった打ちにする。チャルカの両腕が変な方向に曲がり、膝から崩れ落ちる。チャルカの身体が床に倒れる寸前、膝蹴りを腹に叩きこみ、宙に撃ちあげる。そのまま天井まで飛び上がると、一瞬だけ申し訳なさそうな顔をした。


「ごめんな、でもこれで終わりだから」


 呟くように言うと、シャンデリアを吊り下げていたワイヤーを回し蹴りで切断する。シャンデリアが重力に従って落下し、無防備なチャルカの背中にクリーンヒットする。チャルカはシャンデリアごと床に落下し、ぴくりとも動かなくなる。―――ヘルズの勝ちだ。


戦闘終了によって張り詰めていた意識が元に戻り、時間の錯覚も止まった。ヘルズはその場に腰を下ろすと、仰向けに寝転がった。


「疲れた・・・」


 満身創痍な上に、最後の必殺技を使ってしまったせいで、ヘルズの身体はボロボロだ。ヘルズの編み出した超必殺技、《昇華残影・演武輝夜》は、音速を超えるスピードで休みなく攻撃を繰り出すため、身体にとてつもない負担がかかるのだ。両足は剣の破片が刺さって血まみれだし、両手は《スプラッシュ・インパクト》のせいで半壊状態だ。


ボディーガードが一人で助かった、とヘルズは思う。これ以上誰かと戦えば間違いなく全身が吹き飛ぶ。


『ちょっとヘルズ、生きてる?』


 インカムから二ノ宮の声が聞こえる。ヘルズは何とか身を起こし、二ノ宮と通信する。


「ああ、何とかな。ただダメージが半端ない。次誰かに会ったら多分捕まる。二ノ宮、俺はどう動けばいい?」


『そうね。・・・こんなのどうかしら』


「悪いが早く言ってくれ。今は一秒でも時間が惜しい」


『分かったわ。―――――時にヘルズ、白馬に乗った王子様になってみる気はない?』


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