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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と文化祭
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エピローグ 自分の価値

今回で5章ラストです!

 校舎が倒壊した瞬間、ヘルズは姫香を地面に寝かせ、走り出していた。


「クソッ、面倒くせえなオイ!」


 校舎を壊したのはヘルズ達だ。そして校舎にはまだ人が残っている。ヘルズ達裏社会の住人のせいで善良な一般市民を殺すのはあまりにも忍びない。


「テロリストに襲撃されて校舎壊されて・・・今回の事件、一番の被害者は生徒じゃねえか!」


 生徒達に同情を抱きながら、ヘルズは崩れ落ちる校舎へ飛び込む。近くにあった教室に飛び込み、辺りを見回す。


「すでにあらかたの人間は避難したのか。ならそこまで被害者が出ることはないか。だが、まだ逃げ遅れた数人が居そうだな」


 スキル【気配察知】

 

 とは銘打って見たものの、取り立ててすごい能力でもない。半径200メートル以内の人間の気配を探れるだけの技だ。常時発動可能だが、『面倒くさいから』という理由で普段は使用していない物である。


「出血大サービスだ。スキルを全解放してでも、被害者は出さねえ」


 頭上に降ってきた瓦礫を難なくかわしながら、ヘルズは嘯く。


「俺みたいな腐り落ちたような外道が、前途ある一般市民様を巻き込んで殺していいわけないんだからな」


 外道。


 ヘルズは今、自らをそう呼んだ。


 そこに、どれほどの意味があるかは計り知れない。ただ、ヘルズがいつも通りの厨二病や酔狂で話しているのではない事は分かる。


「スキル発動。五分で片付ける」


 スキル【暗視】


 スキル【落下物無効】


 スキル【熱源探知】


 ・・・と、銘打ってはいるが、どれも名前通りの、常時発動可能なスキルである。これも先程のスキル同様、『面倒くさい』という理由で使っていない技だ。


「さて、と。探しますか」


 遭難者探索用のスキルを全て解放して、ヘルズは教室内を探す。その間も校舎の倒壊は続いているが、問題ない。スキル【落下物無効】が防いでくれる。


「しかし、こうして見ると俺も化け物だな」

 

 教室から教室へと移りながら、ヘルズは独り言を呟く。


「まあこれら全部、あのジジイから習ったんだけどな。探索用スキル、戦闘補助スキル、イカサマスキル・・・etc.ったく、どこのRPGだよ、どこのVRMMOだよ」


 スキル【熱源探知】のおかげで、教室内に人が居るかは一瞬で分かる。そのおかげで探索がスムーズに進むことをありがたく思いながら、ヘルズは次の教室へと渡る。


「お、ここは姫香の教室か」


 教室の入り口にバリケードのように積み重なっていた瓦礫を蹴り砕きながら、ヘルズは侵入する。スキル【熱源探知】が、教室内の人間の有無を確認する。


「反応なしか。・・・ん?」


 ふと見ると、担任の机の上に、日記のような物が置いてある。


「何だ、これ?」


 テロリスト騒動の渦中に誰かが落とした物だろうか。


 ヘルズはそれを手に取って、パラパラとめくる。それは、最近授業で行ったであろう、クラスの文集だった。否、正確には生徒が書いた文章が一つにまとまっている物だ。まるで卒業文集のようなそれに、ヘルズは思わず感嘆の声を上げる。


「へえ。最近の一年生はこんな物やるんだな」


 ヘルズは気になって、少し読んでみる事にした。瓦礫の上に腰掛け、ページを開く。


「まずは姫香からかな」


 こう言うときは、やはり知り合いからに限る。ヘルズは姫香のページを開いた。


『自分の価値


 皆さんは、今の自分についてどう思いますか? 好きですか、それとも嫌いですか? 私は、昔まで自分が嫌いでした。


 もう皆さんは知っていると思うので言いますが、私は両親から虐待を受けていました。殴られ、蹴られ、罵られ・・・暴虐の限りを尽くされました。どうして私はこんな目に逢わなければならないのだろう。そんな事を思う間もなく、親からの虐待を受け続けました。そんな自分が嫌いでした。弱い自分が嫌いでした。


 ですが、そんな私を肯定して、助けてくれた人が居ました。そうです、あの世間を騒がせている天才怪盗、ヘルズです。彼は空虚で無機質で何の価値もない私に、価値があると言ってくれました。そして、私をあの地獄から解き放ってくれました。


 私はその恩を忘れません。そしてこんな私を肯定してくれた人がいる以上、私は自分を好きになれるようにしていきたいです。


 今の話をしてからもう一度聞きます。皆さん、自分の事が好きですか? 好きな人もいるでしょう、嫌いな人もいるでしょう。


 ですが嫌いな人も、諦めないで下さい。いつか必ず、好きになれる時が来るはずです。私がヘルズに助けられたように、皆さんも誰かに助けられる時が来るはずです。人間は、助け合って生きています。その人にしかない価値が、必ずあるはずです。その価値を本当の意味で知ったとき、皆さんは必ず、自分を好きになれるでしょう』


 文章を一通り読むと、ヘルズは不敵に笑った。


「素人がなに一人前みたいに語ってるんだよ。ったく、世話の焼ける部下だぜ」


 その顔は、わずかだが明るい。


「人間は、一人では生きられない。誰かを助け、助けられる事で生きている。アイツの言葉だったな」


 ヘルズはそう言うと、上を向いた。特に意味があったわけではない、ただ何となく、懐かしむ動作をしたかっただけだ。


「虐待されてた悲劇のヒロインが怪盗に救われた・・・か。ハハッ、世の中そう甘くないな。そういうヒロインは、白馬に乗った王子さまが助けに来るって決まってんのにな」


 しかし姫香は、怪盗に救われた。


 厨二病で社会生活不適合者にして、人としての心と体を失い、鬼と化した青年、ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニングに。正義のヒーローや白馬に乗った王子が救い出す間も与えず、徹底的に。


 そのせいで彼女は、闇を知った。ヘルズが助けなければ知るはずのなかった、闇を彼女は知ってしまったのだ。それは虐待から救われる代償としてはあまりにも高くーーー酷い。


「姫香をこっち側に引き込んじまったのは、俺の責任だ」


 現実は、おとぎ話のようにはいかない。


 白馬に乗った王子など実在しないし、もし仮にいたとしても本当に助けてくれるかどうかは分からない。




 現実は非情で、残酷で。




 あるべき意味など、ありはしないのだから。



「かかっ」


 ヘルズはーーー嗤う。


 それは現実の非情さに対してか、はたまた姫香に起きた運命のいたずらに対してか。


 それとも、両方か。


「あれから二年かーーー」


 ヘルズが右手を伸ばし、虚空を掴む。特に意味はない、ただ何となくやってみたかっただけだ。


「現実なんざ意味がねえ。どうせ現実なんて非情で最低で陰湿で、俺にとっては何の価値もねえんだからな」


 ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニング。


 厨二病にして冷酷にして、心体ともに鬼となったその男は。


 静かにーーーそう言い切った。


「さて、と。せっかく一個読んで辛気くせえ話までしたんだ、もう少し読んでみるか」


 もはや被害者探しはそっちのけなヘルズ。完全にやる気を失っている模様だ。


「おっ、こうしてみると結構面白いのがあるな。くくっ、どれにしようかーーー」


 どうやら文集のお題は『自分の体験から言えること』のようで、失敗談や笑い話など、様々な物が載っていた。実体験である分現実味が涌き、これはこれで面白い。


「これはいいな。今度俺も仲間集めてやろうかな」


 パラパラ、と適当にページをめくる。その手が止まる。


「お、これ何か良さそうだな。どれどれーーー」


 何やら面白そうな文章を見つけ、ヘルズはそれを読み始める。その瞬間ーーーー









 ヘルズの表情が固まった。






「これはーーーー」


 ()()を見たヘルズの体が、緊張で強張る。


「まさかーーーー」


 瞬間。












 ヘルズの左腕が、刃物で斬られたかのように肩口からスパッと切り裂かれ、宙を舞った。

 

次回は12月25日更新予定です。

次回からは、ヘルズの過去編となります。お楽しみに!

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