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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と囚われの姫
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ヘルズvsチャルカ(前編)

 今回はヘルズとチャルカが戦います。

 屋上から屋敷内に入り、ヘルズは廊下を進む。しばらく進むと扉があったので、扉を開け中に入る。そこには体育館くらいの広さの広間があり、奥に一人の少女、チャルカが立っていた。


「よっ」


「久しぶり、主席」


 ヘルズが挨拶をすると、チャルカも剣を上げて挨拶をした。ヘルズは苦笑する。


「その主席っていうの、やめねえか? 主席だとか、そんな事は大した差じゃない。気にする方が馬鹿馬鹿しい。それにな、」


 ヘルズが一瞬ーーーー一瞬だが、遠い目をする。


「俺に、怪盗主席の資格はねえよ」


 その目には、どこかヘルズらしくない、憂いを込めた思いがこもっていた。


「そう。でもやめない」


 しかし、まるで話の流れを読むという物を知らないかのように、少女は剣を構えた。その目が丸くなる。


「主席、まさか丸腰?」


「今気付いたのかよ・・・まあお前らしいけど」


 ヘルズの呟きに、少女がムッとする。


「主席、まさか私の事馬鹿にしてる?」


「してねえよ。というかチャルカ、お前ボディーガードやってたんだな。言ってくれれば就職祝いくらい出したのに」


「・・・・私の事、覚えててくれたんだ」


「当たり前だろ。というか俺は第六期生を全員覚えてるぜ」


「・・・・主席っていう立場だから、私みたいな雑魚は覚えないのかと思った」


「そんなわけあるかよ。というかそれ以前に、俺とお前は友達だろ」


「そう。じゃあ始めよう、主席。どっちが強いか、いざ尋常に勝負」


 チャルカが再び剣を構えた。ヘルズも腰を落とし、構える。腰のホルスターから一般的な拳銃、ベレッタを抜き、上段に構える。


「ああ、勝負開始だ」









 チャルカが腰を落とし、ヘルズに突っ込んで来た。ヘルズは横に跳んでそれを躱す。避けながらヘルズは身を捻り、音速の回し蹴りを叩きこむ。チャルカはそれを剣で受け止める。


「いい反射神経だな、チャルカ!」


「主席こそ、いい回し蹴りだね!」


 足首を柔軟に捻り、剣を蹴って後ろに跳び退く。床に着いた瞬間、ベレッタをクイックドロウ。恐るべき速度で迫る鉛の弾を、チャルカは剣で防御する。それならばと、ヘルズは赤いボールを取り出す。すると予想通り、チャルカが目を見開きヘルズに突っ込んでくる。


「それ、危険。音がうるさい」


 片言の日本語と同時、ヘルズの頭上に影。ヘルズは床を転がって回避し、チャルカの落下位置を予測して、ベレッタを連射。チャルカはそれを冷たく一瞥すると、剣で自分を庇うようにしながら床に落下する。弾丸と剣のぶつかる金属音が、複数回鳴り響く。運の悪い事に、そのタイミングでベレッタのスライドが後退したまま止まり、弾切れを知らせて来る。


「クソッ、埒が開かねえ!」


 9㎜しかない弾丸を防御するとかどんな化け物だよと思いながら、ヘルズは特攻する。ベレッタをチャルカの顔に投げつけ、その死角になるように、掌打を撃ち放つ。


「《死角残樹ダークネスアッパー》!」


 しかし、チャルカは変わらず冷静な顔でベレッタを回避すると、ヘルズの掌打を剣の切っ先で受け止める。ヘルズの指先から血が迸り、苦痛のうめく。


「グッ!」 

 

 今度は足払いを掛けようとするが、チャルカはそれを軽く跳ぶことで避ける。攻撃が躱された事に気が付き、ヘルズは唇を噛んだ。とにかく一撃でも与えようと、がむしゃらに突きを繰り出すも、剣が邪魔で上手く攻撃出来ない。


(クソッ、攻撃に移れない!)


 単純な実力の勝負なら、ヘルズがチャルカに劣る事は無い。だが彼女は剣を持っているのに対し、こちらは丸腰だ。ヘルズとて超人ではない。剣で切られたら痛いし、辺りどころが悪ければ死ぬ。したがって、ヘルズは防戦一方を強いられる。もし焦って攻撃しようものなら、即座に剣の一撃をくらってゲームオーバーだ。


「攻撃しないの、主席?」


 彼女もそれを分かっているのか、あえて誘うような声で挑発してくる。


「はっ、調子に乗るなよ護衛女が―――」


 ヘルズはチャルカに接近すると、渾身の右ストレートを放った。彼女がそれを受け止めようとした瞬間、本命の後ろ回し蹴りを放った。チャルカはそれを剣で受け止める。〝フレイムロケットシューズ〟と剣がぶつかり、甲高い音を鳴らした。


「その靴、金属製なのね?」


 チャルカが、少し楽しそうな声色で聞いて来る。ヘルズは、悪戯を見つかった子供のようにニヤッと笑う。


「ああ。これならお前の剣をギリギリ受け止められるな。駄目だったか?」


「別に。むしろ面白くなってきて良かったわ」


「面白いのはこっからだ護衛女―――」


 ヘルズはチャルカが剣を振り上げた隙を狙って、一歩踏み込んだ。足の筋肉がみしりと音を立てる。


「《七連撃(セブンテス)―――》」


 チャルカが息を呑み、慌てて剣を戻す。だがもう遅い。


「《倍速刺突(コンプレッサー)!》」


 踏み込みと同時に放った七連撃の回し蹴りが、チャルカの身体を襲う。チャルカは六連撃を剣で受け止めるものの、最後の一撃をもろにくらい後方に吹き飛ばされる。


「かはっ」


 チャルカの身体が壁に叩きつけられ、剣が手から落ちる。ヘルズはその隙を逃さず、チャルカに肉薄すると、霞むような速度で拳のラッシュを繰り出す。


「《スプラッシュ・インパクト》!」


 一撃一撃が鋼鉄並みの威力を秘めた連打が、無防備のチャルカの身体に繰り出される。降谷すらも耐えられないその連打を、チャルカは――――、


 ガキィン、という音が、あり得ない場所から響き渡った。


「危なかった。主席が気が付いていなかったおかげで、何とか助かった」


 音が聞こえたのは、チャルカの右手からだった。ヘルズの攻撃を正面から受け止め、さらには握りつぶそうとしている。それにはさすがのヘルズも驚いた。


「おい、お前―――」


「気が付かなかったでしょ、主席」


 チャルカの掌底が的確にヘルズの心臓を捉え、ヘルズを吹き飛ばす。少女の物とは思えないその力に、ヘルズの思考が一瞬停止する。その隙を、チャルカは逃さない。


「さっきのお返し、受け取って」


 チャルカの拳が、ヘルズの腹に打ち込まれた。ヘルズの身体がくの字に曲がり、同時チャルカの蹴りがヘルズのこめかみに炸裂した。


「が、はっ!」


 自分の身体が吹き飛びそうになるのを、たたらを踏んでどうにかこらえる。続くチャルカの剣を、床に倒れる事でかろうじて回避する。


「もう終わり?主席、大したことないね」


 床に倒れるヘルズを見てチャルカが嘲笑する。ヘルズは床に倒れた態勢のまま床を蹴って天井近くまで跳躍すると、シャンデリアにぶら下がり追撃を防ぐ。


「どう主席、今の私の強さは?今の私なら主席に勝てるかも!」


 チャルカの言葉を無視し、ヘルズは叫ぶように言う。


「お前まさか、改造を受けたのか⁉」


 改造とは文字通り、自分の身体に機械手術を施して、自分の身体の一部を機械にすることだ。機械の身体は卓越した性能を誇り、数多くの戦闘を行う、一部の裏家業では大変重宝されている。

 この技術が主に戦闘に使われる理由は、大きく分けて二つある。


 一つ目は、やはり硬さの問題だ。人間の骨と鋼鉄では、やはり根本的な硬さに大きな差がある。戦闘において、硬い武器と柔らかい武器のどちらが多くダメージを与えられるかは一目瞭然だ。


 二つ目は、その性能にある。


 機械の身体には、『人体には絶対に行えない改造』が施されており、そのどれもが無類の強さを誇る。

その能力は常識の範囲外にまで及び、その全てを知るものはおそらく居ない。


 この二つの理由から、改造は大変重宝されている。だが、同時に欠点もある。


 それは、改造には自分の身体を差し出さなければならない事だ。人間の生体電気の流れや新陳代謝の都合上、改造の際には改造したい部分が無くてはならない。


 例えば『右腕』を改造したいなら、自分の右腕を事前に身体から外しておかなければならない。『右足』を改造したいなら右足を外しておくべきだし、全身を改造したいならば、心臓を除いた全ての肉体を切断しておくしかない。


 そんな違法にも近い実験に、17歳の女の子がおいそれと手を出していいものではない。


 それは、狂喜にも近い『強さを求める欲』があってようやく、踏み出せるものだからだ。


「ようやく気が付いたんだ。でももう遅いよ、主席」


 チャルカが足を肩幅に開き、剣を斜めに構える。ヘルズも構えようとするが、先ほどこめかみに受けた蹴りのせいでまだ平衡感覚が戻らない。


「・・・・・もらった!」


 ヘルズがよろめいた瞬間、チャルカが床を蹴った。床すれすれを駆け抜け、ヘルズに向かって剣を一閃する。


「くそっ!」


 ヘルズは靴底で剣を受け止める。足に力を込めて剣を蹴り上げ、がら空きになったチャルカの胴に渾身の肘打ちを叩きこもうとするも、機械の手で受け止められてしまう。


「私が改造したのは両方の手首から先。なんか『武器を使う力と命中率が上がる』らしい。剣を振るのがちょっと遅くなるのを除けば、とても便利な機能」


 チャルカが無機質な声で言い、剣と機械の手の二つでヘルズを追い詰める。剣を受ければ拳が、拳を避ければ剣が、と言った具合で、絶え間なく来る攻撃をヘルズは紙一重で躱し続ける。一秒でも止まれば即、ゲームオーバー。まさに綱渡りだな、と客観的に思う。その時、ヘルズの頬を剣がかすめ、頬を浅く裂いた。無感情だったチャルカの顔が、一瞬にして輝いた。


「やっと当たった!どうしたの主席、それが限界?さっきから逃げてばっかり、まるでウサギだね!」


 煙るような速度の剣がヘルズを襲う。ヘルズは慌てて跳び退き、呼吸を整える。


「やってくれるじゃねえか、クソッタレ」


「さあ来なよ、主席。今の私に勝てる敵は居ない」


 剣を構えなおし、チャルカがヘルズに言った。その顔にはもはや敗北への恐怖など微塵もない。あるのは勝ちを確信した、勝ち誇った笑みだけだ。


「今の貴方は満身創痍。さらに丸腰で、唯一使える武器と言えば、金属製の靴だけ。でもその靴もそろそろ限界。あちこちにひびが入っている。今の貴方に勝ち目はない。大人しく諦めて」


 チャルカが勝ち誇った顔で、けれども口調だけは無感情に、ヘルズに言い放った。彼女の言葉は全て事実だ。ヘルズに勝ち目はない。


「とでも思ってるから、勝てる勝負も負けるんだろうよ」


 ヘルズの負け惜しみのような言葉を、チャルカは鼻で笑った。


「この状況で、まだそんな事が言えるの?主席、ひょっとするとお笑いの才能あるかもよ?怪盗引退して、お笑い芸人になったら?」


「残念だが、俺は今の仕事に満足してるのでね。転職は遠慮しておくよ」


 ヘルズの憎まれ口にチャルカは勝ち誇った顔から元の無感情な顔に戻り、ヘルズに向かって一歩一歩歩いて行った。


「楽しかったよ、主席。大丈夫、師匠との約束で、私は貴方を殺さない。でも四肢を切断して、警察に突き出すことくらいはさせてもらう」


「はっ、そいつは物騒だな・・・」


 残りの距離が約一メートルになった時、チャルカはぼそりと呟いた。


「第六期怪盗、チャルカ。コードネームは『チャルカ』。いざ尋常に勝負」


 それは、彼らが本気を出す時に名乗る、異名コードネーム。本気を出す事を誓う、彼らの合言葉である。


 チャルカが無機質に床を蹴る。彼女の身体が前に押し出され、剣がヘルズの首筋に迫る―――。


 さながらそれは、死神が持つ鉞のようだった。


 いよいよ満身創痍に追い込まれ、武器は無し、敵は最強という、絶望的状況。ヘルズはこの状況をどう脱出する⁉次回、お楽しみに!

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