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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と囚われの姫
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動き出す怪盗、阻止する警察

 今回はヘルズが屋敷に侵入します。

 松林達が配置についてから14時間後。ヘルズは、花桐邸から二キロ離れたヘリポートに居た。とはいえヘリコプターは止まっていない。


『準備はいい、ヘルズ?』


「ああ、万全だぜ」


 二ノ宮の質問に、ヘルズは自信満々に答えた。ヘルズの足元には、大小様々な道具が並んでいる。全て、二ノ宮が作ったおもちゃだ。


『今回、上空は警察のヘリコプターが監視してる。かといって地上から入ろうとすれば、松林率いる愉快な警察達に捕まる。ここまではオーケー?』


「ああ、大丈夫だ」


 今回の盗みは、癒柚木美術館の比ではない。最近、格好つけて高所から侵入しまくっていたせいで、警察は完全に高所を固めている。その証拠に―――


「何で空一面に、警察のヘリがあるんだよ・・・」


 仕事を始めた頃は格好つけずにちゃんと地上からも侵入していたため、このように空だけをやたらと固められる事は無かった。今は文字通り空一面ヘリだらけだ。別名『ヘリの壁』と呼んでも差し支えない。というか、警察もたかが怪盗一人に総動員しすぎだと思う。


『あ、そうだ。降谷先生から悲しいお知らせを預かっていたわ』


「この後に及んで、まだ何かあるのか・・・」


 ヘルズがげんなりとした声で聞く。二ノ宮の苦笑した声が聞こえる。


『それだけ君の活躍が認められてるって事でしょ。降谷先生からの情報、言ってもいい?』


「ああ、いいぜ」


『どうやら向こうに、凄腕のボディーガードが居るらしいの。名前はチャルカ。半年前から裏家業に身を置いてるらしいんだけど、知ってる?』


 チャルカ、という名前を聞いた時、ヘルズの顔が強張った。返答の無いヘルズに、二ノ宮が声を掛ける。


『ちょっと、ヘルズ?』


 二ノ宮の言葉で我に返る。


「ああ、すまん。知ってるぜ、そいつなら」


『彼女のデータを調べても何の綻びも無し。裏家業に身を置いている人間にしては完璧すぎる。彼女、一体何者?』


「別に。会った時に通信が付いてたら教えてやるよ」


 ヘルズはあえて素っ気なく言うと、靴紐を結んだ。


「じゃあ行くぜ、二ノ宮。俺の異能を見せてやる」


『この特攻は、オリンピック選手が十回やっても九回失敗する代物よ。気をつけてね、ヘルズ』


 二ノ宮の言葉を、ヘルズは鼻で笑う。


「ハッ、怪盗とオリンピック選手の身体能力を比較するんじゃねえ―――」


 足元にある道具を全て懐に入れると、ヘルズは靴の横に付いているダイヤルを回した。そして、右腕に黒い長手袋を装着する。


「じゃあ行くぜ、二ノ宮」


『死なないでね、ヘルズ』


 二ノ宮のその言葉と共に、ヘルズはヘリポートから跳躍する。ヘルズの渾身の跳躍は常人ではあり得ない5メートルという絶大的な高さを叩き出し、――――瞬間、ヘルズの靴底から爆炎が噴出した。


『名付けて、〝フレイムロケットシューズ〟。ヘルズ、気分はどう?』


「ああ、最高だな!」


 爆炎によって、空中にあるヘルズの身体がロケットのように撃ちだされる。高さはおよそ50メートルといった所だろうか。流石にヘリコプターの運転手も気が付いたようで、ヘルズを指さし口々に何かを言っている。


「聞こえねえな!」


 ヘルズが叫ぶと同時、靴底からの爆炎が停止する。燃料切れだ。ヘルズは自分の身体が落下を始めた途端、伸縮性の素材で編んだマフラーを振るった。マフラーが一台のヘリの水平安定板に絡まり、ヘルズの身体を引き寄せる。助手席に乗った警察が拳銃を手に何かを叫んでいるが、ヘリのローター音で掻き消される。


「さあ、ショーの始まりだぜ!」


 ヘルズが叫ぶと同時、右腕に嵌めていた手袋に異変が起こった。ガチャン、という音とともに材質が変化し、黒のガントレットになる。


『私の最高傑作の内の一つ。名付けてーーーーー』


「”漆黒の重力蹂躙“(グランディスガントレット)!」


 ヘルズがマフラーを巻き取りながら叫ぶ。転瞬、ヘルズの体が下に向かうーーーーーが、数秒後、見えない壁にぶつかったかのように、その体が止まる。


「お前らに一つ、面白い物を見せてやる」


 見えない地面に支えられたまま、ヘルズが大仰に手を振る。ヘルズが落ちていない事に気がついたのだろう、警察達は驚きながらも拳銃を構え、ヘルズに発砲する。


「ハッ、ご苦労なことで!」


 ヘルズはそれを笑い飛ばすと、見えない地面を蹴った。そして勢いもそのままに空を飛び続ける。


「なッ・・・・」


 驚いたのは警察だ。何せ怪盗が急に現れたと思ったら、前代未聞のマジックを披露しているのだ、警察でなくとも驚くだろう。


「おいおい、その程度かよ! 警察の意地はどこ行った⁉」


「くそっ・・・・!」


 犯罪者に挑発され、警察の怒りに火がついた。撃鉄を起こすと、次々にヘルズに発砲し始めた。中には、ショットガンを使う者まで現れる始末だ。


「いいぜ、どんどん来いよ!」


 上下左右、全方向から繰り出される弾丸の雨を掻い潜りながら、ヘルズは獰猛に笑った。ガントレットを操作して飛行速度を調整し、安全地帯に潜り込み、尽くせる手を尽くして警察の猛攻を避け続ける。


「ははっ、やっぱ空を飛ぶのは気持ちがいいな!」


 そう言って自分で空を飛べない警察を煽ると、ヘルズは飛行速度を上げた。風がより一層ヘルズの体を叩き、思わず腕で顔をかばう。


 その時、ヘリの間から、姫香の家の屋上が見えてきた。ヘルズは飛行速度を僅かに落とすと、インカムで二ノ宮と通信する。


「あともう少しで抜けられそうだ! このまま突っ込むか?」


 ヘルズの提案に、二ノ宮は否定を示す。


『いいえ、それは無理があるわ。多分着地した瞬間、ヘリの一斉射撃で蜂の巣になる。ーーーーーそうね、まずどれでもいいからヘリに掴まって。そうしたら後はブランコの要領で飛び移るわよ』


「それ、成功するのか⁉」


『普通じゃ無理ね。でも君は普通じゃないでしょ。なら成功するかも知れないわよ!』


「怖い信頼だな、おい!」


 愚痴を言いながらも、やるしかない。ヘルズは首に巻いていたマフラーを振ると、ヘリの一台に絡みつかせた。そしてガントレットの能力を解除し懐から白いボールを出すと、姫香の家の屋上に放った。ーーーーー万が一の時の保健だ。白いボールは屋上に着弾するやいなや展開し、姫香の家の屋上に大きな蜘蛛の巣を作り出した。


『今よ、ヘルズ。ここを逃したら、もう後がない!』


「分かってる!」


 ヘリの機体を支点として、ヘルズは身体を前後に揺らし始めた。マフラーがブランコのように前後に揺れ始める。ある程度まで行った所で、ヘルズはマフラーから手を離し、蜘蛛の巣に飛び移った。蜘蛛の巣がヘルズの重みで沈み込むが、どうにか耐えきる。


「ミッションクリア。後はマフラーを回収するだけだ!」


 ヘルズは指の間に挟んであった強力なピアノ線を引いた。ピアノ線に引かれ、マフラーが手元に戻って来る。それをキャッチし、ヘルズはニヤリと笑った。


「さあ、お宝を盗みに行こうか」










『報告します!ヘルズと思われる男が、ヘリ数台墜落させて、『ヘリの壁』を突破しました!現在そちらに向かっています。警戒してください!』


「分かった。聞いたかお前ら、ここからは少しも気を抜くな。少しでも物音がしたら言え。ヘルズがこの屋敷のどこに居ても捕まえるぞ」


「はい!」


 無線機で報告を受け、松林達の顔に力がこもる。皆、どこか落ち着かない様子だ。


「ったく、気合入り過ぎだっての。これじゃ盗みがやりづらくてしょうがない」


 その声は、突然聞こえた。部下たちが一斉に拳銃を抜く。だが、音源が特定できない。拳銃を抜いたはいいものの、どこに拳銃を向ければいいか分からず、部下たちは右往左往している。


「みんな、落ち着け!慎重に、音源を特定しろ!」


 松林が大声で指示を出す。それを見て、一人の部下が吹き出した。


「どうした、なにがおかしい?」


「いや、これだけ警察が居てよく誰も気が付かなかったな、と思っただけだよ」


 部下はどこからか眼帯を取り出すと、自分の片目に装着した。その様子を見て、松林は腰を落とした。


「ヘルズ貴様、まさか俺の部下に化けているとはな。おのれ、今日こそ捕まえてやる!」


「訂正が一つある」


 部下、いや降谷は、指を一本立てて左右に振った。


「俺はヘルズじゃねえ。ただの協力者さ。今回はお前らがあまりにも愚鈍だったんで、ヘルズの象徴である眼帯を付けて自分から正体を明かしてやったに過ぎない」


「そんな事はどうでもいい。犯罪者の協力者ならそれは犯罪者も同じ事。おいお前ら、コイツを捕まえるぞ!」


「おおおおおおおおおおおっ!」


 松林の合図で、部下たちが一斉に降谷に跳びかかる。降谷はそれを躱すと、掴みかかってくる部下を一人一人さばいていく。次々とカウンターを放ち、気絶させる。最後の部下が倒れると、自然と降谷は松林と対峙する形になった。


「今回のオレの目的はお前ら警察を全員無力化させることだ。結構時間がかかるかと思ったけど、これなら余裕だな」


「貴様、よくも部下たちを!」


 松林が降谷に向かって走り、右ストレートを繰り出す。足の運びも、重心移動も単調。単に怒りに任せて殴っているだけ。降谷はつまらなそうにそれを片手で受け止めようとし


――――、失敗した。


「ぐっ!」


 降谷の身体がよろめき、重心が傾く。そこに松林は全力の蹴りを見舞った。降谷の身体が紙屑のように吹き飛ばされ、床に叩きつけられる。降谷は立ち上がると、バックステップで距離を取った。そして思う。


―――重い‼


 そう、松林の攻撃は凄まじく重いのだ。まるで岩石で殴られているかのような感覚だ。どう見ても普通の身体能力ではない。この身体能力は間違いなく、ヘルズや降谷の身体能力と同等、いや、それ以上だ。


「おい、松林」


「犯罪者が気安く名前を呼ぶな。で、何だ?大人しく投降すれば痛い目に遭わなくて済むぞ」


「それは別に構わないさ。―――お前、どうやってそんなに強くなった?」


 先ほどとは違う、真剣な態度で降谷は聞いた。


「貴様には関係ないだろう。で、投降する気はないんだな」


「当たり前だろ。スパイのオレに、投降の二文字は無い」


「そうか。なら全力で行くが、死ぬなよ、犯罪者」


「ああ、かかって来い」


 次の瞬間、二つの影が音速でぶつかった。


 次回、ついにチャルカとヘルズがぶつかります!ぜひお見逃しなく!

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