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第1話 アホで愉快な仲間たち

 紫の怪しげな光が月から放たれ、夜の帳が降りた世界を照らす。

 彼ら12人のプレイヤーは紫の月灯りの下、森林地帯を疾走していた。

 《躍動の森》――ゲーム時代では《密林》と呼ばれていたその森の中で、至る所にある木々や土、根や葉から妨害されるも、その悉くを躱して先へ進む。

 110レベルが最高であるこのVRゲームでは、特に影響されるのがプレイヤースキルだ。

 様々な種族、様々な職業から好きなものを選び、好きな装備を身に着けて遊ぶ事のできるMMORPGである。

 しかし――、このゲームには抜け穴があった。

 様々な職業から二つを選び取れるシステムなのだが、それらのスキルを使わずに戦闘行為を行い、敵を撃破すると能力値が大幅に上昇する。

 ゲーム開始当初はもちろん、まともなスキルなど得られない。そのため、スキルを使わずに戦闘行為を行って敵を撃破することは日常茶飯事ではあった。だが、最初はそういうボーナスがあるのだろう、とどうしても判断してしまう。

 本来であれば抜け穴でもなんでもない。けれども、他人から見るとチートツールを用いていたりするように見えてしまっていた。

 それに、最初だからこそ、初心者だからこそ気付けないことも数多くある。

 このゲームにおいて、スキルを使用するとゲームアシストが働き、プレイヤーキャラクター本来の能力が上昇されない傾向にある。当然、レベルが上がれば上昇するのだが、スキルを使わずに敵を倒せば、敵を倒す度に能力値が大幅に上昇するのだ。

 単なる気付き。

 されども、それに気付く者はとんでもなく少なかった。

 気付いたとしても、スキルなしの戦闘行為は時間がかかる上、スキルを使わなければ攻撃できない職業もあるため、どうしてもスキルは使用してしまう。

 ――はずなのだが、この12人は一切のスキルを使わずに、1レベルから110レベルまで育て上げていた。

 故に――、彼らの能力値は一般的な110レベルと比べれば、全ステータスにおいて数倍以上の差が生まれている。

 証拠に、推奨レベル100レベル以上の地域である《躍動の森》の妨害にただの1つも引っかからず、誰ひとり欠けることなく疾走しているのだ。

 もちろん、種族も職業もバラバラである。

 そのばらつきによってステータスに個人個人の差は開いているものの、レベルアップ時に得られる能力値上昇はポイント振り分けであり、敵を倒した際に上昇する能力値は種族と職業に依存して自動的に振り分けられていることから、全てのステータスが一定を保っている。

 ……とはいえ、戦士職にINTなど大して必要ないし、アサシン系職業にDEFなど大して必要ないことから、ここにいるメンバーは本当に最小限しかそれ系の能力値は上げていなかった。

 だからこそ、最低値の者に合わせて疾走しているのだが……それでも一般的な進度に照らし合わせても2倍は早いだろう。


「よっしゃ、そろそろ抜けんでぇ!」


 先頭を走るアサシンの青年が声を張り上げ、続く仲間へと知らせた。

 彼の靴の裏には塗料が付着してあるのか、踏んだ位置には薄らと緑に光る足跡を残している。スキルを使っていればそのような面倒をする必要はない。アサシンのスキルである《足跡》を使えば事足りることであるからだ。

 だが、このメンバー内に、この紫の月灯りの中まともに視界を有せるものなどアサシンの職業に就いている彼――仁志ひとし以外は皆無である。

 とはいえ、《足跡》のスキルを使えば縛りプレイではなくなってしまう。

 そう、偶然。本当に偶然、このようなチートな能力値を手に入れたに過ぎない。

 彼らのリーダー的存在である聖騎士の職業に就いている龍樹たつきは縛りプレイが好きで、何よりの大好物。リアルでゲーム仲間を集めてサービス当初からずっとやり込んでいるこのゲームでは、スキルを取りはしても使ってはいけないというルールを自らに課し、仲間にもそれを求めたのだ。

 魔法職に就いた者は杖で殴り、モンスターを狩る。魔法はスキルだ。使えない。

 騎獣職に就いた者は職業制限のない武器で殴り、モンスターを狩る。騎獣を召喚しようにもそれはスキルだ。使えない。

 そう言ったことから、仲間から不満は溢れた。

 そして遂に、初めてボス戦にて、彼らは知った。限界というものを。幾ら数倍以上の能力値を手に入れても、所詮は通常攻撃。スキルを使った攻撃には勝てないのだと。

 しかし、そうは言っても、スキルを使った一般人と彼らの通常攻撃は同じ攻撃力なのだが。

 なかなか倒すことのできないボスに対し、龍樹は言った。


「……ボス戦はスキル解禁な!」


 そう言って、一番初めにスキルを使ったという。

 なんとも自由気ままなギルドマスターだ、と彼らは思った。

 しかし、スキルを使えばあら不思議。

 1人が攻撃するたびにHPバーが一本なくなり、5人が攻撃すれば倒せてしまった。

 全員が同時に、ああ、これはダメだ、と思い、それ以降、スキルは大ボス――HPバーが10本以上ある相手に限り解禁するということとなった。

 そう言った経緯もあり、現実となったVRMMORPGソフト【遥かなる冒険のその先へ】内においても、ゲーム時代と同じであるかどうか、《躍動の森》のエリアボス【ジャイアントマンドラゴラ】を討伐しに来ている。

 現実となってから僅か数時間。《躍動の森》に侵入して僅か数十分。彼らは、《躍動の森》最奥へ侵入するための転移門の眼前に着地した。


「はぁ~。ようやっとここまで来たんか」


「そうやなぁ。さっさボス倒そ」


 やっと、とため息を吐きだす女プレイヤーである美月みつきに、同じく女プレイヤーである林檎りんごが頷いた。

 実に気軽に、足並みを揃えて転移門を押し開ける。

 中には幾何学的な紋様が描かれた魔法陣が書かれており、それを起動させるためのアイテムを中心に設置した。


「現実んなったこのゲームで、俺らの――ギルド、【アホで愉快な仲間たち】最初のボス戦や。気ぃ引き締めて行くで」


「俺らのってか、この世界最初の挑戦者やろ」


「そらせやな」


 楽しく明るくをモットーに笑いながら、12人というギルド構成に必要な最低人数で結成された【アホで愉快な仲間たち】は、光に包まれてその姿を消した。同時に、中心に置いたアイテムはポリゴンとなって消え去っていく。

 世界に点在する魔神の一角を、いま、世界最強の集団が倒す。たった数秒で。

 ――それが、地獄の窯を開けることになると……彼らは知らなかった。


息抜きに。

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