9 栄養ドリンク
フィナを買ってから1週間程が経過した。
まだ1週間ともいえるが、その割には随分と打ち解けた気がする。
「よし、フィナ。今日も一日頑張るぞ!」
「はいっ! コウヤ様!」
2人揃って栄養ドリンクの蓋を開けると、腰に手を当てそれを一気飲みする。
うむ。やはり、労働前にはこれを飲むに限る。
最近では、仕事の開始前にこれが日課となっていた。
「あのコウヤ様。今日は私にリアカーを引かせてくれませんか?」
暗い金色のツインテールを左右に揺らしながら、フィナがそんな進言をする。
「……結構重いぞこれ? 流石に無理じゃないか?」
この1週間、きちんと3食栄養のある食事を摂っていたせいか、ガリガリにやせ細っていた身体は驚く程に健康さを取り戻していた。
歩くのさえ辛そうに見えたあの頃と比べれば、別人のような姿だ。
纏う服装もボロ布から、新品の日本製の子供服に変わっている。
流石に小柄な体格までは変わっていないものの、肌の艶や浮かべる笑顔は、13歳の少女相応のモノになってきたように思う。
「多分、大丈夫です。最近なんだか凄く力が付いた気がするんです」
いくら健康になったとはいえ、フィナはまだ13歳。
しかも年齢の割には小柄だ。
正直無茶だろうとは思ったが、本人がやりたいと言っているのだ。
とりあえず好きにさせてみることにする。
……危険そうなら、すぐに助けに入れるよう準備はしておこう。
「行きます!」
塩や香辛料などの商品を満載したリアカーは、並みの成人男性でも引くのは苦労しそうな重量だ。
フィナの細腕ではまずマトモに動かせないだろうと傍観していたが、予想外の事態が起こった。
「あ、意外と軽いですね」
目の前には、軽々とリアカーを引いて歩くフィナの姿があった。
……どういう事だ?
「フィナ……、おまえドワーフの血とか混ざってないよな?」
ドワーフは、ヒューマンと比べてかなり強い腕力を有する種族だ。
反面、その平均身長はヒューマンと比べてかなり低めだ。
「いえ、私は純粋なヒューマンのはずです。父も母も普通のヒューマンでしたから」
「そうか……。だがじゃあ、どうしてそんな力があるんだ?」
「もしかすると……」
「何か心当たりがあるのか?」
「は、はい。コウヤ様に毎日頂いている栄養ドリンクという飲み物ですが、あれを飲むとなんだか全身が塗り替えられるような不思議な感覚になるんです」
「ふむ……」
俺も一緒に同じものを飲んでいるが、特に何も感じなかった。
ただ、日本製の軟膏で妙な現象が起こった以上、栄養ドリンクでも似たようなことが起こる可能性はあると考えた方がいいだろう。
とはいえ検証するには、まだ情報が不足している。しばらく様子を見ることにしよう。
何にせよフィナが、リアカーを楽に引けるのならそれは俺にとって助かる話だ。
ここは素直に喜ぶことにしよう。




