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89 最後の選択肢

 爺発案による世界間ゲートの開通準備を始めてから、既に半年の月日が流れていた。


 地球の方では、俺が掲示板でお願いした魔石探索の件がかなりの大事へと発展していた。

 どういう話の経緯でそうなったのか俺も良くは知らないのだが、スレ主である俺と、爺こと南宮白夜の関連性について何故か騒がれ始め、結果、国連が動く事態にまで発展したようだ。

 それもあり、政府がついに斉藤さん達の存在に気付いてしまったらしく、結果、国会で証人喚問されたりなんだりで、彼らも大変な目にあったようだ。


「我々自体は、白夜様に受けた依頼をこなすだけの、ただの一般人なのですから、正直参りましたよ」


 そんな風に斉藤さんに愚痴られたりもしたが、俺は苦笑を返す外なかった。


 ――せめて報酬にはなるべく色を付けることにしよう。


 ただまあ、色々横やりはあれど、魔石捜索自体は順調にいっているそうだ。

 爺から情報封鎖の解除を許可された事で、彼らも大っぴらに活動が出来るようになったらしい。

 現在では大量のアルバイトを雇って、人海戦術で頑張っているらしい。


 一方でこちらの世界での準備状況だが、ナイトレイン達は大分苦戦しているようだ。

 全域が"魔物の領域"と化している、魔大陸ラオブボーデンでの作業がどうも難航しているらしい。


「息子をどうにか説得して、魔王国からも人員を割いて貰ってはいるが、まだ人手が全然足りないな……」


 打ち合わせの為、顔を合わせたナイトレインがそんな事を言っていたが、その表情にはどこか疲れの色が見えていた。


「冒険者ギルドに依頼してみるのはどうだ? 大迷宮の情報と引き換えなら、動く連中も多いんじゃないか?」


 既に最深部まで攻略済みなので、そこまでの地図は大体完成している。

 深層の情報を小出しにして釣れば、冒険者達を長く使う事が出来ると思う。


「なるほど。検討するとしよう」


 そんな訳で、足りない人手は冒険者達によって充足出来たのだが、俺にとって少々計算外の出来事があった。

 フィナ達までが、それに参加するというのだ。 

 魔大陸は、大迷宮以上に未開の地だ。その分危険も大きい。

 一応反対はしたのだが、感情論以外に明確にそれを制止する理由を持たなかった俺は、結局彼女らに押し切られてしまった。

 


 それから更に半年程が経過する。


 斉藤さん達の作業は順調に進み、地球側の準備は粗方完了したらしい。

 その成果の影には、世界各国のネット民たちの協力があったようだ。

 俺はスレに降臨し、改めて彼らにお礼の言葉を述べたのだが、その書き込みが俺本人だと証明する為に動画を上げた途端に、ヤバいくらいにスレが加速しカオスな状況に陥った。

 その後結局、収集が付かなくなったそのスレから、俺は逃亡を余儀なくされたのだった。

 ちなみにその時のスレッド番号は4桁に達していた……。


 ナイトレインの方も、冒険者の大量雇用の甲斐もあり、作業の方は順調に進んでいた。

 その間、俺は各所の作業進捗の管理に追われていた。

 アルのファレノ商会関係者や孤児院の子供の一部にも手伝って貰い、各地から集まる情報を整理していた。

 俺もPCを駆使して、情報整理に一役買っていた。


「コウヤ。その魔法具、うちの商会にも譲ってくれないか?」


「……構わないが、言葉が読めないと思うぞ?」


「ううっ。……それでも構わないから、頼むよ」


 そんな訳で、Mitsurinで購入したPCを彼らに売る事になった。

 ファレノ商会は俺との取引により、気が付けば大陸でも有数の大商会となっていたので、代金は吹っかけてやった。

 勿論、そんな彼らとずっと取引していた俺にも、眩暈がするような額の貯金が出来ていた。

 もはや使い道に困るレベルだが、まあ無いよりは有り過ぎた方がマシだろう、多分。


 そして遂に今日、ナイトレインが連絡があった。


「この作業ペースなら5日後には、準備が一通り完了する予定だ。ビャクヤにもその旨連絡を頼む」


 下準備が完了すれば、あとは爺の仕事だ。

 俺もその際に、地球側の斉藤さんに指示を出したりする必要があるので、まだやる事は残っているが、それでもようやく終わりが見えた事に、正直ホッとした。


「さて、もうすぐだね。だけどその前に。コウヤ、一つ言っておく事があるんだ」


 俺が連絡を入れると、爺はすぐさま飛んで来て、神妙な顔つきでそんな事を言い出す。


「なんだ藪から棒に?」


「以前、僕はゲートを開いた場合にも、地球側への影響はほとんど無いって伝えたよね?」


 世界間ゲートでこの世界と地球のある世界を繋げた場合、大量の魔力があちらへと流れ込むことになる。

 ただそれでも、濃度的には人体への影響などはまず無いレベルで収まるのだそうだ。

 そして、大量の魔力があの世界に存在することになっても、もともと魔法への適正を持たないあちらの人間では、特に何が出来るようになるという訳でもないらしい。


「ああ、確かにそう聞いたな。だからこそ、俺は反対しなかった訳だし。……実はそうじゃないとか、言い出さないよな?」


 魔力を流し込むことで、あちらの世界に大きな影響が出るとなれば、流石に俺も色々考えた筈だ。


「まさか。その言葉に嘘はないよ。……だけどね、実は開くゲートの仕様は、僕の一存である程度調整が効くんだ」


「どういう事だ?」


「ゲートの仕様次第では、2つの世界間を、魔力だけでなく人間が行き来することも出来るようになるってことさ」


「……何が言いたいんだ?」


 驚きの事実ではあるが、それを俺に言ってどうなるというのだろう。

 爺の意図がイマイチ見えない。


「僕はね。それをコウヤに決めて欲しいと思ってるんだ。このまま2つの世界は分断されたままにしておくか。それともゲートを繋ぐ事で、交流を持てるようにするか……」


「何でだ?」


「……まあ、僕もこれでも悪いとは思っているってことだよ。コウヤの意思を確認せずに、この世界に連れて来た事について。だからさ、コウヤに任せるのさ。選択次第では、また日本に帰る事も出来るよ?」


 最後の最後で、なんとも難しい問題を丸投げしてくれるもんだ。


「まあ、もう少しだけ時間はあるから、考えておいてよ。……ただ僕はどちらを選択しようとも、コウヤの判断を支持するよ」


 それだけ言い残して、爺は去って行った。

 やれやれ、また考えなければいけない事が出来てしまったようだ。


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