83 神々の住まう地
光の柱の中へと入ると、転移門を潜った時と似たような感覚に襲われる。
そして次の瞬間には目の前には、一面真っ白な空間が広がっていた。
同時に、何か身体に纏わりつくような感覚に襲われる。
……ここは魔力濃度がかなり濃いのか?
「待っていたよ」
声の方へと視線を向ければ、30前後の渋さと若さが同居しているような雰囲気を持つ男性が、そこには立っていた。
その両隣りには、2人の女性が控えている。
そしてそのうちの片方の姿を、俺は見た事があった。
長い蒼髪と特徴的な赤と黒のオッドアイ。彼女は女神ステラシオンだ。
となると、もう1人はその姉の女神ステラルーシェか?
どことなく顔立ちが似ているし、多分そうだろう。
「……ああ、彼女たちはただの付き添いだよ。こちらからは、特に君たちの危害を加えるつもりは無いので、警戒を解いて欲しいな」
そう言われて、本当に解く馬鹿はそういないだろうが、表向きは戦闘姿勢を解除して見せる必要があるだろう。
俺は手に構えた剣を下ろし、脱力して見せる。
「まあ、立ち話もなんだ。お茶でも飲みながら、ゆっくり話をしようか。何せ時間はいくらでもあるのだからね」
その言い様に、なんとなく皮肉めいたものを感じるが、黙っておく。
その男性の案内され、俺達は応接室のような場所へと案内された。
「……神々の住まう場所と聞いていたから、もっと神秘的な場所をイメージしてたんだが、案外普通なんだな」
カラーリングが白で統一されているという以外は、新築のオフィスビルのような造りをしている。
「お望みなら、そういう場所に案内してもいいけど、不便なだけだよ?」
俺がイメージするような神殿めいた場所では、多分利便性は低いのだろう。
神々が利便性を追求する事自体が、俺としては予想外ではあるのだが。
「まずは軽く自己紹介をしようか。僕は星の管理者シンシ。後ろの2人は、知っている人もいるかもだけど、女神ステラシオンとステラルーシェだよ。ああ、君たちの事は、既に知っているので紹介は不要だよ」
俺達が返答する前に、先回りするようにしてそう言うシンシ。
それに対し「あなたがシンシ様なのですか……」とリーゼが小声で呟いている。
「さてと、一応だけどまずは用件を窺うとしようか」
ソファーに腰掛けた俺達へと、シンシは問い掛ける。
「では、まずは訊かせて欲しい。神々は、我らの世界を一体どうしたいのだ?」
ナイトレインはその言葉を口火として、語り始める。
大陸の管理者である筈の女神ステラシオンやステラルーシェの横暴、魔大陸全土が"魔物の領域"と化した特異現象。
神々にこの世界をまともに統治するつもりがあるのかどうかを疑問に思っているようだ。
と同時に、わざわざ神々の世界への通行口を大迷宮に造った事にも不信感を抱いているようだ。
「やれやれ。君たちはそんな事をしていたのかい?」
シンシは、後方に控える2人の女神にそうジロリと視線を向ける。
どうやらシンシの方は、2人が大陸の国々をゲーム盤のようにして遊んでいたことは知らなかったらしい。
「だ、だって退屈で……。それに姉さんが……」
「この馬鹿が、挑発してきたから……」
お互いに相手のせいだと、責任の押し付け合いをしている。
顔は美人なのに、醜い奴らだ。
「はぁ、まあ、その事については、彼女たちの上司として、僕からも謝罪しよう。すまなかったね」
あっさりとシンシが頭を下げるが、それで終わりという訳にも行かないだろう。
「いいえ、それだけでは足りません! わたくしは、彼女たち2人の首を要求致します!」
もともと一番、女神の横暴に怒りを抱いていたリーゼがそう叫ぶ。
乱暴な要求だが、彼女達がやって来た事を考えると、妥当なのかもしれない。
大迷宮を攻略し、神殺しの力を得た俺達ならば、殺せる筈だ。
「ふむ。だそうだけど、どうする2人とも?」
「べ、別に私は構いません、よ?」
「それでシンシ様が怒りを鎮めて下さるのなら……」
意外な事に、2人はあっさりとその要求を受け入れる旨を発した。
「だそうだ。上司として、僕も許可を出すとしましょう。さあ、どうぞリーゼ嬢。この2人の首を刎ねて下さい」
変な方向へと、話がトントン拍子に流れていく。
リーゼ自身も、こうもあっさり行くとは思っていなかったのだろう。
少し後退りをしている。
「わ、わたくしがやれないとでもお思いなのですか!? 随分と舐められたものですね……」
だが、自分の死を前にして、まったく表情を変えない女神2人に業を煮やしたのか、リーゼがそう叫び剣を構える。
「お覚悟下さい!」
リーゼが神速の剣閃を放つ。
女神2人の首を横切る線が走り、2人の首が飛ぶ。
それに僅か遅れて、2人の肉体が地面へと倒れた。
「はぁ……はぁ……」
無抵抗かつ無反応な人間の首を飛ばす経験など、初めてなのだろう。
リーゼがかなり疲れた様子を見せる。
「さてと、これで満足かな? リーゼ嬢」
「そ、そうですね……」
「だそうだよ?」
淡々とした口調でシンシがそう言った途端、床に転がっていた2人の首が浮かび上がり、肉体もまた操られたように立ち上がる。
「なっ!?」
俺達が驚きに目を見開くが、シンシの表情に変化は無い。
やがて首と肉体が求めあうように繋がり、女神2人が傷一つ無い姿でそこに立っていた。
「ひ、久しぶりだったので、ちょっとびっくりしました」
「長く味わって無かったから、こんなささいな刺激でも悪くないように感じられるわね……」
何事も無かったように、女神2人はそう呟く。
「おい。どういう事だ、これは?」
声も出ない様子のリーゼに代わり、俺がシンシへと問い質す。
「首が飛んで死に、蘇生した。それだけの事さ」
「どういう事だ? 大迷宮を攻略したら神殺しの力を得られる。あんたがリーゼにそう言ったんじゃなかったか?」
以前リーゼに聞いた話ではそうだったはずだ。
「それなんだけどね。君たち100層のガーディアンを倒さずにここに来てしまったよね?」
俺達が100層に到着した際、爺がガーディアンらしき巨大なゴーレムを倒していたのを思い出す。
「あれがちょっと不味くてね。正常に神殺しの力を君たちに付与するのに失敗したみたいなんだ」
「てことは何か? 俺達の努力は無意味だったってのか?」
これだけ苦労してここまで来て、それは無いだろう。
「いや、そう言う訳じゃない。その事自体は、僕がちょっと手を加えるだけで解決する些細な問題だよ」
「じゃあ、それを最初に言えよ!」
「勿論それも考えたんだがね。ちょっと君たちに冷静になる機会を与えようかと思ってね」
これも僕なりの謝罪の気持ちなんだよ、とシンシは肩をすくめる。
「リーゼ嬢も一旦目的を遂げた事で、僕の話を冷静に聞ける態勢になったと思うんだが、どうかな?」
「……そうですね。大分落ち着きました。お気遣いありがとうございます」
若干疲れた表情でリーゼがそう述べる。
「では、改めて僕から神々の事情を話すとしよう。それを聞いた上でどうしたいか、良く考えて欲しい」
シンシがそう前置きしてから、語り出す。神々の抱えた事情を。
いよいよこのお話も完結まで後9話となりました。
チェック作業はまだですが、一応最後まで書き終えてますので、エタる心配は御座いません。
ここまでお読み頂けた皆さまには、最後までお付き合い頂けたらなと思います。
完結前に、新作の連載を開始する予定なので、そちらの方にもお付き合い頂けたら幸いです。
開始前には、また改めて告知致します。




