82 茶番
爺との戦いが始まって、半日ほどが経過した。
「はぁぁ!」
ナイトレインが、魔力剣を持って斬りかかる。
「……まさか、こんな手で来るとはね」
ナイトレインの攻撃を捌きつつも、爺の視線はずっと俺の方へと向いていた。
その表情には色々な感情が入り混じっているように感じられる。
◆
戦闘を開始して暫くのうちは、爺一人に対し俺達は9人全員で挑んでいたのだが、誰一人としてロクに奴を捕える事が出来なかった。
一人に対し余り多くの人数で掛かっても、互いの動きが邪魔になり上手く連携が機能しないためのようだ。
そこで俺たちは途中で作戦を変更する。2チームに分けて別々に戦いを挑む事にしたのだ。
チーム分けは、いつものメンバーとナイトレイン組で分けている。この組み合わせが最も連携を発揮出来るからだ。
それは功を奏し、多少爺を本気にする事が出来たが、それでも大したダメージを与える事は出来ず、それもすぐ魔法で回復されてしまう。
だが、別にそれで良かった。
俺の真の狙いは別にあったからだ。
そして現在。
ナイトレインたちが爺と戦う一方、残された俺たちは休息を取っていた。
「ねぇ、君たち。真面目な戦闘中に、そういう事するのは、人として流石にどうかと思うんだけど?」
ナイトレインたちの攻撃に対処しつつも、若干怒りの色を滲ませた爺が俺へとそう言う。
「はぁ。ちょっと静かにしてくれないか? コーヒーが不味くなる」
俺はMitsurinで注文したリクライニングソファに深々と身体を預けつつ、爺に対しそう返事をする。
他の連中も、床に敷いた布団の上でゴロゴロしたり、読書に耽っていたりしている。
エイミーだけはなんか肩身が狭そうに、結界の隅で縮こまっているが。
俺達のあまりに挑発的な行動に、爺の眉間のしわが深まる。
だが、それを邪魔をしようにも、ツバキの〈アブソリュートイージス〉の中での出来事であるため、流石の爺でも手出しは出来ない。
そう。俺が立案したのは、2パーティで交互に戦闘して、爺の体力を削り取るという戦法なのだ。
「……こんなやり方で僕を倒して、君たちは本当に満足なのかな?」
「戦いには、自由な発想が必要だってのを教えてくれたのは、あんただぞ?」
俺はかつての爺の教えを、ただ実践しているに過ぎないのだ。
……ぶっちゃけ卑怯すぎて、流石にどうかとも考えはした。
だが正攻法だと厳しそうだし、何より相手が爺なら何をやっても許されると、俺は思ったのだ。
俺のその返答に、爺が諦めたようにため息をつく。
「はぁ、これじゃあ僕がまるで道化みたいじゃないか。もう好きにしなよ……」
戦いの手を止め、爺が道を開ける。
「よし、俺達の勝ちだ!」
それを見た俺は勝利を宣言する。
味方の一部からドン引きな視線を感じるが、努めてそれは無視する。
「ゴホン。……経緯はともかく、全員無事で先へ進めるのだ。それで満足するべきだろう」
若干顔を引きつらせつつも、ナイトレインがそう言って纏めてくれた。
「あーもう。僕は止めたからね。……後悔してもしらないよ?」
爺は床へと身体を投げ出し、投げやりにそう言う。
「別に俺はまだ、神を殺してそれに成り代わると決めた訳じゃない。まずはちょっと話を聞きに行くだけだ」
そう。
俺はまだ神をどうするかは、決めてはいない。
ただそれを決める為にも、一度神と直接対峙する必要があると思っている。
「……コウヤ、最後に一つだけ忠告しておくよ。同情心なんかに惑わされず、己の望みにのみ従う事。分かったかい?」
「……そうだな。ああ、ちゃんと分かってるさ」
思えばこの世界に来てからも、俺は色々と状況に流されてばかりだった気がする。
俺の悪い癖だ。それで何度トラブルに巻き込まれた事か。
まったく耳が痛い忠告だな。
「そう。……ならいいんだけどね」
言うべき事は言い終わったとばかりに、爺はこちらへと背を向け、ふて寝を始める。
ずっと戦いっぱなしだったので、流石の爺でもきっと疲れたのだろう。
「まあ、そのなんだ。心配してくれて、ありがとな」
結果的には意見を無視した形になったが、爺が本気で俺達の事を心配しているのは、今はなんとなく理解している。
俺は若干の気恥ずかしさを感じつつも、小声で爺にそう礼を述べる。
それに対し、爺はこちらを見もせず、ただ手を振って返した。
さて、いよいよ神々の許へと乗り込む時がやって来たようだ。
俺は両手で頬を張り、気合いを入れなおして、視線を前へと向ける。
「よし、行くぞ!」
部屋の奥にある光の柱へと向かい、俺達は歩みを進めるのだった。




