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81 真実(後編)

「何を考えているかだって? どうもコウヤは僕の事を疑っているみたいだけど、特に何も企んじゃいないよ? ただ、君の為を思ってやったんだけどなー」


 爺は心外なといった表情で俺を見つめて来る。


「俺の為だと? 何を言って――」


「だってコウヤったら、僕が死んでからずっと、友達一人すら出来ずにずっと引き篭もってたじゃないか」


「なっ、失礼な。……ちゃん高校は卒業して、大学にも受かったぞ!」


 人聞きの悪い事を言うんじゃない!


「高校って言っても、ネットの高校だよね。たしかに卒業した事自体は立派だけどさ。その間、食料の買い出し以外で、ほとんど家から出てないよね?」


 くっ。何故それを知っている。


「まあ、そうなった原因は僕にもあるから、別にそれを責めたりはしないさ。ただ出来るなら、君には人生をもっと楽しんで欲しかったんだ」


 それで俺を異世界に転生するように仕向けた訳か。


「だったら、どうして俺に勇者なんてやらせようとしたんだ?」


 それが無ければ、もう少しのんびりとした日々を送れたかもしれない。

 いや、どうだろうな……。


「何か目標が無いと、君はすぐ怠けようとするじゃない?」


 うぐっ。

 そう言われると、ちょっと否定がし難いものがある。


「ただ、それだけじゃなんだから、ステラシオンには君に最大限の助力をするよう、お願いしたんだよ」


「それでなのか? ステラシオンの奴が、あっさりとギフトを大量にくれやがったのは」


「そういう事になるね。コウヤが欲しがったモノは、全部与えてやってくれと頼んでたからね。……まさか君がギフトを全種類を要求するとは、僕も想定しなかったけど」


 俺の行動は、爺にとっても想定外だったわけだ。その事にちょっとだけ溜飲が下がる思いだ。


「……まあ結果として、あくまで結果としては、確かに日本にいた頃よりは俺は楽しい生活を送れた。それは認めなくもない。だがそれならそうと、ちゃんとそう伝えろよ!」


 事情を教えられていない俺が、どれだけ混乱したのか本当に分かってるのかよ。


「そうだね。今なら君の気持ちも分かるよ。ただ当時の僕は、老いた肉体に思考を引っ張られてたからね。ちょっと頭が固かったのさ」


 俺の知る爺は、ちょっと所ではない頑固爺だったと思うが、もはや突っ込むまい。


「人間である南宮白夜に転生してから70年程かな、膨大な魔力を持てども、不完全な身体を持て余してたんだよ。まあ最終的には、死の恐怖に勝てなくて、こっちの世界に再度転生したんだけどね」


「……待て。転生してから? お前には、南宮白夜として生まれる以前の記憶があるってことなのか?」


「そういう事になるね。……もっとも、その記憶の大半は白夜として生まれ変わった時に、欠落してしまったけどね」


 どういう事だ?


「……転生に失敗したって事なのか?」


 転生の仕組みは良く分からないが、俺自身は転生前後で記憶の欠落を感じた事は無い。


「うーん。ちょっと違うかな。あれは失敗じゃなくて、想定通りの出来事だったよ。人間の器に全てが入りきらないなんて事、百も承知の上でやったからね」


 人間の器に入りきらない? まさか……。


「そう、既にお察しの通り、それ以前は僕は神と呼ばれる存在だった。その時の記憶は欠落もあって、もはや曖昧だけど、かなり上位の立場だったとだけ言っておこう」


 ビャクヤは笑みを浮かべながら「ステラシオンなんか足元にも及ばない程のね」と、つけ加える。


 爺の前世が神だった? もう何が何だか分かんないぞ!?


「まあ前世の僕が、魔法なんて異能を扱えたのは、それが理由さ。いざ聞いてみれば、とても単純は話だとは思わないかな?」


 俺が物心ついた時には既に、爺の血縁は俺しか居なかった。

 俺が魔法を使えたのも、単純に元神の血を継いでいるからって事か。


「あれ、俺に教えた技を、古流武術とかなんとか言ってなかったか? 話を聞く限り、爺より前の人間には魔法は使えなかったように聞こえるんだが、それだとおかしくないか?」


「ん? 太古の昔から生きる神の技なんだから、古流武術で間違ってないよね?」


 ああー、なるほど。そういう解釈しちゃうのね。

 その答えになんだか、妙にがっくりと来てしまった。


 ……話が大分逸れたな。ここは一旦、当初の目的に立ち返るとしよう。


「なぁ、爺。ここで何してたんだ?」


「ん? ああ、単純な理由さ。君を止めに来たんだよ」


「そりゃまた、どうして?」


 爺がわざわざそんな事をする理由が、俺には分からない。


「この先に進めば、君たちは神に成り代わる資格を得てしまう。それを阻止しに来たわけさ」


「それは聞き捨てならないな」


 これまで、家族同士のやり取りだと遠慮してか、黙ってくれていたナイトレインが口を挟んでくる。


「七夜。神に成り代わるなんて、馬鹿な考えはやめたほうがいいよ」


 爺の表情は、ただ純粋に心配しているような表情だ。


「我は七夜では無い。ナイトレインだ」


「そうだったね、すまない。ナイトレイン、神に一度なってしまえば、戻る手段は無い。その先に待っているのは、永遠に続く退屈な日々だ」


「……だとしても、今の神々に世界は任せてはおけない」


「……そうかい。だったら月並みなセリフで悪いけど、ここから先に進むのは、僕を倒してからにしてもらおうか」


 常に柔らかだった爺の表情に、初めて真剣味が差し込む。

 奥にある光の柱へと向かわせまいと、爺が立ち塞がる。


「さあ、君たちはどうする?」


 ナイトレインが俺達に戦闘の意思を確認してくる。


「……何が正しいのか、今の俺には分からない」


 正直まだ爺の言葉の意味を良く呑み込めていないのだ。すぐに答えを出すのは難しい。


「そうか」


「だが、とりあえず爺をぶっ倒してから、考えればいいんじゃないかと思うぜ!」


 爺には、色々とイライラが溜っているのだ。

 まずはそれを発散させた後に、面倒臭い事はゆっくり考えればいい。


「あははっ、そう来るのか」


 どうやら、理由は違えど、他の連中もやる気のようだ。


「やれやれ。君たちの未熟さを教えてあげるよ。掛かっておいで」


 爺のその挑発的な手招きを合図とし、戦闘の火蓋は切られたのだった。


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