80 真実(前編)
「皆、準備はいいか?」
扉の前に佇むことしばし、それぞれが落ち着きを取り戻したのを確認し、ナイトレインがそう言う。
それに対し、それぞれが頷きで返す。
「では行くぞ!」
そして、扉は開かれた。
「やぁ、遅かったね」
そこには、黄金に輝く装飾で全身を飾られた巨大なゴーレムが力無く横たわっていた。
そしてその奥には、眩い輝きを放つ光の柱が見える。恐らくあれが、神々の住む場所へと至る階段なのだろう。
視界をゴーレムの方へと戻せば、その上に君臨するように、一人の青年が立っている事に気付く。
白い髪を持つその青年の顔は、俺にとっても見覚えのある姿だった。
と言っても、コイツと直接会った記憶は俺には無い。
ではなぜ見覚えがあるのかというと、その顔が、鏡に移る俺の顔そっくりだからだ。
そして、思い出す。
「お前がフィナ達にちょっかいを出した奴か!」
怒りのボルテージが暴走するのを抑えつつ、俺は叫ぶ。
「……? ああ、あの子達の事か。ただ指導してあげただけだよ?」
自身の声を録音して聞くと気持ち悪く感じると言うが、今の俺の想いはまさにそれだった。
ああ、くそっ。なんで俺はコイツの事がここまでムカつくんだ!
自身でも制御出来ない感情のうねりに、俺は翻弄されてしまう。
「やれやれ。感情の制御は基本だと教えてた筈なんだけどな……」
そんな俺に対し、青年は呆れたような表情を向けて来る。
くそっ、その姿でそんな目で俺を見るな!!
「……あなた、ミナミヤビャクヤよね?」
と、ここでエイミーが思いがけない名前を突如口に出す。
……何を言い出すんだ、エイミー。
お前はミナミヤビャクヤが俺の祖父だと知っていた筈だ。
どう見ても目の前の奴は違う。俺の知る爺はこんな奴じゃない。
……ああ、そうか。エイミーは長寿の一族だ。
そうであれば、祖父らしき人物が俺と同じような若い外見である事に、疑問を感じなくても仕方が無いのかもしれない。
「うん? ああ、そういえば以前に会った事があったね。そうだよ、僕は南宮白夜だよ。……いや、今はただのビャクヤと名乗るべきかな?」
「ふざけるな! あのくそ爺と同じ名前を名乗って、何がやりたい!」
俺の知っている祖父ミナミヤビャクヤは、70過ぎの老人だ。もっとも、見た目は50代に見間違うほどに若若しかったが。
「だからね、コウヤ。君が言うくそ爺本人なんだよ、僕は」
「何を言って……」
「そうだね。こう言えば分かってくれるかな。……この馬鹿弟子がぁ!!」
終始穏やかな口調から一転、猛々しい声を上げる。
このセリフ、この言い方はまさか……。
「……まさか、本当にくそ爺……なのか?」
「そうだよ、コウヤ。久しぶりだね」
そう言って笑みを向けて来るが、自分とそっくりの顔でそれをやられても、微妙な気分にしかならない。
「そもそも、なんで俺そっくりの姿なんだ?」
「むっ、失礼な。僕が君にそっくりなんじゃなくて、君が僕にそっくりなんだよ?」
どうやらその姿は、爺が若返った姿らしい。
日本に住んでいた頃も、良く似ているとは言われていたが、年齢を揃えるとここまで同じになるのか……。
「それに、その喋り方は何なんだよ……」
日本にいた頃の爺とは似ても似つかない。
これで分かれって方が無理だろう。
「はは、いやね。折角若返ったしそれに合わせないと、と思ってね」
……そんな下らない理由かよ。
「ゴホン。和やかな家族団らんを邪魔するようで悪いが、こちらにも分かるように話して貰えないかな?」
そんな俺達のやり取りに対しナイトレインが、口を挟んでくる。
「そうだね。君も無関係じゃないしね。……弟よ」
はっ? 弟? 何を言ってるんだ!?
「……その発言にどういう意図があるのか、説明して貰おうか?」
その言葉に反応し、ナイトレインの魔力が急速に高まる。
「うーん。別にそのままの意味だよ。君はこの僕、南宮白夜の弟、南宮七夜だよ」
どういう事だ? 大体、ナイトレインは500歳オーバーの筈だぞ。年齢が合わない。
ただ、言われて見れば、確かに顔立ちは似ている気もする。
そして、以前に爺に弟がいた話も聞いた事があった。今の所、辻褄は合っている。
「あっちとこの世界の繋がりは、時間軸の同期を取らない限り、時間に左右されないからね」
適切な手段を取らずに、この世界と日本を繋ぐと、無茶苦茶な時間に繋がってしまうらしい。
なんだそりゃ、と思うが、ともかくそういう事なんだそうだ。
「僕が転生先にこの世界に選んだのも、七夜、君の事が心配だったからさ。もっともその心配は不要だったみたいだけどね」
ナイトレインがこの世界に呼び出されてから、どんな苦難があったかは知らないが、今は先代魔王という高い地位に納まっている。
その点では、今の彼を心配するのは確かに不毛だ。
「……成程。どうやら我がこの世界に来る事になった事情を知っているようだな?」
「何、簡単な事だよ。僕の弟だったからだよ。……君自身は、生まれはただの一般人だったけど、生まれてからずっと僕の傍で影響を受け続けていた。それがまずかったんだろうね。その子が行った召喚儀式で僕を呼び出そうとするのを弾いたら、君が連れていかれてしまったんだよ」
アリスティアの方をチラリと見つつ「あれは完全に僕のミスだった」と頭を下げるビャクヤ。
「ようするに、魔王召喚の儀式において神の介入は無かったと。その認識で正しいのか?」
「そうだよ、七夜。あの1件には神々は関係していない」
「ならば我の記憶が欠落しているのは、何故だ?」
「うーん。これは推測だけど、多分魔王召喚の儀式そのものの仕様かな? あの儀式ベースは、ステラシオンが造ったモノだから僕には分からないけど、大方、被召喚者の記憶を奪う術式でも仕込んであったんだろうね」
「そんな……」
「気にするな、アリスティア。我はこの世界に来た事自体は良かったと思っている。であれば過去の記憶など、些細なモノだ」
倒れそうになっているアリスティアを、ナイトレインが支える。
「僕なら、多分修復してあげれるけど、どうする?」
「……不要だ。もし神々に奪われていたのであれば、その分の報復をついでにしてやろうと考えていただけだ」
「……そっか。僕としては、昔の事について語り合いたかったんだけど、それなら仕方ないね」
なんだかしんみりとした雰囲気になっているが、俺の話はまだ終わってないぞ。
「やい爺! 俺をこの世界に無理やり連れ込んだのはお前だろう? 何考えてやがる!」
一番聞きたい事が、まだ残っているのだ。
俺は爺を睨み付けつつ、そう叫んだのだった。




