73 ショートカット
「さてと、全員集まったようだな。では行こうか」
ナイトレイン率いる冒険者パーティ"デイウォーカーズ"と俺達は合流し、大迷宮へと向かう。
今回の探索は、本来ならば最大3ヶ月の長期戦になる予定だったのだが、俺の持つギフト〈転移門〉の力のお蔭でその制限は無くなった。
キリがいい所で地上へと帰還すればいいのだから、わざわざ迷宮内で野営をする必要も無いのだ。
「ふむ、非常に便利な力だな。それがあれば92層到達にも、そう時間は掛からないだろう」
ナイトレインが感心したようにそう言う。
「92層? 攻略最前線は91層までじゃなかったか?」
「それは情報が古いな。……冒険者ギルドに最近顔を出して無かったから、それも已む無しか。我らは既に93層の攻略に挑戦している」
「……着実に攻略は進んでいる訳か。最深部まで案外すぐかもな」
「だといいがな……」
そんな事を話しつつ、俺のギフトの力で、前回到達した10階層までへと一気に飛ぶ。
「普通の長距離転移魔法だと、この迷宮の結界に弾かれるのに、便利だねー、ギフトって」
ローズマリアが「むむっ」と難しい表情をしながらそう呟く。
「まあ、短距離転移は出来ないから、戦闘じゃほとんど役に立たないけどな」
「なるほどねー。さてと、ここから先はボクが魔法で道を作るから、後ろから付いて来てね。罠とか危ないから、道からは絶対外れないようにね」
そう言ってローズマリアが魔力を集中させる。
「風示道標」
迷宮内に緑の光が奔る。
どうやらこれが奥へと続く正しい道を示しているらしい。
「おー。便利だな。……これがあれば、探索で困ることなんて早々無いんじゃないか?」
「うーん。それがそうでも無いんだよね。そもそもこの魔法が使えるのって、ボクが探索済みの場所だけだし」
「まあ、そりゃそうか。とはいえ、92層までは使えるわけだ。そこまでは楽させて貰うとしよう」
「わたくしとしては、迷宮攻略の醍醐味を捨てているようで、ちょっと不満ですけれど……」
だが折角、楽が出来る手段があるのに使わない手はない。
勿論リーゼもそれは分かっているので、文句は言ってこないが、表情はちょっと面白くなさそうだ。
「なに、リーゼ嬢。嫌でも93層から先は、大迷宮の洗礼を受けることになるさ」
◆
それから半月程が経過した。
「やっとで着いたな。流石に疲れたわ……」
俺達は遂に攻略最前線である93層へと到達した。
かなり強いメンツが揃っているだけあって、迷宮探索は概ね順調だった。
唯一苦戦したと言えるのは、90層のガーディアン戦だったが、それも最終的には、絶好調の俺が魔法のごり押しで倒してしまっていた。
「さて、ここからが本番だぞ? ここから先は、魔法による先導はなくすべて手探りだ」
確かに、後半の階層はかなり入り組んだ作りになっていた。
ローズマリアの魔法が無ければ、大分迷っていたはずだ。
というか、一度ここに到達した今でも、俺達の力だけで再度やり直そうとすれば、かなり時間が掛かるのは明白だ。
「いよいよですね。わたくし燃えてきました!」
リーゼが妙にやる気になっているが、正直、彼女の能力はあまり迷宮探索向きとは言えない。
なんだかんだでお嬢様育ちだしな。
だがまあ無駄にやる気を削ぐことを言う必要もないので、黙っておく事にする。
「で、探索の基本方針はどんな感じなんだ? 手探りって言っても、本当に虱潰しにする訳じゃないんだろ?」
90層以降は特に1層ごとが広い。
最短距離を歩いても踏破には軽く数時間はかかるのだ。
この幾重にも分岐した道を全て踏破しようと思えば、果たして何日、いや何十日かかるか分からない。
それを考えれば、迷宮攻略が中々進まないのも頷ける話だ。
そして同時に〈転移門〉の力がどれだけ反則なのかが非常に良く分かる。
「ここからは二手に分かれようと思う。チームは、我らと君たちで分けるとしよう」
我らという言葉が指しているのは、ナイトレイン率いる"デイウォーカーズ"だ。
そしてもう1チームが俺と勇者2人に、リーゼとエイミーを加えたいつもの面々だ。
まあ、連携などを考えれば無難なチーム分けだ。
「エイミー、迷宮の探索方法は覚えているだろう? 以前教えたやり方で構わない」
最初の探索の時にエイミーがやっていた、風の流れを読んで行き止まりを避けながら進む方法を基本とするようだ。
「コウヤから預かった魔法具で定期的に連絡を取り合おう。勿論、下への階段を見つけた時も連絡を頼む」
そんな訳で、ナイトレイン達とここで一旦別れ、93層の探索を行うことになった。
93層は、全面磨かれた石で出来ており、太古の神殿を思わせる静謐な雰囲気を漂わせている。
「さて皆さま。張り切っていきましょう!」
リーゼがテンション高くそう宣言し、先に進もうとするが、
「待ちなさい! 今から風を読むから……」
エイミーの一声であっさりと、その足を止めることになる。
「そうね、まずはこの道を進んでみましょうか。先頭はコウヤ、最後尾をサトルがお願い」
女性3人を男性2人で挟む形だ。
まあ多分これが無難なフォーメーションだろう。
こうして93層の探索が始まったのだった。
感想にて御指摘ありました、エイミーが約束していたビャクヤの情報の開示について、63話に追記しました。特にストーリー進行に支障はないかと思いますが、気になる方はご確認下さい。
こういった指摘は非常に助かりますので、今後も遠慮なく教えて頂けると嬉しいです。