表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/92

70 先代魔王

 サトルの急襲というトラブルはあったものの、どうにか全員無事に地上へと帰還することが出来た。

 

「しっかし疲れたな。なぁリーゼ、一ヶ月くらい休養期間にしないか?」


 色々とありすぎて俺は疲れたのだ。


「ダメですよ! 大体エイミー様がご紹介下さる冒険者の方々とお会いする予定があるでしょう?」


 そう言えばそんな話もあったな。

 エイミーが紹介してくれる冒険者。それは俺がここに来た目的の一つである、先代魔王とその仲間達だ。

 どんな奴らなのだろうか。楽しみだ。


「……どうやらあの方々もちゃんと帰ってきたみたいよ」


 エイミーがふと何かに気付いたようにそう言う。

 俺もギフト〈千里把握〉を発動し、周囲を探る。


 ……いた。


 勇者たちに匹敵するほどの高い魔力を持つ連中が4人。

 まずこいつらで間違いないだろう。

 

 構成は、男性1に女性3。しかも、女性は全員美人ときた。

 ……ハーレムかよ! とツッコミたくなるが、サトルが加入する前は、うちも似たようなモノだったのを思い出す。


 うん。まあ、そういう事もあるよな。


 俺の方のパーティの実態は、ハーレムと呼べるような羨ましい存在からは、明らかにかけ離れている。

 きっと、あちらもそうなのだろう。うん。

 

「ちょっと私、挨拶しに行ってくるわね」


 エイミーがそう言って立ち去るのに、軽く手を振りながら、4人組の観察を続ける。


 ……ん?


 ふと俺は気付く。男の顔立ちが、妙に日本人っぽい事に。

 いや、顔立ちだけでなく、髪や目の色もだ。

 他の女性たちは、皆こちらの世界っぽい容貌なので、余計に目立つ。


 もしかして先代魔王って、日本から来た人間なのか?

 だが、先代魔王はかなりの高齢だと聞いている。ハッキリとした年齢は知らないが、少なくとも500歳は下らないとか。

 普通の日本人は、まずそんなに長くは生きられない。


 ならば、何らかのギフトを貰って長生きしているのか、もしくは俺と同じ転生者なのか。

 転生者ならば、生まれた種族によっては長生きも可能だ。そして、魔族には長寿の種族が多いと聞く。

 魔王を名乗っていたくらいなのだから、恐らく魔族なのだろう。それで説明は十分につく。


「だけど、見た目は完全に日本人だよなぁ……」


「……? どうしたのですか、コウヤ様?」


 突然独り言を呟いたせいで、リーゼに変な顔で見られてしまう。


「いや、気にしないでくれ」



「話をしてきたわ。明日のお昼に、あちらの宿の一室を借りて、会食する事になったわ」


 戻ってきたエイミーがそう伝えて来た。


 そんな訳で迎えた次の日のお昼。

 俺達は、先代魔王一行が宿泊する、この街最高の宿へと向かった。


「おー。流石は最上級冒険者様だ。泊まっている宿もレベルが違いますなぁ」


「何言ってるのよ……。あなたが豪華すぎるのは落ち着かないっていうから、今の所になったんじゃない。リーゼ様もいる訳だし、ホントはこっちに泊まる予定だったのよ?」


 エイミーが心外といった表情でそう言い募る。

 

 そういやそうだったな。

 でもさ、あんまり装飾華美かつだだっ広い部屋って、なんか落ち着かないじゃん?


 まあ状況が落ち着いたら、俺は孤児院からの通いになる予定だから、その後にでも自由に宿を移ってくれればいい。


「まあいいわ。さっさと行くわよ」


 俺達は宿の奥にある一室へと、エイミーに案内される。


「ここよ。……失礼します」

 

 エイミーがノックをした後、中へと入っていく。

 俺達もその後に続く。


「よく来たな、エイミー。それからルーシェリア帝国の皇帝リーゼ。そして異界より招かれし勇者たちよ」


 声の方へと視線をやると、中央のテーブルを挟んで奥側の中心に、黒髪黒眼の青年が立っていた。

 恐らく彼が、魔王国の先代魔王ナイトレインだ。


「立ち話もなんだ。まずは席についてくれ」


 俺達は言われるままに席に着く。


「まずは自己紹介といこうか。我は、魔王国先代魔王、ナイトレインだ」


「そしてその妻、アリスティアと申します」


 ナイトレインの左隣に控えていた銀髪蒼眼の美しい女性が、恭しく礼をする。


「同じく、ローズマリアだよ」


 対して右隣にいたのは、金髪碧眼の女性だ。

 こちらは美人というよりも、可愛らしいという表現が適切かもしれない。

 

 てか、奥さんが2人とか、一体どういう事なんだよ。


「あたしはフォレフィエリテ。言っておくけど、コイツの妻なんかじゃないからね。ただの仲間よ」


 最後は、エルフの女性だった。サラサラの金髪を揺らしながら若干不機嫌そうにそう言う。

 流石にこの人は、奥さんでは無いらしい。


「これはご丁寧にどうも。俺は、コウヤ。一応、女神ステラシオンからこの世界に招かれた存在だ。勇者だとは認めてないけどな」


 あんまり意味は無いかも知れないが、一応ちゃんとそう主張しておく。

 その後、残りのメンバーも自己紹介し、会食が始まる。


「さて、エイミーからは、大迷宮攻略についてお願いしたいことがあると聞いているが、どういった内容だろうか?」


 ナイトレインが悠然とした態度で、そう尋ねて来る。


「えぇ、ナイトレイン様。率直に申し上げます。あなた方に、わたくし達の大迷宮攻略を支援して頂きたいのです」


 91層まで攻略している彼らの助力があれば、最深部である100層までの道のりは大きく短縮されるはずだ。


「成程。……それでその申し出を受けた際の、こちらのメリットは果たして何だろうか?」


 まるでこちらを試すような視線を向けて来る。

 

「帝国皇帝に対して莫大な恩を売る事が出来ます。それでは足りないでしょうか?」


 リーゼが笑みを浮かべてそう問い掛ける。


「ああ、足りないな。そもそも帝国よりも魔王国の方が国力は遥かに上だ。そしてその魔王国に対し、我はいまだ大きな権力を有している。帝国に恩を売るだけでは大したメリットには成り得ぬな」


 まあ、それはそうだ。

 そもそもナイトレインは現魔王の実の父親らしいし、エイミーの態度を見ても、魔王国に対して未だにかなりの影響力を持ち合わせているのは、まず間違いなさそうだ。


「ではそうですね。帝国の全てを差し上げます。これではどうでしょうか?」


 リーゼが表情を全く変化させることなく、そんな無茶を言ってのける。

 流石にこの発言には、ナイトレインも若干眉を顰める。


「その言葉の意味を理解した上での発言か?」


「ええ勿論です」 


 リーゼの発言で場の空気が重くなるのを感じる。

 これから先の話し合いが、どういった方向へと展開を見せるのか不安に思いつつ、俺は肉を一切れ頬張ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ