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64 準備

第3章開始です。

 リーゼ達と共に、迷宮都市に向かう事を決めた俺だったが、その前に色々とやらなければいけない事がある。

 

 一番は、ルーシェリア帝国との戦争の後始末だ。

 リーゼは約束通り、既に王都から軍を撤退し始めている。

 その際に色々とゴタゴタも発生しているようだが、そこは彼女に頑張って貰うしかない。

 まあ、ツバキもサトルも付いているし、どうにでもなるだろう。


 ……流石にそこまでは俺も面倒を見切れないからな。


 対する神聖教国ステラシオン側は、トラバントが正式に国王に就任し、元鞘へと収まった感じだ。

 元々国王派の重鎮であったヴァイゼが、上手く派閥調整をしているらしく、表面上は大きな問題は起きてはいない。


 で肝心の俺は、何をしていたかというと、大陸のあちこちへと移動し、ギフト〈転移門〉のゲート設置に精を出しつつ、エイミーのタクシー係みたいな事をやっていた。

 彼女は魔王国や迷宮都市、神聖教国などを行ったり来たりを繰り返しつつ交渉を進め、ついにリーゼ達の迷宮都市入りの許可を得る事に成功した。


 ちなみに俺はというと、エイミーが交渉に向かっている間、特にやる事もないので、その土地での観光を楽しんでいた。

 魔王国は、その名の通り魔族ばかりが住む国であり、街中を歩いているとそこには、見慣れた人間の姿とは異なる、如何にも魔族といった見た目の人間の姿が数多く見られた。

 迷宮都市はそれに対し、魔族ばかりではなく、エルフやドワーフといった、ファンタジー世界にありがちな種族も存在し、他種族の坩堝といった様相だった。


 こういう異世界的な風情も悪くはないモノだったが、やはり俺は孤児院の自室に籠っているのが一番好きだなと、実感した観光旅行であった。


「ここ1ヶ月が多分今までの人生で一番忙しかったわ……」


 全ての交渉を終えた後のエイミーは、もの凄くぐったりしていたので、孤児院の客室を貸してやることにした。

 彼女は、Mitsurinで購入したスプリング入りのふかふかベッドを痛く気に入っているらしく、数日間、そこでゴロゴロとしていた。

 まあこの世界のベッドは、マットレスなんてなくて寝心地イマイチだからな。


 俺も彼女に習い自室に籠っていると、フィナと孤児院の年長組3人が尋ねて来た。皆、冒険者をやっている子供たちだ。


「コウヤ様、ちょっと宜しいですか?」


「ん? どうした、フィナ?」


「ちょっとご相談したい事が……」


 彼らの先頭に立つフィナが、言い辛そうに視線を左右に彷徨わせている。

 だが、やがて決心したように表情を引き締めて、ゆっくりと語り出す。


「……実は私達、ナイトランクに昇格したんです」


 ナイトランクと言えば、確か俺と同じランクだ。

 冒険者として、おおよそ1人前として認められる存在だ。


「おお、凄いじゃないか。頑張ったんだな。それじゃ、何かお祝いしないとな」


 色々ゴタゴタしていて、最近フィナ達に余り気を配ってやれなかった気もする。

 せめてお祝いくらいは、豪勢にしてやりたい所だ。


「は、はい! ありがとうございます! って、いえ、そうでは無くてですね……」


「ん? まだ何かあるのか?」


「実は、ブルーローズの皆さんが、この街を出て今度、迷宮都市へと向かうそうなんです」


 なんでも、ついにルークランクまで昇格した彼女達は、冒険者としての更なる栄達を求めて、迷宮都市へと活動拠点を移す事にしたそうだ。

 そして、どうやらフィナ達も彼女達と一緒に迷宮都市に行きたいのだそうだ。

 迷宮都市の大迷宮への挑戦は、ナイトランク以上が推奨されているが、フィナ達はその条件をつい最近満たした。

 その事もあり、パーティ内で話合いをしたそうだが、結果として、迷宮都市へ行こうという意見に一致したようだ。

 ただ、面倒を見てくれていた俺の許可を取ってからじゃないと、という事でこうして俺の元へとやって来たという訳だ。


「……ようするに、孤児院を出て冒険者として自立して、迷宮都市に行きたいと?」


 フィナ達が一斉にコクンと頷く。


「ふーむ……」


 これも何か神の采配なのだろうか。タイミングが妙にいいのが、若干引っ掛かる。

 が、まあ流石にこれは偶然だろう。


「分かった。迷宮都市には、俺が連れて行こう。というか、ここから通えばいい」


 ギフト〈転移門〉で設置したゲートは、俺が許可を出した相手なら自由に行き来が可能だ。

 常時設置に若干魔力を使うが、俺の魔力量全体から見れば微々たるものだ。

 俺はその事をフィナ達に説明する。


「そんな事も出来るなんて、流石です、コウヤ様!」


 フィナが一人感動して盛り上がっているが、他の3人は若干引き攣った表情をしている。


「ついでだ、ブルーローズの連中にも、〈転移門〉の使用許可を出してやれば、移動の手間も省けるし、いいんじゃないか?」


 確かこの街のギルドは、元々高位冒険者不足に悩んでいた。

 その事もあって、俺を冒険者へと引き込んだ訳だしな。

 ブルーローズという有望株が、居なくなるとなれば、彼らもきっと困るだろう。

 ならば、彼らにこの街に残ってもらい、通いで大迷宮に向かえるようにしてやれば、きっと彼らも喜ぶ筈だ。


 ……別に冒険者関連の厄介事が起こった際に、ブルーローズの連中に押し付けようなどとは、俺はまったく考えてはいないよ?


「それはいい考えだと思います! 早速シアンさん達にも伝えて来ますね!」


 結局、ブルーローズの皆は悩んだ末、俺の提案に乗ることにしたようだ。

 

 その後、フィナ達やブルーローズの面々の昇格記念パーティを開いたり、アルとの取引の引継ぎを行ったり、フィナが拾ってきた子犬が育ち過ぎ問題への対処に追われたり、孤児院の子供たちの教育方法を考えたりなどしている内にあっという間に時間は流れていく。


 そして、ようやく諸々の後始末を終えたリーゼから連絡が入り、ついに大迷宮の攻略へと乗り出す事になったのだった。


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