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63 あっけない幕切れ

 ナギサの元へと向かうリーゼとツバキの後ろを、俺とエイミーは隠形魔法で姿を隠して付いていくことにした。

 

 流石に俺の姿を見れば、ナギサも警戒してしまうからな。

 

 そして着いたのは、以前来たばかりの玉座の間だった。

 ナギサの馬鹿は、なんとまだそこに居座っているらしい。

 

 神経が図太いうというか、なんというか……。


「ナギサ様、今お話し大丈夫でしょうか?」


 玉座に腰掛けたナギサへと、リーゼがそう呼び掛ける。


「……なんだいリーゼ。どうせ、ツバキに何か言われて来たんだろう?」


 イライラとした様子で、そう投げやりに返すナギサ。


「いえ、そのような事はありませんよ、ナギサ様」


 それに対し、安心させるようにニッコリと微笑むリーゼ。


「……ふーん。本当みたいだね……。で、何の用かな?」


 一瞬、何か妙な気配がナギサから放たれる。

 それはすぐさま霧散したが、その際、周囲の女性護衛騎士たちの挙動が、明らかにおかしくなったのに俺は気付く。

 

 多分だが、女性を魅了するギフトの力でも使ったんだろうな。


「実はですね。こちらの剣が少々妙なのです」


 そう言ってリーゼは腰から剣を引き抜き、切っ先をナギサへと向ける。


「ふーん。見た所、普通の剣みたいだけど?」


「一見はそうなのですが、実は剣の先辺りがおかしいのです。よく近くで御覧下さい」


 リーゼのその言葉に、ナギサは不思議そうな表情を浮かべつつも立ち上がり、剣先へと顔を寄せる。

 

 ――次の瞬間、リーゼの持つ剣が揺れたかと思うと、ザシュッと肉を切り裂く音が聞こえて来た。


「は……?」


 それに僅か遅れて、呆然としたナギサの声が聞こえきた。……足元の方から。

 声の方に視線をやると、そこにはナギサの首が転がっていた。


「リーゼ、おま――」


 首だけの姿で尚も何かを言おうとするナギサの首に、トドメとばかりに剣を串刺すリーゼ。


「まったく、ゴキブリみたいな男ですね」


 淡々とした声でそう言いつつ、引き抜いた剣を振り、血を払い落すリーゼ。

 その一連の行動を、俺は黙って見守るだけだった。


「さて、約束は果たしましたよ、コウヤ様」


 隠形魔法で見えない筈の俺の方へと真っ直ぐ向いて、リーゼがニッコリと笑う。


「……怖い女だな、お前」


 エイミーに隠形魔法を解除して貰い姿を現した俺は、引き攣った表情でそう返すのが精一杯だった。

 隣のエイミーも口には出さないが、俺と似たような表情をしているので、多分気持ちは同じ筈だ。


「それはお褒めの言葉と受け取れば宜しいのですか?」


 リーゼが首を傾げつつ、そう尋ねてくる。


「……好きにしてくれ」


 いやもう、本当に。


 いまの1シーンで、俺の中にあったナギサへの悪感情は霧散していた。

 あんな下らない方法で、ゴミ屑のようにあっさりと斬り捨てられたナギサを、いっそ哀れにすら思う。

 まあ自業自得とも言えるし、ある意味、彼に相応しい死に様だったのかもしれない。


「コホン。それより、彼女達をどうにかした方がいいんじゃないかしら?」


 冷や汗を浮かべたツバキが、周囲に控えていた女性の護衛騎士達を指差す。

 皆、ナギサの魅了のギフトの力で操られていた連中だ。

 それが解けた今、その多くが抜け殻のように呆然とした表情で跪いている。


「……そうだな。一応彼女たちも被害者だ。このまま放っておくのもなんだ。介抱してやるとしよう」

 

 俺の言葉に、ツバキらは頷き、この場の後始末に奔走することになった。



 こうしてリーゼの活躍?によって、ナギサの処分は、驚くほどにあっさりと終わった。

 むしろ後始末の方が大変だったくらいだ。


 元々、俺自身の手で奴を殺すつもりだったのが、こんな結果になってしまい、不完全燃焼というか、なんというか、妙に落ち着かない気分だ。


「約束通り、わたくしはナギサ様の始末を終えました。なので今度はコウヤ様が約束を守る番ですよ」


 王城の皇帝の私室へと移動した後、リーゼが発した第一声がそれだった。


「……なんかイマイチ釈然としないが、まあいい。まずは詳しい話を聞かせてくれ」


 俺が約束したのは、あくまで前向きに検討するという事に過ぎない。

 話だけ聞いて面倒そうなら、とんずらする事にしよう。

 いやもう、ほんと疲れたんだよ。


「ええ、それでコウヤ様は、何が知りたいのでしょう?」


 「大体お話したと思うのですが」とリーゼは首を傾げる。


「そもそも迷宮都市の最深部に、その、なんだっけか。"神々の住まう場所へと至る階段"があるってお前は言ったが、そもそもそれを一体どこで知ったんだ?」


 ルーシェリア帝国と迷宮都市は、かなり離れている。

 それにそもそも、大迷宮の最深部への到達者は歴史上、まだ一人も居ないと聞いているが。


「神からの神託によって、知りました」


「神って、女神ステラルーシェか?」


「いえ、違います。あの姉妹女神よりも更に上位の神からです」


「……あの女神連中よりも、偉い奴がいるってことか?」


 どうやら神同士にも、上下関係が存在するらしい。


「そうです。その神の名は、星の管理者シンシ。彼が大迷宮を含む、全ての魔物の領域を生み出したのです」


「ツバキ、ここまでのリーゼの話に嘘は?」


 俺はそう言って、ツバキへと目線を送る。


「嘘はついてないみたいよ」


「分かった。続けてくれリーゼ」


「……ツバキばかりを信用して、わたくしの事は信じては下さらないのですか?」


 そんな事を言われても、どうもこの女は信用する気がしない。

 対して、ツバキはすぐに感情が態度に出るし、素直な性格をしているので、まだしも信用しやすい。


「いいから続けてくれ」


「もうっ」と若干、頬を膨らませつつも、リーゼはそれ以上の反論はせず大人しく話を続ける。


「神シンシはわたくしにこう語りました。『大迷宮の最深部の先には、神々の住む場所へと至る階段がある。そこを超えて、神へと至り、私たちを滅ぼして欲しい』と」


 その後のリーゼの話を纏めるとこんな感じだ。

 そもそも神々とは不滅の存在らしく、通常の手段で殺しても、すぐさま再生してしまう為、自殺もままならないそうだ。

 そこで神シンシは一計を案じたそうだ。詳細は良く分からないが、神々を不滅のシステムごと殺しきる仕掛けを生み出したらしい。

 そしてその力が、大迷宮を攻略し最深部へと至った者へと与えられるように仕組んだそうだ。


 なんでそんな面倒な真似を、と思わないでもないが、そうする必要があったと言われれば、仕組みを知らない俺には反論しようもない。


「まあ、なんとなくは分かったよ。神ってのも、案外自分自身のことはままならなくて、大変なんだなぁ」


「そうですね……。ですが、だからと言って、女神たちに、人間の世界を好き勝手にされるのは我慢ならないのです」


「まあ、その気持ちは分かるし、お前が大迷宮を目指す理由も納得した」


「そうですか! でしたら――」


 花がパッ咲いたような笑みをリーゼが浮かべるが、俺の話はまだ終わってはいない。


「まだ疑問はある。なぜ、迷宮都市をわざわざ占領しようとした? 別にそんな事をしなくても、冒険者として挑めば良かったんじゃないか?」


 皇帝となってしまった今はともかく、皇女だった頃ならば、それも不可能では無かったんじゃないかと思うのだが。


「……ルーシェリア帝国には冒険者ギルドが存在しません。そして帝国と迷宮都市は、何度となく争った歴史を過去に持ちます。特に父の代になってからは、その関係の溝は、修復しようがない程になってしまい……」


「本当なのか、エイミー?」


「そうね。まあ、大体合っているわ」


「そもそも、冒険者ギルドには、大迷宮を攻略する意志が感じられないのです! あれほどの優秀な人材を抱えておいて、まだ90層までしか攻略出来ていないなんて――」


「それは誤解よ。……少なくとも先代様は、本気で大迷宮を攻略しようとしているわ」


 エイミーが、リーゼの言葉を遮るようにそう言う。


「前も聞いたけど、先代様って誰だ?」


「魔王様の御父上で、先代の魔王様の事よ」


「ふむ。その先代様ってのは、そんなに強いのか?」


「ええ。本人も恐ろしく強いし、その上、その奥様達もまた……。先代様のパーティ全員を相手にすれば、いくらコウヤでもまず勝ち目が無いわよ」


 エイミーは俺の実力をある程度把握している筈だ。

 それでも、こう断言すると言う事は、それだけ強いのだろう。

 ……ちょっと気になってくるな。


「話が逸れたな。纏めると、リーゼは大迷宮を攻略したい。で、その協力を俺にして欲しいと、それでいいんだな?」


「はい。その通りです」


「じゃあさ、エイミー。リーゼが大迷宮に挑戦できるよう手配してくれよ」


「え、私に振るの?」


「トラバントにも、魔王にも伝手があるのは、お前だけじゃん? 迷宮都市は2国に挟まれているんだから、両方の国のトップが掛け合えばどうにでもなるだろ?」


「そりゃまあ、そうかもしれないけど……。まあ仕方ないわね。コウヤには色々借りがあるし、請け負うわ」


 エイミーが「仕方がない」といった表情で、俺の頼みを引き受けてくれた。


「だ、そうだ、リーゼ。あとはお前が、ここの兵達を帝国に引き上げれば解決だ。その後でなら手伝ってやるよ」


「……分かりました。宜しくお願いします、コウヤ様」


 リーゼが決意した表情を一瞬浮かべた後、俺にそう頭を下げる。

 なんとか、話は纏まったようだ。


 ぶっちゃけ、迷宮都市へ向かうのを俺が承諾した一番の理由が、先代魔王一行への興味であることは否定出来ない。

 ただ、どの道下手に断っても、リーゼの性格を考えれば、面倒な事になりそうだし、これできっと良かったのだと思う。

 

 今回の件の報酬としてエイミーと約束していた、爺らしき人物の情報について尋ねるのも今は後回しにする。

 中途半端に耳に入れてしまえば、そちらが気になって他の事が疎かになりかねないからな。

 問題は1つ1つ着実に処理していくべきなのだ。

 

 こうして、俺の迷宮都市行きは決まったのだった。


これで2章は終わりです。


明日より3章開始となります。

引き続きお楽しみ頂けましたら幸いです。

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