表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/92

61 マリオネットソルジャー

 王城へと侵入し、勇者3人と対峙した日から数日後。

 朝早くに、俺はエイミーと共に再びアルストロメリアの街を離れることになった。

 王都エストレヤへと軍を率いて向かったトラバント達から、緊急の連絡が入ったからだ。


「なんだか、かなり妙な状況みたいね……」


 それを聞いたエイミーが引き攣った表情でそう呟く。


 どうも王都を包囲するまでは、大きな妨害もなく順調に事は進んでいたらしい。

 だが、昨夜から状況が一変する。

 包囲した軍に対し、王都から散発的に攻撃が相次ぎ、それの対処にトラバント達は困っているそうだ。


 攻撃があるのは当たり前だろ? と俺は最初思ったのだが、問題はそこでは無かった。

 どうも攻撃を仕掛けてくる部隊の人員は、全て女性で構成されており、その多くが訓練など積んでいない普通の民衆らしい。

 しかも彼女達は、どれだけ仲間に犠牲が出ようと構わずに突撃してくる為、対応に苦慮しているそうだ。


 ……話を聞いた限りでは、どうも何らかのギフトの力が関連しているように思える。

 そして、そんな非道な真似を仕出かしそうなのは、敵の勇者3人の中でもナギサぐらいしか考えられない。


 くそっ。あの時一旦引いたのは間違いだったか?


 長期戦覚悟で、ナギサだけでも殺しておけば良かったと、俺は後悔するが、それも今更な話だ。


「とりあえず、詳しい状況を現地で確認してからだな……」


 エイミーを背へと乗せ、俺は王都近くの陣地まで飛行魔法を使って急行した。


「……良く来てくれたね、エイミー嬢」


 俺達を出迎えたトラバントは、かなり疲れた表情をしており、目元には青いクマが浮かんでいる。


「おい、ちょっと待て。俺を忘れてないか?」


「ああ、コウヤ。君もいたのか」


 いや、お前。さっき俺と目が合っただろうが。


「折角来てやったのに、もう帰っちまうぞ?」


「はは、冗談だよ。で、早速だが、君たちに意見を聞きたいんだ」


 恍けた顔から一転、真面目な表情へと変化する。

 そして、現状をトラバントが語り始めた。


「初戦で大敗した敵軍は、王都内へと亀のように引き篭もったから、包囲自体はあっさりと成功したんだ」


 どうやら俺が貸し与えた商品類が、色々役立ったようだ。

 

「流石に王都を戦場にする訳には行かないから、敵の補給線を断ち切った上で、こちらは長期戦の構えだったんだ。だけど――」


 昨夜遅くから、籠城している筈の王都から、突如少人数の騎兵部隊が出撃してきたらしい。

 最初は弓による遠距離攻撃で、あっさりと殲滅していたようだ。

 だが、それが何度か続いた事を不審に思い、死体を回収してみれば、どれも女性騎士ばかり。

 不気味に思っているところに、今度は歩兵部隊が攻めて来る。

 しかも、今度は粗末な武器だけを手に、ロクな防具すら纏わない民兵たちだった。そして、その全員が女性。

 そいつらを何人か捕獲し事情を聞こうともしたそうだが、狂ったようにただ敵意を向けてくるばかりで、話にならなかったそうだ。

 一つ分かったのは、そいつらが元々王都に住んでいた連中じゃないか、ってことくらいだ。


 この時点で事の重大さに気付いたトラバントが、俺達に緊急連絡を寄越したという訳だそうだ。


「……推測だが、まず勇者の仕業で間違いないだろう」


 これが1人や2人なら、魔法で再現も出来たかも知れない。

 だが流石に規模が大きすぎる。


「やはりそうなのか……。それでコウヤ、どうすればいいと思う?」


 トラバントが、どこか縋るような声でそう尋ねてくる。

 らしくない感じだが、それだけコイツも焦っているのだろう。

 自国の民が、使い捨ての特攻兵扱いされてると知れば、それも無理はないか。


「元凶を殺すのが、多分一番手っ取り早いんだろうけどな……」


 多分犯人はナギサだ。

 あいつ一人なら、すぐに殺せるのだが……。


「勇者たちについての話は、報告で簡単には聞いたけど、どうも色々と厄介な連中みたいだね」


 いっそ、全員がナギサみたいな性格だったなら、纏めて消し飛ばしてやるのだが……。

 

「もう一度、俺が出向くしかないだろうな。ドローンを使って、奴らの居場所を調べてみてくれ」


 俺の存在を知った以上、多分王城にはもう居ないだろう。

 奴らの居場所を改めて確認しておく必要がある。


「ああ。アレの使い方にも大分慣れてきたみたいだから、多分大丈夫だと思うよ」


「任せた。それまでは、その女性部隊については俺が対処するから、捕縛用の道具を準備しておいてくれ」


 ナギサに操られているのだとしたら、彼女らを殺すのは忍びない。

 ちょっと大変だが、これも俺の甘さが招いた事態だ。

 甘んじて受け入れるとしよう。

 

 それから、俺は時たま王城より出撃してくる女性部隊を、魔法を使い次々と捕縛していく。


光糸封縛(シャイニングバインド)!」


 光の糸が、彼女たちをグルグル巻きにして身動きを取れなくさせる。

 その上から、こちらの兵たちが縄で捕縛していく。


 身体の自由を奪われながらも、尚も何かを叫び続ける彼女達に同情しつつ、俺は王都を囲む城壁を見上げた。


 待っていろよ、ナギサ。すぐにぶっ殺してやるからな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ