61 マリオネットソルジャー
王城へと侵入し、勇者3人と対峙した日から数日後。
朝早くに、俺はエイミーと共に再びアルストロメリアの街を離れることになった。
王都エストレヤへと軍を率いて向かったトラバント達から、緊急の連絡が入ったからだ。
「なんだか、かなり妙な状況みたいね……」
それを聞いたエイミーが引き攣った表情でそう呟く。
どうも王都を包囲するまでは、大きな妨害もなく順調に事は進んでいたらしい。
だが、昨夜から状況が一変する。
包囲した軍に対し、王都から散発的に攻撃が相次ぎ、それの対処にトラバント達は困っているそうだ。
攻撃があるのは当たり前だろ? と俺は最初思ったのだが、問題はそこでは無かった。
どうも攻撃を仕掛けてくる部隊の人員は、全て女性で構成されており、その多くが訓練など積んでいない普通の民衆らしい。
しかも彼女達は、どれだけ仲間に犠牲が出ようと構わずに突撃してくる為、対応に苦慮しているそうだ。
……話を聞いた限りでは、どうも何らかのギフトの力が関連しているように思える。
そして、そんな非道な真似を仕出かしそうなのは、敵の勇者3人の中でもナギサぐらいしか考えられない。
くそっ。あの時一旦引いたのは間違いだったか?
長期戦覚悟で、ナギサだけでも殺しておけば良かったと、俺は後悔するが、それも今更な話だ。
「とりあえず、詳しい状況を現地で確認してからだな……」
エイミーを背へと乗せ、俺は王都近くの陣地まで飛行魔法を使って急行した。
「……良く来てくれたね、エイミー嬢」
俺達を出迎えたトラバントは、かなり疲れた表情をしており、目元には青いクマが浮かんでいる。
「おい、ちょっと待て。俺を忘れてないか?」
「ああ、コウヤ。君もいたのか」
いや、お前。さっき俺と目が合っただろうが。
「折角来てやったのに、もう帰っちまうぞ?」
「はは、冗談だよ。で、早速だが、君たちに意見を聞きたいんだ」
恍けた顔から一転、真面目な表情へと変化する。
そして、現状をトラバントが語り始めた。
「初戦で大敗した敵軍は、王都内へと亀のように引き篭もったから、包囲自体はあっさりと成功したんだ」
どうやら俺が貸し与えた商品類が、色々役立ったようだ。
「流石に王都を戦場にする訳には行かないから、敵の補給線を断ち切った上で、こちらは長期戦の構えだったんだ。だけど――」
昨夜遅くから、籠城している筈の王都から、突如少人数の騎兵部隊が出撃してきたらしい。
最初は弓による遠距離攻撃で、あっさりと殲滅していたようだ。
だが、それが何度か続いた事を不審に思い、死体を回収してみれば、どれも女性騎士ばかり。
不気味に思っているところに、今度は歩兵部隊が攻めて来る。
しかも、今度は粗末な武器だけを手に、ロクな防具すら纏わない民兵たちだった。そして、その全員が女性。
そいつらを何人か捕獲し事情を聞こうともしたそうだが、狂ったようにただ敵意を向けてくるばかりで、話にならなかったそうだ。
一つ分かったのは、そいつらが元々王都に住んでいた連中じゃないか、ってことくらいだ。
この時点で事の重大さに気付いたトラバントが、俺達に緊急連絡を寄越したという訳だそうだ。
「……推測だが、まず勇者の仕業で間違いないだろう」
これが1人や2人なら、魔法で再現も出来たかも知れない。
だが流石に規模が大きすぎる。
「やはりそうなのか……。それでコウヤ、どうすればいいと思う?」
トラバントが、どこか縋るような声でそう尋ねてくる。
らしくない感じだが、それだけコイツも焦っているのだろう。
自国の民が、使い捨ての特攻兵扱いされてると知れば、それも無理はないか。
「元凶を殺すのが、多分一番手っ取り早いんだろうけどな……」
多分犯人はナギサだ。
あいつ一人なら、すぐに殺せるのだが……。
「勇者たちについての話は、報告で簡単には聞いたけど、どうも色々と厄介な連中みたいだね」
いっそ、全員がナギサみたいな性格だったなら、纏めて消し飛ばしてやるのだが……。
「もう一度、俺が出向くしかないだろうな。ドローンを使って、奴らの居場所を調べてみてくれ」
俺の存在を知った以上、多分王城にはもう居ないだろう。
奴らの居場所を改めて確認しておく必要がある。
「ああ。アレの使い方にも大分慣れてきたみたいだから、多分大丈夫だと思うよ」
「任せた。それまでは、その女性部隊については俺が対処するから、捕縛用の道具を準備しておいてくれ」
ナギサに操られているのだとしたら、彼女らを殺すのは忍びない。
ちょっと大変だが、これも俺の甘さが招いた事態だ。
甘んじて受け入れるとしよう。
それから、俺は時たま王城より出撃してくる女性部隊を、魔法を使い次々と捕縛していく。
「光糸封縛!」
光の糸が、彼女たちをグルグル巻きにして身動きを取れなくさせる。
その上から、こちらの兵たちが縄で捕縛していく。
身体の自由を奪われながらも、尚も何かを叫び続ける彼女達に同情しつつ、俺は王都を囲む城壁を見上げた。
待っていろよ、ナギサ。すぐにぶっ殺してやるからな。




