60A 黒の軍団
僕の名は、トラバント。
神聖教国ステラシオンの第2皇子だ。
父上達が亡くなってしまった今となっては、次期国王と名乗るのが相応しいのかもしれない。
現在、僕はアルストロメリア侯爵であるヴァイゼ殿の後援を得て、ルーシェリア帝国に奪われた王都エストレヤの奪還を目指していた。
幸いにも、ヴァイゼ殿の伝手によって、いくつもの有力貴族の協力を得る事に成功し、それなりの兵数は揃えることが出来た。
そして何よりコウヤから、異界の魔法具を大量に譲りうけた事により、その戦力は単純な兵の数では語れない程に、大きく強化されている。
そして遂に、僕たちの軍は王都の南に広がる平野部へと到達した。
そこでは帝国と枢機卿派の兵が、王都を守るように布陣していた。
王都は強固な城壁が有しており、それを利用した籠城策を取られるとこちらは予想していたのだが、どうやら外れたようだ。
布陣している兵の数も事前の情報より少ないらしい。それでも、こちらの兵数よりはかなり多いようだが。
「ヴァイゼ殿、果たしてこれは罠なのかな?」
「……恐らくですが、それは無いと考えて良いでしょう。コウヤ殿に頂いた魔法具にて、偵察を行っておりますが、特に怪しい動きは見られません」
あのドローンとかいう、空飛ぶ魔法具のことか。
遠く離れた場所の映像を得られるので、かなり重宝している。
そのいくつかは、不審に思った帝国側に撃墜されはしたものの、かなりの数を貸与されている為、作戦に支障は出ていない。
そしてそれらの活躍によって、敵軍の状況はこちらに筒抜けだ。
「偵察の情報によると、敵の統率にどうも乱れがあるようです。これは私の推測ですが、どうも敵の指揮系統が2つに分かれているような気配があります」
「なるほど。……敵も一枚岩では無いという訳か」
「何より、敵軍内に勇者の姿が見当たりません。これは好機かと……」
エイミー嬢の報告では、まだ彼らは3人とも健在だったはず。
若干引っ掛かるモノを感じるが、居ないならそれに越した事はない。
「分かった。予定通りに明日の夜明けと共に仕掛けるとしよう」
形も無い恐怖に怯えて、好機を逃す愚は避けたい。無論、警戒は必要だが。
そして迎えた翌朝。
こちらの軍の前衛には、コウヤが支給した漆黒の盾――たしか、コウヤは防弾シールドと呼んでいた――を構えた兵達が立ち並んでいる。
彼らは、同じくコウヤ支給の漆黒の服を身に纏っており、通称"黒の軍団"と呼ばれる存在だ。
彼らの持つ漆黒の盾は、その取り回しの良さや軽量さに反し、非常に高い防御力を持つ。
矢や投石は勿論のこと、並みの魔導師が放つ魔法すらも防ぐのだ。
漆黒の服も同様に優れた品であり、矢を弾き、刀傷も防いでくれる。何よりそれだけの防御力を持っているにも関わらず、重量は布服と対して変わらず、むしろ身に付けるだけで身軽に動けるのだから凄まじい事だ。
今回の戦闘では、軽快さと重厚さを併せ持つ彼ら"黒の軍団"を前面に押し出しつつ攻めるというのが、基本方針だ。
そして、ついに戦いの火蓋が切られた。
「作戦開始だ!」
「「はっ!」」
当初の予定通り、"黒の軍団"を前面に押し出す指示を出す。
彼らへと向かい、敵軍からいくつも矢や魔法が飛来するが、彼らの前進は止まらない。
「な、なんだこいつらっ!」
その上、彼らの前進速度は、通常の重装部隊と比べ遥かに早い。
あっという間に、敵前衛へと距離を詰めていく。
"黒の軍団"が優れているのは、決して防御面だけではない。
取り回しの良い盾を活かし、その裏側から的確に武器攻撃を加えて敵の数を削っていく。
彼らの軽快かつ巧みな立ち回りを前にして、敵の前線は混乱に陥っている。
結果現在の戦況は、彼らの活躍を軸にして、こちらが徐々に押している。
最後までこの調子で進んでくれれば無論それが一番だったのだが、流石に敵も黙って見過ごす程、馬鹿では無かったらしい。
別動隊を動かし、挟撃を狙っているとの報告が入ってくる。
「……残念だが、それは悪手だよ」
今回の戦場は、見晴らしの良い平野部である為、コウヤから支給された望遠鏡なる魔法具で、戦場の様子は随時把握できる。
それに加え、ドローンなる魔法具が戦場の空をいくつも飛び回り監視しているため、敵の行動はこちらに全て筒抜けだ。
「敵別動隊の、各個撃破の指示を!」
僕はそう部下に命じる。
こちらはコウヤ支給の無線機によって、各部隊の連携を密に取れる為、即時対応が可能だ。
むしろ、今回敵が取ったような小手先の戦術は、逆にこちらにとっては各個撃破によって敵の戦力をすり減らす良い機会となった。
その後も、敵が部隊を動かす度に、完璧な戦況把握に基づいた迅速な指示を下して、敵の戦力を削り続けていった。
「な、何故、こうも悉くこちらの作戦が読まれる!」
敵将の一人がそんな事を喚いているが、そんな言葉すらこちらには筒抜けだ。
「……まったくコウヤがくれた異界の魔法具は怖いな」と内心で思いつつ僕は、軍の指揮を続ける。
そうして気が付けば、僅か半日足らずで、彼我の兵士の数が逆転する程に、敵の兵力を大きく削り取る事に成功していた。
敵軍は、これ以上の戦力減は許容出来ないと言わんばかりに、王都内へと撤退していく。
下手に追撃し王都に被害を出すよりも、王都の包囲を完成させ、補給を絶ってから降伏を迫るべきだと僕は判断し、そう指示を下す。
こうして僕たちは王都を包囲し、もはやその奪還は時間の問題か、そう思っていた矢先に、問題が発生する。
王都から、小部隊による夜襲が頻発したのだ。
しかもそれらは全て、仲間の死では止まらない、恐れ知らずの特攻兵だったのだ。
……どうやら、まだ、僕の仕事は終わりじゃないらしい。
溜息を吐きつつ、僕はその対応に追われるのだった。




