表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/92

55 勇者たちの邂逅(前編)

 急いで玉座の間へとやって来た俺だったが、部屋の中ほどまで進んだタイミングで、隠形魔法が解けてしまう。


「貴様! どうやってここまで!」


 当然、護衛騎士たちに見つかりあっという間に取り囲まれてしまう。


「やれやれ。思ったより解けるのが早いよ……」


 感覚的にもうちょい持つかと思っていたのだが、それは間違いだったらしい。

 そう考えている間にも、騎士達が警戒しつつも包囲の輪を狭めてくる。

 と、その時だった。


「待ちなさい。……少しその男に話を聞きたいのです」


 玉座から立ち上がり前に進み出た金髪碧眼の青年――勇者ナギサが、そう言って護衛騎士達を制止する。


「……ですが」


「あの男は恐らく邪神ステラシオンが遣わした存在です。あなた達では、抑えるのは難しいでしょう」


 そう言いつつ、ナギサは腰から剣を引き抜き、臨戦態勢を取る。

 その動きに応じて、残りの2人もそれに習う。


「一人でこんなところにノコノコと出て来て、一体どういうつもりです? まさか僕たち勇者3人を相手にして、一人で勝てるとでも?」


 ナギサが訝し気な表情で、そう俺に問うてくる。


「まあ、やってみないと分からないけど、多分、行けるんじゃね?」


 構えから察するに、黒髪眼鏡の青年――勇者サトルには体術が、黒髪ポニーテールの女性――勇者ツバキには剣道の心得があると見える。

 だが、そんな常識的な技は、南宮流古武術の前には通用しない。


「……魔力に関するギフトをあなたは持ってるようですね? 確かに凄い魔力だ。ですがね、魔法なんかよりも強い力がこの世には存在するんですよ!」


 ナギサが構えていた剣が消えたかと思うと、いつの間にか大型の機関銃らしき物体を構えていた。

 普通は一人で扱えるような代物ではないが、勇者としての膂力のおかげか、軽々と持ち上げている。


「あはははっ! 死になさい!」


 そんな言葉と共に、ナギサが持つ重機関銃が火を噴く。

 そして無数にも思える銃弾の雨が一斉に俺を襲う。


 ……おいおい、いきなりかよ。


 面倒だと思いつつも、俺は対処に動く。


 直後、銃弾によって抉られた床の破片たちが大きく宙を舞い、俺の姿を覆い隠した。


「あははっ! 女神様やりましたよ!」


 俺の死体を確認することもなく、ナギサが勝利を確信したかのような哄笑を上げる。


「いや、何喜んでるんだ?」


 ナギサのお気楽さ加減に呆れた俺は、思わずそうツッコミを入れる。


「なっ、どうして!?」


 その理由にはなんの捻りも存在しない。

 ただ俺の周囲に展開した風魔法の結界によって、銃弾を全て逸らしたに過ぎない。


「で、魔法より強い力ってのは、一体どこにあるんだ?」


 俺は挑発めいた声色で、そうナギサに尋ねる。


「くっそぉぉぉ! 僕を馬鹿にするなぁっ!」


 ナギサがそう叫びながら、重機関銃を消し、何かを生み出そうとするが、


「やめなさい、ナギサ!」


 これまで事態を静観していたツバキが一歩前へと進み出て、ナギサに対し制止の言葉をかける。


「ですがっ!」


「いいからナギサは黙ってなさい。……ねぇ、あなた、名前は?」


 尚も言い募るナギサを黙らせ、ツバキがこちらへと視線を向ける。


「うん? ああ、俺の名前はミナミヤコウヤ。まあ、今は只のコウヤだな」


「嘘は言っていないようね……」


 握った大剣を撫でながら、そんな事を呟くツバキ。

 大剣の持つ能力で、こちらが嘘をついていないか確認しているのだろう。

 とここで、何かに気付いたかのように、ツバキの顔色が急速に変化する。


「って、え? ミナミヤコウヤ……? あなたまさか、ミナミヤビャクヤの関係者?」


 俺と同じ世界の、まして日本人なら爺の事を知っていてもおかしい事はない。

 一応、各国政府が必死に情報統制を掛けていたはずだが、ネットがある今の時代に、そんなもので隠し通せる人間じゃないからなぁ……。


「まあ、そのなんだ、一応孫だ」


「……そ、そう」


 自分で聞いておいて、ツバキはどこか気まずそうに目を逸らしてくる。

 失礼な奴め。


「おい、コウヤと言ったか? お前、本当に"ビッグスマッシャー"の孫なのか?」


 これまでずっと無言だったサトルが、食い入るような表情でそう聞いて来る。

 ちなみに"ビッグスマッシャー"とは、爺さんが持つ渾名の一つだ。


 この渾名は、以前に爺さんが日本の隣の某国一帯を、丸ごと消滅させた事件に由来する。

 それによって、某大国全てと周辺国家の一部が世界地図から消え、日本は領海を大きく広げる事態となった。

 そして何より酷いのが、そんなトンデモない事を爺さんがやらかした理由が「ただ気に食わなかっただけ」である事は、一生墓まで持っていくつもりだ。

 俺もあの辺りの連中には大分嫌がらせを受けていたが、「何もそこまでやらなくとも……」と、当時は同情した覚えがある。


「あ、ああ、不本意ながらな」


「なるほど。これは楽しくなってきた。"ビッグスマッシャー"の孫もかなりのやり手だったと噂に聞いている。ここは一つ手合わせ願おうか」


 そう言ってサトルが、素手で構えを取る。

 こいつら、なんか俺よりも好戦的じゃね?


「いやいや待て待て。俺はお前らと戦いに来た訳じゃない。ただちょっと話を聞かせて欲しいだけだ」


「……話って何よ?」


 黙ったサトルに代わり、ツバキがそう返してくる。


「なぁ、お前らさ。一体何が目的なんだ?」


「何が目的って……。女神様から下された使命を果たす事よ」


 何を当たり前のことを、そう言わんばかりの強い口調でツバキは言う。


「ふむ、その下された使命ってのは具体的には?」


「邪神の支配からこの国の民たちを救うことよ!」


 邪神とは女神ステラシオンの事を指しているのだろう。

 ……まあとても善良な神とは言い難い存在だし、邪神扱いも已む無しだな。


「だからって、クーデター画策して、戦争引き起こすのは流石にやり過ぎじゃね?」


 俺らしくない極真っ当なツッコミを入れる。


「うっ、まあそれは……」


 ツバキもその辺りについては、実は内心かなり気にしていたのだろう。

 図星を刺されたように押し黙る。


「うるさい! 女神様の言葉は絶対なんだ! 大体、この国の連中がいくら死のうが僕の知ったこっちゃない!」


「ナギサ、あなたっ……!」


 吐き捨てるように叫ぶナギサを、キッとツバキが睨み付ける。


 大体だが、勇者たちがそれぞれが、どんな連中なのかなんとなく俺にも見えてきた。


 ……よし、まずはこのナギサとかいう奴をちょっとシメる事にしよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ