4 初取引
本日更新4回目です
アルの後をついてやって来たのは、かなり大きな建物だった。
周囲の他の建物と比べても明らかに大きい。
どうやら相当に大きな商会の本部らしく、人の出入りが激しい。
「こっちだよ」
アルの先導の元、恐る恐る建物へと立ち入った俺は、応接間のような部屋へと案内された。
「じゃあ早速だけど、品物を拝見させてもらおうか」
対面に座ったアルが、値踏みするような視線をこちらへと向けながらそう言う。
俺は用意された器へと塩を入れ、それをアルに渡す。
「なっ、これが塩なのかい……?」
そこにあるのは至って普通の真っ白な塩だ。
日本人なら見慣れているはずで、特に驚くような代物ではない。
「ええ、そうですけど?」
「ちょっと失礼」
そう言って、指で塩を掬いペロッと舐めるアル。
「確かに塩だ。……それも、不純物などが混じっていない純粋なモノだ。凄いよこれは! 一体、どこで手に入れたんだい?」
「あー、その……」
流石にネット通販で買いました、などとは言えない。
「ああ、いやすまない。つい興奮してしまったようだ。商人にとって仕入れ先などの情報は重要な機密だからね。聞き出そうとして悪かったよ」
そう言って頭を下げるアル。
「頭を上げてくれ、アル。俺は気にしてないから」
こんな風に下手に出られるのは、俺はどうも苦手だ。
「そうか、ありがとう」
また軽く一礼した後、鋭い視線をこちらに向けてくる。
これは獲物を逃がさんとする目だ。
「それでこの塩は、うちの商会で引き取りたいんだけど、どうかな?」
思わず頷きそうになるが、焦るな俺。
さっきの反応を見るに、塩は十分な商品価値があるのが分かった。
ならばまずはその価値の確認だ。
「これをアルは、一体いくらで買い取ってくれるんだ?」
「そうだね……。全部売ってくれるなら、5万Gで引き取るよ」
その言葉に俺は、素早く脳内で計算を巡らせる。
5万G……。
その全てを買取に出せば、1.5万円×金貨5万枚で、7億5千万円になる計算だ。
たったの塩5kgが7億5千万円に化けるとか、やべぇよ……。
「ああ、それで俺は構わない」
動揺を外に出さないよう、努めて冷静にそう答える。
「じゃあ取引成立だね」
晴れやかな笑顔を浮かべて、アルが手を差し伸べてくる。
その手を俺は黙って握り返す。
「じゃあ、僕は支払いの準備してくるから、少しここで待っていてくれ」
「りょーかい」
よっしゃー。
これで一気に俺も大金持ちだ!
異世界に来て初日での大勝利を前に、俺の心は激しく踊っていた。