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20 冒険者ギルド

 デポトワール商会に出向いた次の日、いつものようにファレノ商会を訪れていた。


「そう言えば昨夜、デポトワール商会が何者かに襲われたらしいよ」


「へぇ、物騒だな」


 俺がその襲った張本人なのだが、そんなことはおくびに出さず答える。


「商会にいた連中、何かに怯えるようにペラペラと自分たちがやった悪事について話したらしいよ。……ホント何があったんだろうね?」


 アルの視線には、何かを探るような色が見えたが、わざわざ自分から説明する理由もないだろう。

 サラッと流しておくことにする。


「不思議なこともあるもんだな。……なぁアル、冒険者ってどんな連中か知ってるか?」


「ああ、勿論知っているよ。うちの商会でも何かと世話になってるからね」


 他所の街への荷物輸送時の護衛や、力仕事の人手が足りない時などに冒険者を雇う事があるらしい。


「お前との取引をフィナたちに任せようかと思うんだが、流石に子供ばかりだと危ないだろ? だから護衛を雇えないかなと思ったんだが……」


 流れで孤児院を保護することになったせいで、やらないといけない事が沢山増えてしまった。

 まあ日本で暮らしていた頃を思えば、そう悪い忙しさでもないのでいいんだけどな。


「うーん。流石にそっちは僕も管轄外だからね。大して意味はないかもだけど、紹介状くらいなら書いてあげるよ」


「ああ、助かる」


 なんだかんだいいつつ、この街ではアルは中々に知れた顔のようだ。

 きっと無駄になることは無いだろう。


「コウヤ、フィナ君たちに取引の仕事を任せて、君は何をやる気なんだい?」


「詳しい内容はまだ秘密にしておくが、色々やるつもりだ。……まあ儲け話があったら、お前にも噛ませてやるよ」


「ふふっ、楽しみにしてるよ」



 ファレノ商会を後にした俺は、アルに教えて貰った通りの道を進み、無事冒険者ギルドへと辿り着いた。


 中に入ると、中は広い酒場といった雰囲気であった。

 まだ昼間なのに、飲んだくれている連中も見受けられる。


「おいおい、そこの坊ちゃんよぉ。お前みたいな奴に冒険者は無理だ。帰んなっ!」


 スキンヘッドの大男が、こちらを睨みながらそんな事を言ってくる。


「そーだ、そーだっ!」


「餓鬼はさっさとけえんな!」


 そんな男の声に同調するように、周囲からヤジが飛んでくる。


「やれやれ無駄に元気なことで……」


 俺はため息をつくと、彼らは無視することにして奥の受付へと向かう。


「おいっ、餓鬼。いい度胸ぉしてんなぁ!」


 ガタンという音ともに、スキンヘッドの大男が立ち上がり、受付までの道に立ち塞がる。


「そこをどいてくれないか?」


「てめぇが地べた舐めて、俺様に謝れば許してやるよ!」


 こちらを威圧するように、男がそう凄む。

 俺も別に背が低い訳ではないのだが、コイツは2mを超える巨体だ。

 傍から見れば、大人が子供をいびっているように見えるのかもしれない。

 とはいえ……。


「野生の畜生共でも、本能で実力差を感じ取るという。それ以下のお前は、果たして何と呼べばいいいんだろうな」


 そう呟いた次の瞬間、俺は大男の背後へと回り込むと、右手で腕を捻り上げ、左手で後ろ頭を掴み床へと押し倒す。


「ぐへぇっ!」


 大男の口から、情けない声が漏れる。


「さっきの言葉を返させて貰おう。地べたを舐めて、謝れば許してやる」


 俺は床に押さえつけた大男にそう呼び掛けるが、返事はない。


「強情な奴だな。もっと痛い目に――」


 そう言いかけた所で、大男が白目をむいて、口から泡を出していることに気付く。 


「……やれやれ、見た目よりひ弱な奴だな」


 俺は捻り上げていた腕を離し、立ち上がりながら周囲を見回す。

 気が付けば、ヤジを飛ばしていた連中を含め、誰もが口を半開きにして呆然としていた。


「そんな、あのグスタフさんが、あんな餓鬼相手に……」


「グスタフさんは、ビショップランクだぞ! 何かの間違いだ!」


 僅かに遅れて、周りからそんな声が聞こえてくる。

 多少気になるワードもあったが、邪魔者も居なくなったことだし、今はさっさと受付に向かうことにする。


「すいません、騒がしくしてしまいましたね。今、受付大丈夫でしょうか?」


 俺は気持ちを切り替えるように笑顔を、浮かべて受付嬢にそう問い掛ける。


「あ、は、はい! 冒険者ギルド、アルストロメリア支部へようこそ! ご依頼をお探しでしょうか?」


 受付嬢が一瞬ビクッと震えたが流石はプロ、すぐに気を取り直して営業スマイルを浮かべてくる。


「ん? いえ、そうではなくて、単に俺は仕事の依頼をしに来ただけですよ。紹介状もほらここに」


 そう言ってアルから貰った手紙を見せる。


「……という事はもしかして、冒険者では無いのですか?」


「はい、そうですけど?」


「そんなっ、あれ程の実力があるのに勿体ない! 是非、この機会に冒険者登録をお願いします!」


 受付嬢がカウンターから乗り出し、食い気味にそう言う。


「いや、そんな事を言われましても……」


 若干、その勢いに気圧されながらも、俺はどうにかそう返す。


「でしたら、まずは説明だけでも聞いていって下さい!」


「え、えと。じゃあ、とりあえずお願いしようかな?」


 受付嬢の勢いに押されたというのもあったが、それ以上に冒険者という職業にも興味はあった。

 説明を聞くだけなら、特に問題は無いだろう。


 受付嬢に手を引かれ、俺は奥の部屋へと向かった。


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