2 金貨の価値は
本日更新2回目です
異世界に来た俺は、どこかの都市の街中に立っていた。
俺の視界には、見るからに如何にも中世ヨーロッパ風といった街並みが広がっている。
どうやら今俺がいるのは、市場か何かのようだ。
丁度お腹もすき始めていた頃合いだったので、まずは何か食べ物でも買おうかと屋台を覗く。
お金については、女神様から餞別として金貨を100枚も貰っていたので、まず心配はないだろう。
貰った袋の中から金貨を一枚取り出し、それを眺めながら俺は思う。
金貨ってのは、相当高価なモノだ。
普通その下には銀貨や銅貨などの下位貨幣が存在しており、それらの何十倍、いや下手すれば何百倍の価値を持つ。
それが100枚袋の中に入っている。
しかもこの金貨、見た感じ混ざりモノなど無く品質も高そうな感じだ。
屋台で食い物を買うのに金貨なんて使ったら、おつりが多すぎて苦情が来るかもしれない。
まあそんな危惧は脇に置いておいて、とりあえず腹を満たすべく屋台のおばちゃんへと声を掛ける。
〈全言語翻訳〉のギフトのおかげで、会話に不都合など無い。
「おばちゃーん。串焼き一本頂戴!」
何の肉かは分からないが、肉の串焼きが売っていたのでそれを買う事にする。
「一本120Gだよ」
「これで足りるかな?」
そう言って俺は金貨を一枚手渡す。
「んん? はぁ、これぽっちで足りる訳ないじゃないか。120Gっていったんだよ、わたしゃ」
なん……だと……。
予想外の返答に俺の思考は混乱に陥った。
「な、なぁ、これ一枚で何Gくらいなんだ?」
「何言ってんだい、あんた。そんなの見たまんま1Gに決まってるじゃないか」
呆れた表情でそう答えるおばちゃんに、俺は目の前が真っ暗になりそうになる。
金貨一枚で1G??
いやゴールドって言ってるから、そうなのかも知れないけど、それだとたかが串焼き一本で金貨120枚は有り得ないだろう!?
きっとこのおばちゃんがぼったくりなのだろうとその屋台を後にし、他の店を覗いていく。
が、俺の予想に反して、どこの屋台も似たような値段だった。
使われている通貨はどこもG。
日本とは文明レベルが違う為ハッキリとは言えないものの、感覚的にはどうも1G=1円くらいの価値と考えてよさそうだ。
それが意味することは即ち、今の俺の手持ちは僅か100円に過ぎないという事実だった。
100円でどうしろって言うんだよ!
思わず俺は内心で女神様にそう毒づく。
「はぁ、日本だったらこれ一枚で結構な値段になりそうなんだけどな」
俺はこの使えない金貨を眺めながら、独り言のようにそう呟く。
ふと自分で呟いた事が気になりだし、スマートフォンを呼び出す。
検索検索っと。
俺は金の買い取り価格が書かれたサイトを探す。
"ミスリルプラザ"という名の貴金属買取専門のサイトが見つかった。
そこの情報によると、持っている金貨のサイズや重さが正確に測れない為ざっくりになるが、大体この金貨一枚で大体1万5千円くらいの価値があるようだ。
このサイトで買い取ってくれねぇかな、などと無茶な事を考えながらサイトを眺めていると、ある一文に気付く。
『いつ、どこからでも買取致します! 不要な貴金属が有る方は、今すぐ買取申込ボタンを押して下さい!』
どこからでもか。だったら異世界でも買取に来てくれるのかね。
半ば投げやりな気分で、俺はボタンを押す。
すると突然、目の前に宝石ケースのような箱が出現した。
「な、なんだこれ?」
状況が掴めない俺は、取り敢えずサイトの買取説明を読み進める。
なになに……。
どうやら買取申込ボタン押せば、直ぐに専用の箱が送られてくるらしい。
にしても急すぎるだろ!
で、その箱に品物を入れて、箱を閉じると自動で返送される仕組みだそうだ。
恐る恐る俺は、金貨を1枚だけ入れて、箱を閉じる。
すると、箱が目の前からパッと消え、同時に手にもったスマートフォンにメールの着信がある。
何事だと思いつつも、メールを見ると、
『買取申込ありがとうございます。査定の結果、以下の金額で買い取らせて頂きます』
そこには、1万5千円という書かれていた。
そのお金はどこへ?
そう思ったがメールにはまだ続きがあった。
『代金は以下の口座に振り込ませて頂きました』
そこには俺が日本に居た頃、口座だけ作ったまま放置していたネット銀行の口座番号が記されていた。
なんで会員登録もしていないのに、メールが届いて口座もバレているんだという突っ込みが頭に浮かんだが、それよりも先に入金の確認に思考が飛ぶ。
ネット銀行の俺の口座を確認した所、ちゃんと1万5千円が振り込まれていた。
うおおぉっ、と一瞬テンションがあがる。
1枚でこれなら、全部売ればおよそ150万円程になる。
これは美味しい、そう思ったのは一瞬だけだった。
「おいおい、いくら日本円手に入れても意味ねぇじゃん……」
そうだった。
ネットを使えるので忘れがちだったが、ここは異世界なのだ。




