13S 少女の想い(前編)
本日更新2回目です。
今回は、フィナ視点の話となります。
わたしはフィナ。コウヤ様の奴隷です。
半年程前までは、わたしは神聖教国ステラシオンの外れにある農村で暮らしていました。
農村での暮らしは決して楽なモノではありませんでしたが、優しい両親の元、貧しくも幸せな日々を送っていました。
ですがそんな日々もあっさりと終わります。
村を盗賊が襲ったのです。
そしてお父さんもお母さんも、大人達は皆、殺されてしまいました。
わたしや1つ下の弟、それに同じ歳くらいの子は、捕まって奴隷商人に売られてしまいました。
それからの生活は、あまり思い出したくありません。
鉄格子の中に入れられ、会話も許されず、ただ一日中馬車に揺られるだけ。
食事もロクに与えられず、言う事を聞かなかったら、すぐに暴力を振るわれました。
そんな生活がしばらく続いた後、馬車での生活は終わり、今度はどこかの街に売られる事になりました。
「旦那ぁ、こいつは処女ですし、もうちょい高値で買い取ってくれてもいいんじゃ……」
「馬鹿が。商品にこんなに傷をつけやがって! これ以上は1Gたりとも出せんぞ」
そんなやり取りの後、今度は別の奴隷商人に私は売られました。
前と違って今度の商人は、暴力を振るうことはありませんでしたが、食事は相変わらず粗末なモノでした。
ただでさえ小さかった私は、更にやせ細っていきます。
全身には無数の傷があり、ガリガリの娘など、一体誰が欲しがるのでしょう。
案の定、何度か奴隷を買いに来た方と顔合わせの機会はありましたが、皆、私の姿を見てもすぐに汚いモノでも見たように視線を外します。
このまま、誰からも買われずに死んでいくのだと、私は絶望に暮れていました。
そんな時でした。コウヤ様と出会ったのは。
何時ものように、一瞥されて終わりだと思っていた私の予想に反し、コウヤ様はわたしに視線を向けると一瞬目を見開いた後、明らかに動揺した表情を浮かべてました。
その視線に悪意を感じなかったわたしは、つい縋るような視線でコウヤ様を見つめました。
どうか、わたしをここから助けて欲しい、と。
果たしてそれが、伝わったのか。コウヤ様がわたしを買い取ってくれる事になりました。
こうしてコウヤ様の奴隷となった訳ですが、この時のわたしはコウヤ様に対してこれから何をさせられるのかと、怯えていました。
勝手ですよね、わたし。自分から買って欲しいとアピールしたのに。
ですが、そんなわたしの不安はコウヤ様のおかげですぐに霧散することになります。
自身の暮らしている宿屋へとわたしを連れて帰ったコウヤ様は、第一声にこう言いました。
「さて自己紹介の前に、まずは傷の手当てをしようか」
その言葉と共に、コウヤ様が右手に何かを取り出したかと思うと、その場に箱がいくつも現れます。
何が起こっているのか分からず、わたしはただその様子を呆然と見守っていました。
それからコウヤ様は箱の中から新品の綺麗な布を取り出しました。
それに別の入れ物に入った透き通った透明な水を、染み込ませていきます。
「まずは手足からだな。少し染みるかもだけど我慢してくれよ」
「は、はい」
言葉の意味を理解しないまま、反射的にそう返事をすると、コウヤ様は驚くべき行動に出ました。
「ひゃうっ」
なんと、その布でわたしの身体を拭き始めたのです。
予期しない事態と、布の水分が傷に染みた事が重なって、つい変な声が出てしまいました。
そして当然のごとく、薄汚れたわたしの身体を拭いたせいで、真っ白な布は見る見るうちに汚れで黒く染まっていきます。
奴隷なんかに、こんな高そうな布を無駄にしてもいいのかと、わたしは心配になりましたが、コウヤ様はそれを特に気にした様子はありません。
次にコウヤ様は、丸い容器を取り出し、その中に入っているクリーム色のネバネバを私の傷口に塗っていきます。
この時、何を塗られているのかという不安は勿論ありましたが、奴隷が主人のすることに反抗できる訳も無く、わたしはされるがままになっていました。
すると、塗られた箇所にかゆいような熱いような妙な感覚が走ります。
思わずそこを見れば、傷口がウネウネと動きながら徐々に塞がっていくではありませんか。
その光景は、自分の身体のことながら正直ちょっと不気味なものでした。
しかし、こんなにすぐ傷を塞ぐ薬など、噂に聞く最高級の魔法薬でもないと有り得ません。
当然、わたしは実物など見た事ありませんので断言はできませんが、多分これがきっとそうなんでしょう。
奴隷相手にそんな高価なものを、顔色一つ変えずに使うコウヤ様の凄さに、この時のわたしはただただ驚きを感じていました。
その後、手足だけではなく全身の傷の治療を終えたわたしの身体は、村で暮らしていた頃、いえそれ以上に綺麗な姿になっていました。
「おお、随分良くなったな」
本当にその通りです。
「は、はい。ご主人様のおかげですっ!」
これだけの施しを与えてくれたコウヤ様に、わたしは精一杯の感謝を込めてお礼を言いました。
それから自己紹介を改めて終えた後、今度はコウヤ様が見たこともない変な形をした銀色の袋を私にくれました。
どうやら食事らしいのですが、どうやって食べるのか良く分からず、コウヤ様に助けを求めます。
「これは……?」
「ああ、こうやって食べるんだよ」
そう言ってコウヤ様が食べ方を実演してくれました。
それを真似して私も、袋の中のものを吸い出します。
「こうでしょうか……。ゴクゴク」
その瞬間、わたしの口の中にこれまで味わったことがない不思議な食感が広がります。
それに遅れて、サッパリとした甘い味わいが口の中を駆け巡ります。
「……こ、これ、凄く美味しいですっ!」
思わずわたしは、そう口に出していました。
その不思議な食べ物にすっかり虜になったわたしは、あっという間に全部を食べ尽くしてしまいます。
あまりの名残惜しさに、ついコウヤ様を見つめてしまいました。
もの欲しそうな目で見るなと、怒られるかと思いましたが、コウヤ様はただ苦笑だけして、新しいのを渡してくれました。
その後、わたしはすっかり夢中になって、いくつも袋を空にしてしまいました。
「す、すいませんっ。あんまり美味しくってつい夢中に……」
「いや、別に構わないよ。少しは元気になったかい?」
我に返ったわたしは、すぐに謝りましたが、逆にコウヤ様は優しい笑みを浮かべてこちらの調子を窺ってくれました。
「はいっ! それになんだか、身体の奥から力が湧き出てくるような気がします」
言葉通り全身に力が駆け巡っているような不思議な感覚です。
もしかして、これも魔法の食べ物か何かなのでしょうか?
その後、コウヤ様が少し真剣な表情となり、話を切り出します。
「フィナ。君に与える仕事の説明をしたいと思う」
これまでの感じから、コウヤ様が優しい方だというのは、何となく理解はしました。
ですが、これだけの施しをされた以上、それ相応にキツイ役目を与えられるだろうと、つい身構えてしまいます。
それを察したのか、コウヤ様が表情を緩めます。
「と言っても別に大したことじゃない。要は雑用かな。俺一人じゃ手が足りない時に、力を貸してくれればそれでいい」
そして微笑みを浮かべ、声色もわたしを安心させるように優しいものへと変化します。
「まあそう気を張らず、ゆるゆるとやっていくとしようじゃないか」
その言葉を聞き、わたしもまた緊張を解くことが出来ました。




