11 家を買おう
本日更新3回目です。
アルとの取引を初めて1ヶ月近くが経過していた。
その間に5000万G以上の大金を手にした俺は、遂に家を買うことを決意した。
アルに頼んで不動産を扱っている商会を紹介してもらい、そこへ向かう。
「……ファレノ商会のアルメヒ様からの紹介状ですか。わたくし、イステイト商会の長を務めております、ルーイヒと申します。以後お見知りおきを」
ルーイヒと名乗ったその中年男性からは、見るからにお人好しといった雰囲気が感じられる。
そのせいか俺の隣に立っているフィナも、特に怯えた様子は見せていない。
油断は禁物だが、アルの紹介だしそう気を張る必要もないだろう。
相変わらずのアルの顔の広さに、内心で感謝を捧げる。
ホント助かるよ。
「それでどのような物件をお探しで?」
「予算は3000万G。それでなるべく広い家を買いたい。この際、建物はボロボロでも構わない」
そう切り出して、俺はルーイヒに詳しい条件を伝える。
長いこと発展した日本で暮らしてきた俺にとって、この世界の住居はどうやっても、不満が出る。
ならば、とりあえず土地と家を購入して、おいおい改築なりなんなりしていけばいいと考えたのだ。
広さについては、今後店を構えることを考えた時の為だ。
「ふーむ。そうですなぁ。……ああ、ここならその条件に合うかもしれません」
俺の要望に見合う物件は無いかと、資料の紙をパラパラと捲っていたルーイヒが、ふと動きを止める。
「最近こちらで引き取ったばかりの物件でして、元々は孤児院として使われていたらしく、建物はかなり老朽化が進んでいるようです。しかし敷地はご要望を満たすだけの広さがあるようですね」
「そうだな……。良ければ一度、実物を見せてくれないか?」
「畏まりました。ご案内致します」
そう言ってルーイヒによって連れられて来た場所は、確かに俺の要望を満たしていた。
雑草の生い茂った荒地が広がっており、その中心に平屋の大きな建物が存在する。これが孤児院だろう。
建物自体はかなりボロボロで、正直今すぐここに住むのは難しそうだが、それは別に構わない。
「これでいくらなんだ?」
「アルメヒ様のご紹介ですし、2500万Gでどうでしょう?」
この世界での相場はまだ把握していないが、それでもこの土地の広さに対してその値段は安く感じられる。
正直即決したい所だが、焦りは禁物だ。
じっくりチェックして、何か見落としが無いか確認すべきだ。
「建物がどれくらい傷んでいるのか実際に見て確認したい。中に入っても構わないか?」
「ええ、勿論です。わたくしも一緒に参りましょう」
「コウヤ様、私もついて行きます!」
3人で連れ立って敷地内へと入り、建物の入り口へと立つ。
「近くで見ると、ホントにボロボロだな」
「何だかちょっと触るだけで崩れそうですね……」
「そうですな。しかし何か妙な感じがしますな……」
ルーイヒが首を傾げながら、そう言う。
「何がだ?」
その返答を聞く前に、異変があった。
「どうかお待ち下さい!」
そんな言葉と共に、建物の中から一人の女性が姿を見せた。
「おい。ここは今は空き家のはずじゃ無かったか?」
思わず俺はルーイヒをジロリと睨み付ける。
「その筈なのですが……」
ルーイヒも何が何だか分からないといった表情をしている。
「どうかお願いです。この孤児院を子供達から取り上げないで下さいっ」
女性がそう叫ぶともに、深々と頭を下げる。
その言葉に、俺とルーイヒは思わずお互いに顔を見合わせた。




