百万石のお墨付き
伊達政宗(以下政宗):「小十郎!小十郎!!」
片倉小十郎(以下小十郎):「なんですか?殿、そんな血相を変えまして」
政宗:「家康からの書状が届いてな……」
「見てみろ。これ。」
(小十郎。書状を受け取り)
小十郎:「……フムフムフム」
「……ほう。我が旧領であり、
かつ今は家康と敵対関係にあります上杉領を
自力で奪い返したモノ全てが
我が伊達のモノとなる。
……と言うモノでありますか……」
政宗:「なぁ。これで堂々といくさが出来ると言うモノである。」
「……とは言え。」
「あの狸親父のことだから
このお墨付きに喜んだ我が伊達と上杉とが消耗戦を繰り広げている隙をついて
上杉領並びに
わが伊達領を奪おうと画策しているかもわからない上、
徳川と上杉の戦いがどうなるかも
まだ定かでは無い由
今は積極的な動きは控えておこう……」
(……と上杉領との境付近に陣取る伊達軍のもとに石田三成挙兵の報が入る)
(……と同時に後詰めを残し、徳川軍が宇都宮から撤退)
政宗:「……小十郎。こたびのいくさ。どちらが勝つと思う……」
小十郎:「こればかりはそれがしにも図り兼ねぬとこ多々ありますが
長引きそう。
であることは確かであります。」
政宗:「……そうだろう。」
「どちらが勝つかわからないにせよ、
最終的にどちらかが勝つ。
もしくは10年以上に渡る泥沼戦に陥ったとしても
我が伊達家が天下のイニシアティブを握ることが出来るよう
勢力を拡大させておく必要があるな……」
(……と世に言う「百万石のお墨付き」発行のキッカケともなりました
南部領攻めを敢行。
元の領主でありました和賀忠親を援助する形で……。)
北と南に戦線を拡大させる伊達政宗。
そんな政宗のもとに
山形の最上家より一通の書状が送りつけられることになります。
小十郎:「……最上からの救援要請でありますか……」
政宗:「同じ徳川方である故。助けに行ったところで何の利益にもならないのであるが……」
小十郎:「しかし殿。山形には母君がいらっしゃいますよ。」
政宗:「……母君か……」
(しばしモノ想いに耽る……)
政宗:「小十郎。我が母君の手料理知っているか?」
小十郎:「……いえ。」
政宗:「母君の作る手料理はな。」
「モノ凄い味がするんだよ。」
「冗談抜きで目の玉が飛び出すぐらいの味でな。」
「小田原行く前にも。ひと月半。のたうちまわるハメに遭い」
「それ故。参陣が遅れに遅れ」
「あやうくサルに首を奪われ掛けるぐらいの手料理を作る母君であってな……」
「小十郎?」
「……そんな母君を助ける必要はあると思うか?」
小十郎:「殿。今の言葉。他言してはなりませぬ。」
政宗:「……でも事実だろ。」
小十郎:「殿。たとえ事実でありましても」
「今の言葉だけは漏らしてはなりませぬ。」
「最上と上杉が消耗したのち、伊達が侵攻すれば良い。」
「と、小十郎が言ったことにしまして」
「それを殿が嗜め、救援の兵を送りだした。」
「……と言うことにして下さいませ。」
政宗:「……そうか……」
と。最上救援の兵を派遣する伊達政宗。
ただそれは
本意でのモノでは必ずしも無かったこともあり、
上杉と戦うことも
最上と連携するわけでも無く
遠巻きに陣を敷き
戦況を見つめるのでありました。
……そこに上方より
家康勝利の報届く。
政宗:「(……わずか1日で終わってしまったのかよ……)」
「……こうなっては仕方が無い。」
「出血を覚悟の上で上杉領に侵攻するまでだ。」
と兵を展開するも
福島城攻めに手間取り
刈田郡2万石を回復したところで停戦。
小十郎:「……殿。南部家より家康に対し、
和賀忠親叛乱の首謀者が我が伊達家である。
との訴えが為されたそうであります。」
政宗:「(……鶺鴒の眼は家康も知っているからな……)」
「かくなる上は是非も無し。」
「封じておけ」
小十郎:「はっ!?」
政宗:「口をじゃ。口を封じるのじゃ。」
和賀忠親は陸奥国分寺で自害。
最終的に一揆扇動自体は不問に処されることになったのでありましたが
戦前のお墨付きは悉く拒絶され、
自力で奪い取りました
刈田郡2万石のみの加増に留まった伊達家でありました。




