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第9話

一年以上ほったらかしてすみませんでした……!

次ぐらいにやっと攻略対象が出てくる予定です。


 ガタガタと音を立てる馬車の不規則な振動に身体を揺らされながら、私は窓の外の景色を眺めていた。

 どこまでも広がる緑の草原と、遠くに見える山々。さらには雲一つない青空と、絶好のお出掛け日和だ。


 しかし初めて塀の外に出たというのに、内側にいる時と大して変わらない景色に正直がっかりもしていた。

 馬車に揺られて三十分は過ぎただろうか。だというのに家一つ、人っ子一人出くわさないのだ。


 こんな調子で今日中に王都に到着できるのだろうか。こういう時って数日前から準備するものじゃないの? ゆっくり昼食まで食べてから出発って、どう考えても時間配分間違えてるよね?

 心配になって、向かい側に座るお父様に尋ねてみた。


「大丈夫だよ。馬車だけで王都に向かうつもりはないから」

「どういうことですか?」

「そろそろ見えてくるだろう。……ほら、外を見てごらん」


 お父様に言われるまま再び窓の外に視線を向けると、黒っぽい塔のような建物がぽつんと立っていた。


「『召喚塔』と呼ばれる物でね。あそこから王都まで一瞬で転移できるんだ」

「そんなものが……」


 どうりで出発までのんびりできたわけだ。


「年に数回、領主達が王都に集まり王下会議が行われるんだけど、グレアキア王国は広いからね、僻地を治める貴族が、会議の日までに王都に到着するにも一月以上かかってしまうこともあったんだ。それを解消するために造られたのが召喚塔なんだよ」

「便利ですけど、悪用されたら大変ですね」


 逆を言えば、賊などが簡単に王都に侵入できるということになる。


「確かにね。けれどあれは王国側が扉を開けてくれない限り、此方でどんなことをしても転移することはできない仕組みになっている。そして扉を開くことができる魔法師も、国王が認めた一部に限られているからね、今まで悪用されたことはないんだ」

「へぇ……」


 王都へ赴く側も、盗賊に襲われないよう傭兵を雇う必要もないし、宿泊費も浮く。

 お金のない我が家にとっては、良いことづくめだな、召喚塔。


 馬車が止まり、降りて目の前に聳える塔を見上げる。高さは三十メートルくらいはありそうだ。

 塔の周りには見張りなどはいなく、お父様が扉を開け、いくつかの燭台に火が灯っているものの薄暗い屋内に足を踏み入れる。

 家具など一切配置されていない円形の空間をぐるりと見やると、壁に階段らしき段差があり、螺旋状に上へと繋がっている。


「メデューサ、こちらにおいで」

「はいお父様」


 部屋の中心に立つお父様のもとへ近付くと、ひょいっと抱え上げられた。


「おっお父様?」

「危ないから、しっかり掴まりなさい」


 片腕で抱えられた状態は確かに重心が不安定なため、慌ててお父様の肩にしがみつく。

 お父様は空いた右腕を横に振ると、ぶわッと足元から風が巻き起こった。そのまま軽く床を蹴ると、風が下から押し上げるように身体が宙に浮いていく。


「すごい……」


 ぐんぐん離れていく地面を見つめながら呟くと、耳のすぐ傍でくすりと笑う声が聞こえた。


「正直に階段を登るより、余程効率的だろう?」

「それはそうですが……疲れませんか?」


 大人の男と子供を宙に浮かせるのだ。相当な魔力を消費するのは容易に想像できた。お父様はうーんと考える素振りを見せるが答えはせず、そうしてる内に天井付近の階段に軽い動作で着地した。


「その腕輪はマーリン卿から貰ったものだったね」

「えっ、あ、はい」


 唐突な質問に少し驚きながらも頷く。私はお父様に見えるように左腕を持ち上げた。薄い金色のリングに、マーリン様の杖に付いていた虹色に輝く白石と同じ物が埋め込まれた腕輪。


 マーリン様が訪れた翌日、早速魔法のレッスンをしてもらおうと向かった時、この腕輪を渡されたのだ。



(君はある程度の魔法は扱えるようじゃが、魔力のコントロールはまだまだのようじゃ。この腕輪は君の魔力を抑制する効果がある)

(えっ、それじゃあいつものように魔法が使えませんよね?)

(よいかの? 君は紫瞳(アマラント)。魔力量は平均よりずっと多い。しかしそれが仇となり、通常僅かな魔力量で済む魔法に過剰な魔力を注いでしまい、膨大な魔力の噴出に幼い身体が耐え切れず、結果倒れてしまうのじゃ。心当たりはあるじゃろう)


 マーリン様の幻覚世界での烏のことを指しているのだとすぐに気付いた。私が気絶するのは多すぎる魔力に身体が追いついてないことが原因だと、彼はわかっていたのだ。


(君は何かに恐れ、焦っているように見える。しかし基本をしっかり修めねば、どんな者も必ず大事な場面で失敗するじゃろう)


 私の心を見透かされたようでドキリとした。けれどマーリン様の言葉の確信めいた響きに、私は黙って頷くしかできなかった。



「この風魔法は一見多大な魔力を使っているように見えるけれど、実際は右足裏にだけ風を集中させて身体を持ち上げているんだよ」

「ええっ!?」

「あとはバランスをとっているだけ。便利だろう?」


 それってすごく危ないんじゃないの!?

 きっとお父様は魔力を抑えてもこんなことが出来ると伝えたいんだろうけど、もうお父様の身体能力の高さに全部持ってかれたよ。


「上に飛ぶだけなら慣れれば簡単なんだよ。でも横に移動するとなると緻密な魔力制御が必要になってくるから、あんまりやりたくないかなぁ」


 ハハハと笑うお父様。

 リタといい、お父様といい、私の身近にいる人達のスペックの高さに項垂れるしかない。私立派な魔法師になれるのかしら。自信なくすわ……。





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