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第九話 受付嬢からの依頼

久しぶりにギルドの依頼受付を見る。普段はただ迷宮に潜って魔石を換金してお金を稼いでいるけれど、それだけじゃちょっと物足りなくなってきたため、行く階層に何か依頼が無いかと調べているのだ。内容は様々で特定の魔物の魔石を取って来いだの迷宮で取れる鉱石が欲しいとかそんな所だ。ただ当然俺の潜れる階層というのは冒険者の人数が多いわけで多少以来の取り合いになっている事もあるのか、目ぼしい依頼が無かった。もう少し潜っていけたら、いっきに探索できるレベルにある冒険者の数が減って依頼も高報酬になる上に増えるんだけどなぁ。ギルドは特定の個人やチームに依頼を出すこともあるらしい。危険度や難易度などを考えた上での指名だそうで、その依頼は報酬も良く美味しいと言われている。でもその依頼を持っていくのはブルーローズとかなんだけどね。まだまだ俺には縁遠い話。いつかチームを結成出来たら指名で依頼が入るようになれればいいな。

ぼんやりと依頼を見渡すけれどこれ以上の発見も無いだろう。大人しく迷宮行って魔石拾ってくるとしようかな。

「あれっ。アオイさん!」

「エリーさん。どうも。お世話なってます」

ギルドの受付に宿にと何かとお世話になっている知り合いの受付嬢さん。もう彼女とは顔なじみと言ってもいいようなぐらい顔を合わせている。俺の迷宮に潜る時はギルドの受付で、迷宮を出て美味しい物を食べようとすると宿の一階の食堂で出会うのだ。彼女のシフトと俺の生活パターンがうまく重なっているために顔を合わせる機会も多い。

「聞きましたよ。アオイさん。何でも一気に迷宮潜ったらしいじゃないですか。今何階なんですかー?」

「17階に行ってるよ。魔物が虎みたいな奴で怖くてさ。早く次に行きたいよ」

人を楽に超える大きさを持った虎の魔物。鋭い牙が口から生えていて、見るだけで足がすくみ上るほどの凶悪な面をした魔物。それがまた動きが早くて魔法が当てにくいんだ。その上接近されたら間違いなく食い殺される。速くて強いってのは本当に勘弁してほしい。

「えっ!? もう17階行って戦えてるんですか!? 流石、噂に絶えない人ですね」

「う、噂ってなんですか」

「あれ、お耳に入ってません?」

「良い噂ならたぶん俺の耳に入ると思うんだけど、悪い噂なら入らないんじゃないかな」

「あら、察しが良いですね。でも、一つは良い噂ですよ」

エリーさんはイタズラっぽく言う。

「尋常じゃないスピードで迷宮を進むルーキーが居るっていう話で、注目のルーキーとしてアオイさんの名前が挙がってます」

「あれ。本当に良い噂だ。やったー」

「でも、これだけじゃないんです」

先ほどの表情とは一転、少しだけ目を伏し目がちにして言う。

「夜な夜な街外れの誰も居ない公園で楽しそうに独り言をいう怪しい魔法使い、と」

「違うよ! 誤解だよ! それ、妙な意味で有名になっちゃうじゃないか!?」

「……事実なんですか?」

「心配そうに言わないでください! 俺はおかしくないです! それは、事実ですけど」

「……やっぱり、そうなんですね」

「違いますー!」

公園での独り言と言うのはカーネリアとの会話の事。カーネリアは実体化も霊体化も変わらないとの事で、好んで霊体化しているんだけれどその場合俺意外には見えない事になりそういう誤解が生まれてしまったのだ。それもいつもというわけじゃなくて、たまに月を見ながら話す程度。それをたまたま見られて噂になってしまった。ちくしょう。今度からカーネリアを実体化させよう。それなら誤解も無いだろう。

エリーさんに必死に弁解してやっと理解はされずとも納得してもらった。もうちょっとうまく説明できればよかったのだけれど、それは難しい。隠してるわけでもないんだけどね。

「あ、アオイさん!」

「はいはい」

「あの、この後17階行きますか?」

「うん。行く予定だよ」

「良かった! あの、私のミスで依頼書に載っていない依頼があるんですけど受けて貰えませんか? 少し急ぎの依頼なんですけれど」

「いいけれど、内容教えて。無理だと思ったらやらないよ」

「はい。これなんですけど」

そうして受付の奥から出された依頼書に目を通す。

17階での依頼。目標はサーベルタイガーと言うらしい。恐らくは牙がサーベルのような短刀の形をしているからだろうと予測する。その魔物の捕獲という珍しい依頼だった。ただその依頼報酬が結構大きい。捕獲と言うのは難易度が高いからというのはわかるけど、財布事情の問題でやってみたくなった。

「捕獲ってどうすりゃいいの?」

「専用の魔法具を使ってもらいます。束縛の魔法がかかった縄をお渡しするので、それで捕縛し転移の間まで連れて来て欲しいんです」

「なるほどね。いいよ。受けよう」

「本当ですか!? ありがとうございます! 助かりますっ!」

エリーさんは飛び跳ねながらお礼を言って手を握りブンブンと上下に振ってくる。相変わらず元気だなあ。

「では、こちらが魔法具になります。これで捕獲し転移の間にいる職員までお届け下さい。魔法具の使い方はわかりますか?」

「大丈夫! それじゃ、行ってきまーす!」

「あっ、ちょっと! その魔法具は取り扱いが難しくて事故が!って、もーっ!」

そんな声を背中に聞きつつ足早に迷宮に向かう。

新しいおもちゃを手に入れた子供のような心境ではやく魔法具を使いたくて仕方ないという気持ちだ。あの虎をロープで縛りあげてやる。でも、このロープじゃ牙で斬られそうだなと少しだけ心配になったりするが良く見るとかなり丈夫なロープなようで、問題無さそうだった。

――迷宮行くときは一声かけなさいよね

前に一人で暴走してしまった後に、カーネリアと約束した事を思い出す。一人では二度迷宮に行かせないとの事で必ずお目付け役として自分も行くと言ってくれたのだ。何となく保護者に見守られているような安心感を持つから不思議だよなあ。でも実際カーネリアが居た方が迷宮は安心していけるわけで。この前もあまりに虎の動きが早すぎて魔法を外してピンチに陥った時もしっかりとカバーしてくれた。一人だったらそこでやられていたという場面だ。やっぱり迷宮は一人じゃ無くてチームだよなぁ。

何だかんだ言ってチームに誘われた事はある。けれど、全て断っている。理由はただ一つ。先約があるからである。でも、それまで一人というのは案外難しいのではないかとか考えてしまう。ただ、迷宮で成長を実感するのは一人の時だ。迷宮は孤独な方が成長が速いと感じる。そこらへんは一長一短。自分のスタイルもあるのだろうけど、俺は行けるところまで一人で行きたいと思う。実際はカーネリアが申し訳ない程度に居てくれるから一人では無いのだけれど。迷宮内では俺が主導して自由にやらせてくれている。

『おーい。カーネリア。迷宮いくよー』

遠く離れたところに居るカーネリアに連絡を入れる。携帯電話を彷彿させるような通話の魔法だ。

『今行くわ。転移の間で待ってなさい』

返事が来たので走って迷宮へと急いだ。待たせたらどんな目に合うかわかったものじゃない!

受付も手早く済ませて、足取り軽く迷宮へと入って行った。


お読み頂きありがとうございます。

先日はアクセス数が多かったためか、筆が踊るように動きました。

皆さんいつもありがとうございます。

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