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第七話 青い薔薇の棘

先ほどまで誰も居なかった談話室。そこに数人が居り、くつろいでいた。目があったのは獰猛さを隠す気も無い獣のような男。

「オイ、何とか言えよ」

 いきなりの事だった。

一瞬で距離を詰められ、頭を鷲掴みにされる。

まずい。コイツかなり強い。

足が地面から離れ、体が空に浮いた。

「っぐあ」

このままでは不味い。強化魔法を使い無理やり腕を引きはがそうと抵抗するが、強化した俺の力よりも、尚この男の力の方が上回っているようで抵抗もできない状態だった。

「一人前に抵抗してんじゃねぇぞコラ。 黙ってさっさとどこか行きやがれ。お前みてぇな奴が来るような所じゃねえんだよ、ゴミ野郎」

片腕だけで俺を持ち上げ、何度も言葉を発するたびに壁に叩きつけられる。

「オイ、いい加減にしとけよ。アーノルド。流石のアタシもそれは見過ごせねぇぞ」

ドスの聞いた女の声が飛ぶ。しかしこの男が手を止めるはずが無かった。

「こういう弱い奴見たら腹立つんだよなァ。才能無いのに、一生懸命頑張っちゃってよォ。滅茶苦茶にしたくなるンだよ」

風が鳴る音が聞こえた。それほどまでに素早く、双剣を手にした少女がどうやら男に斬りかかって止めてくれたらしい。

「オイ、さっさと逃げろ。転移を使え」

「シルヴィー、そいつの肩を持つってのか?」

「コイツの肩を持つつもりはねぇよ。アンタの敵になってるだけだ」

「クソアマが」

「オイ、お前、さっさと逃げ」

静かに詠唱していた魔法を解き放つ。

「石の拘束」

「チィッ、なにしやがるッ。ゴミ野郎」

「お返しだッ。エクスプロージョン」

男の前に、威力を抑えた小さな爆発を起こす。手足を全て石で拘束した後の攻撃、易々と衝撃を逃がす事をさせず、直撃を受けさせた。

「っく……はぁ」

思わず膝をついた。耐えがたい衝撃を何度も、何度も食らったせいだ。バカ力め。頭からは血が流れ、目に入ろうとする。右目には血が入ってしまっているようで、目を開けるのも辛い状態。

「いてぇじゃねぇかよクソ野郎。死んどけ」

「オイ、アーノルドッ!? くっそ」

最後に覚えているのはそこまでで、すぐに強い衝撃が襲い意識を刈り取られた。






「気が付きましたか。アオイさん」

目を開けるが、その途端感じるのは頭の痛さ。身体の節々にも痛みが残り、違和感がある。

ああ、そうか。俺、アイツに……。

「アオイさん?」

思慮に更けていた頭が一気に覚醒する。声に聞き覚えがあったからであり、その声は俺のすぐ傍、というか上から声がかかる。

「ク、クリアさん? えっ?」

クリアさんの体がすぐそばにあり、俺の視界には胸から上だけが確認できる。目の前にある凶悪な塊を触りたい衝動にかられるが理性がそれを許さなかった。そのあとにやっと気が付いた。俺はクリアさんに膝枕してもらっているという事に。

「う、うわっ」

飛び上がるように起き上がる。一体何が起こっているのかわからない。

「本当は僕が膝枕したかったんだけどね」

「黙れウォーレン。男が男の膝枕してたら気持ちわるいだけだっつーの。アタシはクリアの楽しそうな顔みれたから満足だ」

場所はさきほどの談話室。様子は一風変わっていて、クリアさんとウォーレンと、

ピンクの髪の女の子、先ほど俺を助けてくれた双剣の子が居た。

「まだ動いちゃダメですよ。結構ひどい怪我してらしたんですもの」

おいで、と言うように膝を叩くクリアさん。飛び込みたくなる欲求を必死にこらえる。

自分自身で体の様子をスキルを通して見る。大まかな疲れなども把握できるから、頻繁にしているのだけれど、中々に状態が悪い。外傷も完治はしていないようだった。

「ヒール」

自分で簡単な応急処置を行う。一先ずはこれで落ち着くだろう。

「え、えっと。俺はどうして、あ、いやそれはいいや。クリアさんは何でここに?」

「オイ、ウォーレン。コイツ何も理解してないようだけど、工房の方で何してやがったんだ。二人でイチャイチャしてただけなのか?」

「あ、本当だ。何も説明していなかったね。話しかけるだけのつもりだったのに、何故か一緒に遊んでたんだよ。いや、僕たちの気があったのが悪いよ」

「本当にイチャイチャしてただけなのかよ。頭いてぇ……」

「アオイくん。事の発端は昨日のある噂でね。どうしてか、ブルーローズが新人を勧誘したという噂が広まっていたんだよ。そしてクリアに聞いてみれば、つい口にしてしまったと言う。そこまで知ってしまったら僕が気にならないはずが無いじゃないか。ねぇ?」

「クリアを攻めるんじゃねぇよ」

「いえ、それ自体は私が言った事ですから。それに、一つ言っておきますけどブルーローズに勧誘したわけではありませんので」

「なるほど。クリア、良い事いうじゃねえか。この男とチームを組めるならブルーローズを抜けるって事だな。クリアが抜けんならアタシも抜けてついてく」

「……シルヴィー」

「そうなってしまうとブルーローズは解散してしまうんだけどなぁ……」

話の流れでやっと合点がいった。ここに居るメンバーはブルーローズのメンバーなのだ。おそらく、あの男も含めて。

「ああ、そうだそれすらも言ってなかったよね! アオイくん。僕がブルーローズのチームリーダーのウォーレンだ。ここはブルーローズのホームでね。一応、転移でしか来る事ができないようになっている。一応部外者立ち入り禁止という決まりがあるんだよ。まぁ、工房の場所の関係上僕が真っ先に破ったルールなんだけれどね」

「本当に何も説明して無かったんだな」

「思い出して説明しようとしたさ。それに気が付いたのがアオイくんが工房を出た後だったんだよ」

ウォーレンは一度、コホンとあらたまり、向かい合って口を開いた。

「アーノルドの事は本当にすまない。ただ謝ることしかできない」

「私からも。事情はお聞きしました。申し訳ありません」

「アタシもアーノルドの奴を止めきれなくてごめんな。アンタを守りきれなかった」

「ん、ああ。大丈夫、大丈夫」

「……アオイさん」

いつものように能天気に言おうとしたけれど、ちょっとだけ難しかった。

「悪い。それじゃ、俺帰るよ。お世話になりました」

そういって転移の魔法を発動し、魔法陣を描く。

「アオイさん、負けないでください!」

転移する際にクリアさんの声が妙に心に響いた。

転移して場所を移動する。

胸のわだかまりが消えない。イライラとした感情が熱く燃えたぎっている。

原因はアーノルドと言われる理不尽な男。それに為す術なくやられた自分にもか?

この行き場の無い感情をどこに向ければ良いのだろう。

何も考えずに迷宮へと足は向かって行った。











「ああ、私。どうしたらいいのでしょうか」

強気で力強くチームを引っ張る、チームのエースを務める白薔薇ことクリアが弱音を吐いた。

「あの、クリア。さっきのチームを抜けるって話、冗談だよね。流石にあれは僕もビックリしたんだけど」

「……知りません」

「アイツ、そんなに良い魔法使いか? 多少器用な魔法使いってところだろうけど、あのクラスならごろごろ居るだろ。アタシにゃわからん」

「彼の実力は中の下と言った所だったよ。多少才能に恵まれているだろうけれど、一般の魔法使い止まりだろう。その中で何か輝くものがあれば勧誘も考えたが、どうもまだピンと来ないな。チームに誘う理由は僕にはわからなかったね。友人としてなら大歓迎だけれど」

「クリアが色目を通して見ただけだろ。性格や行動はアタシ好みだったけどな。ま、それだけだ。どうしてもアイツと組みたいなら、ブルーローズを抜けて前線から下がるこった」

クリアは苦々しい表情を浮かべる。

「まだ、抜けません。彼が追いつくのをブルーローズで待ちます。だから、アーノルドともウォーレン、貴方とも組んで迷宮に入ります」

「うん、それで良い。チームとして動くときはチームとして動いてくれれば僕は何も言わない。抜けたいなら好きにすれば良い。来る者は僕が選ぶが去る者は追わないから」

「ッチ、単純なアーノルドみたいなバカよりもアンタみたいなやつの方が苦手だよ。クリア、気分転換にどっか飯食いにいこーぜ」

「え、ええ」

「行ってらっしゃい」

ウォーレンは気持ち悪いほど完璧な笑みを浮かべて二人を見送った。


お読み頂きありがとうございます。

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