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第五話 忘れぬ約束

一階のボスを倒して、転移の間へと戻ってきた。

相変わらずここには人が多い。今から迷宮に入るだろうチームが数組。疲弊した様子で休息を取っているのがまた数組。こうしてみると、なるほど。やはり迷宮はチームを組んで誰かと一緒に行動するものなのだと実感する。そういえばギルドでチームを募集している事があったのを思い出した。ギルドを仲介役として、チームとして活動するために人を募集していた。一回きりといったものから、長く組もうというさまざまな募集が入り混じっていた。治癒専門の魔法使いとして、どこかのチームに入れてくれないかな。とっても大事に守ってくれて迷宮探索ができそう。なーんて、そんな面白くなさそうな事するぐらいなら一人で行きますって。

「クリアさん、護衛ありがとう。すごく動きやすかった。良いねチームって」

クリアさんへ顔を向けて言う。やはり無理させてしまったのだと実感する。クリアさんは目に見えて疲れが浮かんでいる。勝手な事をしてしまった。

「アオイさん。一つ、言いたい事があるんです」

「なに?」

「私とチームを組みませんか」

何の冗談かと思った。

だけど、彼女の顔は真剣そのもので、とてもそんな風には見えない。

「お断りしとく。俺はまだまだ新米の魔法使いなんだ。とっても、クリアさんとは釣り合わない」

「でも! 少なくとも私は貴方の才能やセンスの片鱗を見ました。ブルーローズや、ホワイトフェザーという有名なチームの魔法使いとは違う。もっと、別の何かを見ました。貴方はきっとすごい魔法使いになる」

声高々に、クリアさんが言った。周りの注目を集めている気がするけれど無視する。

「今の俺はまだまだ弱い。だからさ。ちょっとだけ時間を下さい。きっと追いついてみせるから。その時は俺の方から頼みに行くよ」

クリアさんと組みたい気持ちは俺にもある。だけど、ダメだ。あの強さに俺はついていけない。チームというのは、同じレベルの人が組んで背中を預け合うそんな関係だと思う。だから、今は組めないと言った。それで、納得してくれただろうか。

「わかりました。私、待ってますから。そ、それでは!」

「あ、ちょっと!」

待っていると言い残して、足早に逃げて行ってしまった。まだお礼言い足りないのに。

「だ、大丈夫だよな。ねぇ、カーネリア」

「良いんじゃないの? あの娘強いし、可愛いし、おっぱい大きいし」

「それは言える」

「……うわあ」

「誘導だ! 今のは悪質な誘導だよ!」

少しだけ恥ずかしくなって転移の間をそそくさと出た。足が向いた場所は、公園。ここなら、人気も少ないと思ったからだ。ベンチに座ってから口を開く。

「カーネリア、実体化できる?」

「ええ、もちろんよ」

そう言って、光が集まりカーネリアの体を形成した。

姿を現したのは、人と変わらない体を持った女の子。赤い髪に赤い瞳。幼さを残した顔立ちはそのままに、可愛らしいドレスのような服を着ている。

「やっぱりかわいいな」

「うっさいバカ」

「よかったな、力戻ってさ。でさ。カーネリアはこれからどうすんの? 力、戻ったんでしょ」

俺が供給してた魔力はもう必要ないレベルでカーネリアは安定している。もともと

力が戻るまでという契約だったので、これで俺とカーネリアの関係は終わりなのかと思った。

「ええ、そうね。だけど、これであんたとお別れってわけじゃないわよ。そりゃ、力は戻ったっていうけど半分以下だし。そもそも、あんたが一人前の魔法使いにならなきゃあたしの約束が済んでないじゃないの」

「カーネリア……!」

「まぁ、これだけ力戻れば後は自力でどうにかなるレベルだから、あんたの助けなんかこれっぽっちも要らないのよね。だから、今度はあたしがあんたを助けてあげる。これから冒険者するっていっても、あんた頼りなさすぎるもの。あのクリアって娘とチーム組めるようになるぐらいまでなら、居てあげない事もないわ」

「カーネリア~! よしよし」

「頭を撫でるなッ!!」

「もうしばらくよろしくなー。ありがとな」

「はいはい。仕方ないから一緒に居てあげるわ」

照れてあらぬ方向を向いたカーネリア。尚も頭を撫で続ける。

「いつまで撫でてんのよっ!? いい加減にしなさい!」

手を振り払われて、撫でるのを制止させられた。

「あ、そうだ。今ならたぶんできるかも。ちょっと、そこ座ってなさい」

何か思い出したように、俺の正面に立つ。

そして発動したのは一つの魔法、のようなもの。実際はちょっと形態が違うものだ。悪意はないとわかり、その魔法を受け入れる。

「これ、なんだったの?」

「ステータス見てみなさいよ」

そう言われてギルドカードを見る。すると数値が変動しているのに加えてスキルに精霊の加護という文字が加わっている。

「うわ、なんだこれ。数値が凄い上がってるよ!」

「ふーん。やっとマシになったようね。それにしても軒並み低いわね。ちょっと心配だから後で強化の魔法教えてあげるわ。それで身体能力は誤魔化しなさい。魔力は相変わらずね、人にしては高いけれど一つ一つの魔法に魔力込め過ぎなのよ。もう少し魔力節約しなさい。そうすれば中級魔法も使えるようになるから」

「これって、何階層レベルかな」

「10階までなら余裕って感じね。そこからは魔物倒してステータス上げながらゆっくり進むことになると思うけど、あんた基本的に戦い方とか問題ないし大丈夫でしょう。まぁ、魔法も少しずつ教えてあげるから。急がず行きましょう」

「ああ、よろしくお願いします」

「はいはい。あんたも初めての戦いであれだけやったんだから疲れてるでしょ。さっさと宿でも取って休みなさいよ。体調崩したら何もできないんだから」

「ん。そうだな。ギルド行って魔石売ってお金にしてから宿取るよ。……あれ、心配してくれた?」

「そんなワケないでしょう。勘違いしないでよ」

「むふふっ」

「ムカツクッ!」

戯れるように殴ってくる。ああ、本当に実体があるんだな、と認識した。



ギルドの建物の扉をくぐる。相変わらず、大きく立派な建物だ。素材の売買を扱っている受付へ行き、カウンターの上に魔石を並べる。小さな魔石が四つ、大きな魔石が一つ。これでいくらになるだろう。

「アオイ様、こちら全部で6万と2400リルになります。よろしいでしょうか?」

「はい。大丈夫です」

了承すると、カウンターの上に硬貨が置かれる。金色が六枚、銀色が二枚、銅貨が四枚だ。それを受け取ってポケットに入れると、宿を取るために街の大通りへと歩く。大通りでは宿だけでは無く武器や防具、魔法具など様々な店があるがそれらは冒険者のための店となっている。

その中の一つにギルドのマークがついた大きな宿を見つけた。これがギルドが運営している宿なんだろう。

「すいません。しばらく部屋貸して欲しいんだけど」

「はい! 大丈夫ですよ! 一人ですか?」

「一人ですー」

カーネリアは基本的に霊体となっているために寝床は必要ないと言い張っているから、俺だけの分で良い。

「見ない顔ですね。新米かな?」

「そうそう。今日一階制覇した新米だよ」

「わぁ! おめでとうございます! これから、大変でしょうけど頑張ってくださいね! 何か困った事があったら、聞いてください。私、朝はギルドの受付もやってるんで!」

「ホント? 一つ聞きたいんだけどさ、ブルーローズってチーム知ってる?」

「へ? もちろんじゃないですか! 迷宮の下層まで行ってる有名チームですよ。たしか今は三十階ぐらいまで行ってるはずですよ」

予想以上にすごい所だった!?

すごいな。三十まで行っているのか。俺もそこ目指して頑張ろう。

「あれ、なんか燃えてますね。ライバル視してるんですか?」

「そんな感じだよ。追いつくって決めたんだ」

「へぇ。白薔薇さんにでも憧れてるんですか?」

「白薔薇?」

「クリア=セラフィスさんですよ! 知らないんですか!?」

「へぇ。白薔薇っていう呼び名があるんだ。それは初めて知ったよ」

「あ、そうだ。面白い噂あるんですよ。ついさっき聞いたんですけどね。クリアさんが、ある魔法使いをブルーローズに勧誘したんですけど。その魔法使いさん断っちゃったそうなんですよ。すごい大物ですよね! 今、その魔法使いが誰かっていうの皆知りたがってるんですけど。あれ、どうかしました?」

「え、ああ、うん。魔法使いさん、何かいろいろ事情あったんじゃないから、あはは」

好奇な目で見られているな、とは思ったんだ。だけど、まさか偶然出会った人がそこまですごい人だとか思わないじゃないか。あまつさえチームに誘われて、理由をつけて断ったけれどそれが噂になるなんて!?

「えっ。もしかして、あなたなんですか!?」

「いやいやー。こんな新米の魔法使いにお声がかかるわけ無いじゃないですか。やだなー」

「ウソですね」

「……はい」

というわけで、仕方なく事情を話すことに。断ったというよりは実力不足を感じて身を引いたという風に広めてほしいと受付嬢さんに嘆願しておいた。

「なるほど。アオイさんも苦労してらっしゃるんですね。でも、期待の新人さんを知れて良かったです!」

「うん。というわけでよろしくお願いします。あ、えっと、名前なんだっけ」

「あ、申し遅れました。私ギルドで働いてる、エリーって言います。よろしくお願いします!」

「エリーね。うん、お世話なります。で、宿代いくら?」

「わぁー!ごめんなさい忘れてました!えっと、一泊1000リルで食事は別となります」

「先払いで10泊分お願い」

そう言って金貨を1枚取り出して渡した。

「はい。こちらお部屋の鍵となります。三階の奥の部屋となっております。出かける際は鍵をお預かりいたしますので、お声掛けください」

「ありがとう。またよろしくねー」

「こ、こちらこそ!」

階段で三階へと上がり、部屋に入る。

ベッドとクローゼットだけが置いてある、簡素な部屋。でも、このぐらいで十分だった。固いベッドに身を投げうつ。そろそろ疲れが限界になってきた。まだ大丈夫だと思っていたけれど、案外体は疲れていたようだ。

「悪い、カーネリア。俺、もう、寝る」

「はぁ。そりゃあんだけ頑張ったらそうなるわよ。おやすみなさい」

「おやすみ」

おやすみなさいと言い合えるって良いな。そんな安堵と喜びとを胸に覚える。

そのまま、意識は深く落ちて行った。


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