第三十六話 闘技会への招待状
来客を知らせる涼しげな音が鳴り、玄関へ向かう。
今日はたまたま皆が揃って予定が無い日で、のんびりとした一日が期待されていた。
引き戸を開けて、来客者を招き入れる。
「こんにちは。アオイさん!」
「やあ。エリーさん。こんにちは」
いつものギルドの受付嬢の正装をして来たのはエリーさん。
少し前に借りていた宿で生活面を、ギルドでは仕事面を支えてくれた人だ。
「どうぞ。上がって」
そう言った後すぐに魔法で来客の鈴を二度鳴らす。
来客者が上がりますよ。という秘密のサイン。今頃だらしなく寛いでいたハーディはたたき起こされている頃だろう
「お邪魔しますね!」
元気にはきはきと言うその言葉だけで明るくなる。
廊下を抜けて、リビングへと招き入れ、座らせる。
リビングには紅茶を淹れるクリアさんとせっせと片付けをして一息ついたらしい姿のカーネリアが居た。
「アオイさん!? そのお二人も一緒に住んでらっしゃるんですか!?」
「うん。そうだよ。シルバーウィングは全員ここに住んでる」
「仲がいいんですね。でも、ヤキモチ焼いちゃいますよ」
「いやいや、そういうのじゃないから!」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべるエリーさん。どうもゴシップの類は大好物の模様。
「どうぞ、エリーさん」
そう言ってクリアさんが紅茶を運んでくる。気が利くというか、体が軽いというか。あ、俺の分まで。
「良妻って感じですね。冒険者以外の一面を見れちゃいました!」
「いやいや! そんなっ!」
持っていたトレイで顔を隠しパタパタと仰いでいる。ああ、可愛いなあ。
「で、エリーさん。今日は何かあった? それとも、遊びに来てくれた?」
「遊びに来るついでにお仕事ですよー」
そう言ってにこやかな態度のままいくつかの書類を取り出した。
「あ、その前にこれどうぞ。召し上がってください」
そう言って出されるのは焼き菓子の詰め合わせ。気を遣わなくてもいいのに。
「ありがとう。頂いておくよ」
「はい! えーと、それで今日アオイさんに見て頂きたいのはこちらでして。アオイさんだけじゃなくてシルバーウィングさんにですね。みなさんお揃いのようなので丁度良かったです」
ハーディも呼んだ方が良いかなと思って探すが見当たらず。カーネリアが指で庭を指しているので目を向けると、居た。四肢を投げ出してだらしなく寝ているが耳だけはピクピクと動いているためにたぶん聞き耳は立っているのだろう。文字通りに。
「これは……面白そうだな」
一枚の書類に目を通す。見出しにはデカデカと目立つ文字が
【ジェミニトーナメント】
ギルドが主催して行う大会の事らしい。
「ジェニミ……?」
「アオイさん。ジェミニですよ。兄弟や姉妹、二人で寄り添う恋人の事を指す言葉です。ですから、ほら。ルールが」
――――2on2
二対二のチーム戦の事を指している。原則同じチームを組んでいる必要があると表記されているため、このトーナメントは個人では無くチームの力を試すものなのだろう。
「えっと、何々……。賞金総額100万リルだって!?」
金が絡むと少し出てみたいという気になるのは俺だけだろうか。そんな邪な考え方を持つ同志は居ないかと横目で他の顔色を窺って見るが……居ない。庭のハーディも……ピンと尻尾を立てて次第に横揺れになる様子が窺えた。これは乗り気だな!
そんな思いを強かに胸に秘めて、広告を読み進める。どうもそれだけじゃ参加するのは気が引けるんだけどなあ……。
ふいに、一文が目に入った。
――――優勝賞品
迷宮で発見された逸品『赤い魔石』
ふいにカーネリアが頭を過ぎる。俺が緋色の魔石と呼ぶ、何らかの形で失われたカーネリアの力の結晶。まさかそれが賞品としてかけられて人の手に渡されるのか……。
俺の考え過ぎだろうか。
通常魔石に色がつかないために、色を付けて口八丁で売る行為は実際にあった。しかし、そんなマガイ物がギルドをして看破できず、このような位置にまで上る事は無いだろう。
だとすると・・・・・・。
頭の中で試案した。
答えはすぐに出る。
――――確かめよう。
「俺、出るよ」
「本当ですか!? 嬉しいです。話題性の高いシルバーウィングが出てくれると、一層盛り上がりますよ!」
「あ、でも一人じゃ出れないのか」
「一応、出るだけは出れるんですけれど。どうしても、人数不利は大きなハンデとなってしまうので、オススメはしてませんよ?」
「だよなあ」
クリアさんは正直乗り気では無いような気がする。これだけ大きな大会だ。彼女のトラウマになっているかは定かではないが、少なからず因縁のあるブルーローズも出るんじゃないかと思われる。
「あんた、お金に釣られたの?」
「そう、そんな所だよ」
「呆れた。強欲ね」
「いやぁ。お金も名誉も両方手に入るじゃないか。悪くない話だと思うけどねぇ~」
トーナメントという言葉を聞いた瞬間、聞く耳を無くしたカーネリアが言って来た。
言葉には出さないが、腕を組んで俺との間に壁をつくって話すあたり、「あたしは絶対出ないからね」というのが聞かなくても分かる。
はてさて、俺は一人で出る事になるのだろうか。それはちょっとだけ、寂しいよ。
「エリーさん。一つ質問よろしいですか?」
「は、はいっ。クリアさん、どうぞ」
「ブルーローズは参加されるのですか?」
「はい。一組登録してもらってます。誰とは言えませんけど!」
クリアさんの、形の良い眉が歪んだ。
人差し指を細い顎に当てて、考えを巡らせる様子を浮かべる。
一度目を伏せて、次に開くときにはその瞳には強い意志が見えた。
「アオイさん。私と出ませんか?」
「喜んで!」
「ふふっ。そう言って頂けて嬉しいです」
大丈夫? と声を掛けたくなる。彼女は恐らく、自分と戦おうとしているのだ。それを拒む理由は無い。ただ寄り添い、背中を押してあげるのは俺の役目だ。
「素敵―! 分かり合って、目と目で会話してるみたいです!」
何気なく合わせていた目を、気まずさで逸らす。無意識の行動に理由なんて無いよエリーさんと弁解をしたくなる。
その後、エリーさんと他愛の無い話をした後、まだ回る所があるとエリーさんはすぐに行ってしまった。
登録だけはしっかりと済ませたので、大会に関しては問題無いだろう。
今は一人、リビングでエリーさんが持ってきた書類に目を通している所。ルールなどの確認だ。
勝利条件は相手が行動不能になる事。場外。棄権といった言葉が並べられている。重度の怪我を負わせるのは御法度らしく、ギルドからも除名されるとの注意書きが少し大きな文字で書かれていた。
うまく気絶させたり、場外のルールを使える案は無いだろうかと。実際に王都エリンにある闘技場を見てくるのが一番早いかもしれない。闘技場で戦っている人たちは、独自で戦い方を研究しているだろうし。
「珍しいわね」
ゆっくりとした足取りで、俺の正面にカーネリアが座る。短い白のスカートに上品なブラウス。今日はそんな気分だったのか。髪を二つに括ってツインテールになっている。そのせいか、顔の小ささが際立っている。
「何が?」
「あんたが大会なんてのに興味がある事よ。あんまり人前で目立つタイプじゃないでしょう。どちらかと言うと、大会に最近流行りの魔法を調べにいくようなタイプでしょ」
「あ~、うん。そうだね。それはもちろんやるよ。だって、自分が出てる時以外って案外つまらないじゃん。大会って」
「で、本当の目的は何?」
「金と地位と名誉だってさっき……」
「あんたウソつく才能無いって気づきなさいよ。顔がわざとらしすぎるのよ。せめて無表情で居なさい」
「あ、あれ。ダメだったか」
「で?」その言葉を放つや否や、足を組み少し威圧的になる。
「いや。これこれ」
賞品という一文をカーネリアに見せる。
吊り上がった目がさらに鋭くなった。
「何であたしに言わないのよ」
「カーネリアの方が、こういうの苦手だろ? だから、俺が代わりに取ってきてあげるよ」
「あんた本当バカね。……ありがとう」
「ああ。いやでも、それがそうと決まったわけじゃ無いからさ」
「わかってるわ。でも、あたしのために頑張りなさいよ」
「わかってるって」
足を組み替えて、組んでいた腕を下ろして頭に当てるカーネリア。
「でも、クリアは大丈夫だけど。あんた転んで場外で負けそうじゃない」
「俺はそんな間抜けに見えているのかな……?」
「うーん……うん」
「悩むそぶりを見せてくれてありがとう。でも、ダメダメだよ」
「せいぜい気を付けなさいって事よ。い、一応、会場で応援ぐらいはしてあげるから」
「それは良いね。知ってる人に見られる方が、知らない人に見られるよりも緊張するよね」
「オリビア様にでも来ていただいたら?」
「……いや。いやいやいや、無理無理無理。何をやっても知識の甘い所を探り当てられてそこを突かれるから気が気じゃないよ。先生は試問の悪魔だから。直接言うんじゃなくて質問で聞いてくるからさ。否が応でも気づかされるんだよ」
今度は俺が頭に手をやって言った。思い返すのは地獄の修行。あ、何だか頭が痛くなってきた。
「オリビア様は流石ね。あたしも、何をしても勝てる気がしないもの」
「本当にね。この前、精霊界行った時にさ。新しい魔法考えて見せてみたんだけれど。結構自信持ってたんだけど、その自信を無くさせられたよ」
「もうあった魔法だったのかしら?」
「いや、不完全だったって所かな」
「あら、残念ね」
「そうなんだよ。まぁ、大会までには間に合わせたらいいなあ」
「頑張りなさい。クリアのためにもね」
「俺が足引っ張らないように頑張ります……!」
「よろしいっ」
納得したように笑顔を見せるカーネリア。
さて、元気づけられた所だし少し書斎に籠ろうかな
お読み頂きありがとうございます!
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