第三十四話 森の小話
花紅柳緑とした自然の中。一際大きな木を中心に自然と共存する種族があった。
ここは人がエルフの森という場所。呼称をフォーレカリムと言う。
人の目を阻む結界を張り、ひっそりと暮らしている種族――エルフ
そこに広がる穏やかな草原に、大きな狼と一人の幼い女のエルフが居た。
「ねぇ、ハーディ。お兄ちゃんは?」
「今頃、書斎に引き籠って本書いてるんじゃねーかな」
ふーん。と興味ありげに目を輝かせるのは長い髪を腰まで流したエルフの少女。顔立ちも上品に整っているが、子供らしく丸く大きな瞳が可愛らしい。
「お兄ちゃん。何の本書いてるの? あたしでも、読めるかな」
「どうだろうな。魔法もだけど、アイツは何考えてるからない所があるからな」
「どういう意味?」
「オレじゃ何やってるかわからないっつーことだ」
「ふぅん。むずかしいんだ」
表情に少しの陰りを見せる。
「ニーナ。そんな顔するな。今度アオイを連れて来てやるから」
「本当!?」
ニーナの顔に大輪の花が咲いた。
「頼めばなんとかなるだろ。その時に聞いてみると良い。面白い話でもしてくれるぞ」
「ほんとう? いっぱい聞きたいこともあるけど。まずは、ありがとうって言いたいな。まだ助けてもらったお礼言えてないんだー」
「あの時のか」
人間の盗賊やオニキスの事を思い出す。かつてニーナは攫われた時の事だ。
「今度、言ってやりな」
「うん。絶対言うんだ」
「ああ」
普段の鋭い目つきでは無く、アオイを思い出すような優しげな目つきをしたハーディが居た。
「ハーディはお兄ちゃんと普段何してるの」
「飯食って迷宮いって寝てる」
「いいなー。ご飯美味しそう。誰作ってるの?」
「いや、アオイがつくってる」
「えっ。お兄ちゃん料理もできるんだ。すごい」
「結構色々なモンつくってるぞ。ニーナでも食った事無いようなもの作ってくれるはずだ」
「本当? あたしもお兄ちゃんと暮らしたいな」
「そりゃ色々問題あるだろ。まずニーナがフォーレカリム離れるとソフィアが困る」
「ダメかぁ。じゃあお兄ちゃんがフォーレカリムで暮らせばいいのよ。ね?」
「それも難しいんじゃないかな」
「もお~お兄ちゃんに会うの難しいのよ~」
四肢を伸ばしその場に倒れ込むニーナ。
「っふ。ニーナはアオイが好きだな」
「違うもん。そういうわけじゃないの!」
顔を真っ赤にして否定する姿が可愛らしい。
「何に惹かれるのか、わかんねぇな。カーネリアの奴も、クリアも」
「えぇ~。恰好良いじゃない。あたしを守るために炎の壁で逃がしてくれた背中なんて忘れられないわ。で、カーネリアさんはわかるけどクリアさんって誰?」
「アオイの恋人」
「うそぉ~~~!? イヤよ。そんなの」
「イヤつっても。ニーナが勝てる所はまだ無いぐらいできた女だ」
「……悔しいわ」
「10ちょいで失恋を覚えるか」
「ふられてないもん! 男は何人女をつくってもいいんだもん」
「すごい発言だな。器がでかい」
「女の一人や二人許すのも女の器量よ!」
小さな体を精いっぱい大きく見せようとする姿は、背伸びをしている子供の姿だった。
「もう、ニーナ様。そんな事、大きな声で言わないでくださいよ」
落ち着いた足取りでゆっくりと歩いてくるのはエルフの長、ソフィア=エイブル。
「あら、ソフィア。御機嫌よう」
「こんにちは。ニーナ様、ハーディ様」
「おう。邪魔してるぜ」
「ねぇ、ソフィア。あたし、外に出たいわ」
「そうおっしゃられますけれど、ニーナ様が外に出ると私が心配です」
「あたしも大人だもん。一人で外に出るぐらい大丈夫よ」
「そう言われましても……」
困ったようにハーディを見るソフィア。ハーディは仕方がないと鼻を鳴らして応えた。
「ニーナ。母親は何て言ってた」
「うっ。12までは外に出ちゃいけないって」
「あのお転婆姫がそう言ったんだろ。それなりに理由があるっていう事だ」
「……わかったわよぅ」
「もう少しだろ、我慢しておけ。仮にも王女なんだからな」
「はぁ。仕方ないわ。もう少しだけ我慢してあげる。ただ、その時が来たらハーディ。あなたを護衛に雇ってどこまでも行くんだから!」
「……それオレじゃなくてアオイ雇えばいいんじゃないのか?」
―――青天の霹靂
ニーナは驚きと歓喜が合い混じった表情を浮かべる。
「いいわよねっ。ソフィア!」
「ええ。それなら、目を瞑りましょう」
「やったぁ。お兄ちゃんと外にいける。もう少しね。見てなさいよ~!」
そう言って立ち上がり、くるりと回って見せる少女にソフィアとハーディは優しげに微笑みかけた。
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