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第三十一話 これがシルバーウィングだ

誰もが口を開かないが、その顔は張り詰めていた。

フロアの主が待つ間。その階のボスが居座り、冒険者を待ち構えている。

その広い空間へと足を踏み入れる。

ただ、今回は一人や二人じゃない。仲間がたくさん居る。

薄暗い部屋を照明弾の魔法で明るくする。これは魔法使いの役目だ。

間もなく空間に魔法陣が浮かぶ。誰のでも無い、迷宮のものだ。迷宮がボスを顕現させんと膨大な魔力を使い生み出す。

ただただ、黙ってそれを待っているわけは無い。

その魔法陣を見ながら詠唱をしていた術式を発動させる。

辺りにいる人と俺を含めた述べ12人。その全員の足元に魔法陣が浮かび上がった。

「……化け物かよ」

つぶやいたのは誰だったか。

『覚醒の付与』

魔法陣が生む効果により、最優の強化魔法がそれぞれに与えられる。それらは光となり術を受けた者を取り巻いた。


――――俺が使う強化魔法『覚醒の付与』


これの元は古代魔法の『ドラゴンフォース』という強化魔法だ。もともと構想として竜のように強靭な肉体と暴虐な力をその身にもたらすという物で効果のほどは凄まじい。が、あまりに行き過ぎた強化は自分の体を傷つける事になり、ダメージが自分に返ってくるのだ。人間が自身の身体能力の100%を発揮できない理由と同じだろう。そのせいで、使い勝手が悪く長い間眠っていた魔法に俺が手を加えた。

各々の身体能力と潜在能力に合い、自身のコンディションを最良な状態に持ってこれるよう調節したのだ。よって、一人一人強化の上がり幅というのは異なる。力がメインで上がっている人も居れば、素早さのステータスが大きく上がっている人もいる。それはその人の戦闘スタイルとうまくかみ合っている故に最良の強化魔法と言う事ができる。

「思わず気分が高揚します」

そう言うのはクリアさん。恐らくこの強化魔法は元が高いほどその上がり幅も大きい。人体の骨格というフレームと筋量がどうしても関係性を持つように、ステータスを上げる強化魔法も元のステータスが高いほど大きな強化がしやすいんだ。






魔法陣から現れる光が収束し大きな姿を浮かび上がらせる。

幾重にも重なり、正確な数を把握できないほどのツタを手足のように使い、中央には大きな毒毒しい赤色をした花弁が咲き誇っている。植物を基にしているような魔物。しかもスキルとして再生を持っており、際限なくツタや自身のダメージを回復させるようだ。加えて魔法に対する高い抵抗まで持ち合わせている。

前衛だけに任せて置くのは難しい戦いになるのは当然だ。

やはり魔法使いというのは固定砲台という言い方があるように、火力の面では前衛よりも優れている。故にこういった魔物には前衛が時間を稼ぎ魔法使いが決めるという勝負になりやすいのだが、そのままの勝負になる事が予測される。

敵の植物の魔物――ラフレシアが数十のツタを俺たちに向かって延ばし鞭のようにしならせて薙ぎ払おうとしていた。

「ボサボサしてんじゃねぇぞッ」

銀の光が空を舞う。

流星が光の尾を引くように優雅にかつ鋭く動く一筋の銀光。

それは空中をバウンドし、視認できる速度をはるかに超えて動き、まばたき一つの間にツタを全て根本に近い部分で切断した。

そのまま敵の花弁を割らんと、爪で大きな傷跡を残す。


――ピギャアア


不快ながら、苦しむような声を発する植物。

しかし、それも一瞬。瞬く間に傷が再生されている。

やはり最速の初手はハーディ。この男の速さについていける者など――


――――居た


わずかながら遅れて、再生されようとする傷に平行するように二本の傷を残す。傷が再生しにくいように平行に切り裂く身体能力はさながら、高い戦闘経験が成せる技だ。

キシシッ

あどけない少女の笑いが響く。

「やるじゃん。シルバー」

「テメェもな」

声だけが響く。どこから発声されたかわかりかねるような声だ。そもそも二人の耳に届いているのだろうか。

迫りくるツタを切り落とす姿が二つ。つかず離れずの距離で常に魔物と接近戦を行っているのはハーディとシルヴィー。一つのミスが許さない、敵と肉薄する距離で自身の力を発揮し魔物の再生スピードと釣り合うほどに傷を与えていく。

それは、三番目の介入者によって一旦離れる事になる。その存在をいち早く察したシルヴィーは一度距離を取り、ハーディもそれに合わせて急いで距離を取った。

「行きますっ!」


――――地を駆ける白い戦乙女(ワルキューレ)


身長と剣のバランスを考えた際にはいささか長いように感じれる白い輝きを放つ長い剣を楽々と構えている。

構える姿はまるで怯える乙女のよう。

両手を顔の横に持っていき、手を重ね合わせる様子は怯えているように見えるだろう。


――――ただし、その手から剣が見えていなければ


先ほどまで肉薄していて離れた二人に気を取られている魔物はクリアに気付いていない。それをしっかりと把握した白い剣姫は、剣劇の威力を上げるために体全体で大きな溜めをつくった。

わずかに型を変化させて、横薙ぎの型へと移行して剣を振るう。


――――ズパアアン


響くのは剣を振るう音だけでは無い。剣を振るうと同時に、音を破裂させている

――その一閃は音を置き去りにしていた。


彼女が振るうのはただの剣では無い。

それは魔剣と言われる剣。

普通の鉄の剣とは異なり、様々な能力を包括している。

彼女の魔剣が持つ効果は最強の一角『空間断絶』

その能力を遺憾なく発揮し、彼女が持つ間合いを遥かに超える剣戟の爪痕を残し、魔物の体の三分の一にあたる大部分を削った。


――――白薔薇の剣舞は終わっていない


振りぬいた剣の威力をそのままに、円を描くように大きく剣を頭上を通して回す。何度も反芻されている事が良くわかるほど自然な動きで剣を運び、大きく一歩体を前に出す。踏み込んだ足から生まれる螺旋の力を剣に伝えて、下から上へと打ち上げの一撃を放つ。

再び音が爆発する衝撃音が響く。

再び魔物の体は削られて全体の半分ほどになる。すると白薔薇の一撃の剣圧か風圧が生んだ産物だろうか。軽くなった魔物の体は打ち上げられるように天を舞った。


その様子に大勢は唖然として口を開いた。

現実が信じられない、と。


しかし、その大勢に含まず動く影がある。

真白の髪の幼さを残す少女が魔法陣を展開し、魔法を発動する。

類稀なる速さと正確さを持って、二枚の魔法陣に上下を挟まれるように体を半分にしたツタを刈り取られた植物の魔物は空中で制止した。


――空中で制止させて何の意味があるのだろうか?

地表に落として制止させていれば、多くの攻撃手段があっただろう。しかし、それを選ばず空中で固定してしまった。見る見るうちに魔物は再生のスキルを駆使し体を復元させていく。これでは魔物に回復の時間を与えただけでは無いか。

ホワイトフェザーの面々はそのような考えで、自分たちのリーダーであるノエルが行った事に少しの疑問を感じた。

この場でその行動の意図を理解し納得できた者は少ない。その数少ない内の一人であるクリアは自分が打ち上げてノエルが空中で制止させた魔物を見た後、ホワイトフェザーが唖然と棒立ちになっているさらに上を見上げた。そこは空中、遥か高みで自分たちを見下ろしている存在が二人。それらを確認すると優しく微笑んだ。

「後は頼みましたよ」





敵の魔物が飛べず、遠距離への攻撃手段を持たないと理解した瞬間、空中へと躍り出た人物が二人居た。

魔法使いは、絶対的な安置より一方的に攻撃する事が可能である。相手が短距離の飛び道具のみ有する場合と、飛び道具を持たない場合はその状況は容易につくる事が出来る。相手の射程を超えて陣取り、悠々と魔法を詠唱して放つだけで良い。そういった、距離による絶対的優位を取り制空権を掌握したのは炎の大精霊『炎王』の呼び名を持つ歴戦の魔法使いカーネリア。そして、アオイの両名。

「カーネリア。併せよう」

魔法と魔法のコンポジット。これは理論的には可能であり、異なる魔法の属性すら兼ね合わせる事ができる。しかしながら、実戦での投入は未だ見ない。言わずともわかるだろうが、それは二人の息が会い一心同体とでもならなければできる事では無い。しかし、成功した際の威力は計り知れない。

「……はぁ。コントロールしきれないと部屋中炎で埋め尽くされるってわかってるわよね。『炎海』の比じゃないわよ」

「俺に出来なくてもカーネリア、君ならできるでしょ」

「くふふ。やってやるわよ!」

空中でお互いの肩を合わせる。

カーネリアは左手。アオイは右手を魔物の方へと突出し、ピタリと合わせた。

「……いくわよ」

「いいよ」

両者の前に尋常じゃ無く大きな魔法陣が発現する。

掛け合わせるのは炎と炎。深紅の魔法陣が輝いている。

カーネリアが顔を歪ませる。魔法陣の制御が非常に困難で、威力を抑える事が難しいために精神を疲弊させているためだ。うっすらと額に汗が浮き出る。

それはアオイとて例外では無いはずだが……。

天眼で正確に解析を行い魔法陣の主導権を握り修正を加えていく。

普段の彼は常にそう、自身の魔力量の少なさから異なる魔法を組み合わせて使っているために慣れている。

例えば『イージス』あれの展開式は魔法障壁に魔力回復の魔法陣を組み込んで無限に空中の魔力を吸い込んで強化させる魔法障壁だ。

アオイにとって、魔法を組み合わせる事は日常茶飯事。今さら怖気付く事も無い。

「あんたの苦労が垣間見えたわ」

「そりゃどうも。そろそろ仕上がる……おおっ!?」

丁度クリアが魔物を打ち上げ、ノエルが空中で束縛した所だった。

「くふふっ。やるわね。良いじゃない」

「最後だ。ここまでやったんだ。完全詠唱しよう」

普段アオイを初め多くの魔法使いは詠唱を省いている。それは威力では劣るが詠唱時間を破棄できる分素早く出せるからで、それが主流となってしまっていたのだ。しかし、詠唱を口頭で発言する完全詠唱を行うと術の威力は飛躍的に上昇する。それがこのようなお膳立てされた状況ならば破棄する必要も無い。

魔法のコントロールはカーネリアに委ねるために、詠唱はカーネリアから始まった。



『我に歯向かう者は 希望を捨てよ』



『天許せども 地は許さず』


『あまねく怒りを業火と変えて』


瞋恚(しんい)(ほむら)で焼き尽くさん』


『『地獄の業火(ヘルファイヤ)』』



魔法陣から放たれるのは赤く燃える炎では無い。その色は黒。黒い炎であった。

赤い炎は光源となりえるが、黒い炎は光を吸い込む。

ただし、炎の熱さは比べるまでも無く一瞬ですべてを溶かしきる。まるで闇に吸い込まれるように。

轟々と燃えたぎる炎からは、払拭しがたい怒りが再現されたように恐怖を感じざるを得ない。

それはさながら煉獄の景色。一瞬で地獄を呼び寄せた。

その荒れ狂う炎に円を描かせて魔物へと襲わせる。

次第に黒炎は収束する。魔物を中心に大きな球体を形作る。

――ピギャアアア

上がる声は苦しみに満ちていた。

生きながら地獄の炎に焼かれる気持ちというのは、一体どういう心象だろか。

植物の魔物にとって、現世が地獄に変わった瞬間だった。

カーネリアの手が空を舞い、開かれていた手がゆっくりと閉じられる。

それに合わせて黒い炎も消滅し、まるでそこには何も無かったように魔物は消えていた。


――パチンッ

魔法を行使した二人が地へと降りてハイタッチ。言葉では無く行動でお互いを認め合っていた。

そこにクリアが加わる。

無事と勝利を確かめ合うように、お互いにきつく両手を握っていた。クリアは喜び、アオイはどこか恥ずかしがるような仕草で。

その様子を目を細めて嬉しそうに見つめながら、輪に銀狼も加わる。

お疲れ様と言わんばかりに頭をカーネリアの肩へ擦り付け苦労を労う。

満更でも無い表情を浮かべて腕を組む赤い髪の小柄な少女も、どこか達成感に満ちていた。

その様子を見てアオイが笑みを携えて口にした。

「お疲れ様っ!」



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