第三十話 大事の前には軽口を
34階の主が居る部屋の前。そこで、十人を超える人が集まっていた。
この階のボスを攻略するために、ホワイトフェザーとシルバーウィングが手を組んだためだ。ギルド同士の同盟に近い。
俺たちシルバーウィングが4人に対してホワイトフェザーは8人ほど。これでもかなり人数を厳選しているんだろう。ホワイトフェザーはかなり人数の多いギルドだ。
「クリアさん。大丈夫?」
色々な背景があるためにやはり心配で、今日まで様子を窺ってはいたんだけれど。
「ええ、問題ありません」
その瞳は力強い輝きを持ち、口角も上がっていた。
俺の杞憂だったな。
「……っふ」
狼がつられて笑う。嘲笑では無い。安心と頼もしさから出たものだ。
クリアさん、カーネリア、ハーディそれぞれ戦う意思は十分。速く戦いたくてうずうずしてる様子も見える。
ホワイトフェザーの方に少し顔を出すか。
チーム内で二つのグループに分かれて動くようだ。前衛と後衛の役割で分けてホワイトフェザーのノエルが静かに指示を下していた。
その様子を窺って、一通り終わったところを見計らい顔を出す。
「やあ、ノエルさん。今日はよろしくお願いします」
「……そっちがメインなんだから、しっかりお願い」
「任せておいて。抜かりはないよ」
「抜けてんのはアンタだけだろ。能天気野郎」
「あいたたた」
シルヴィーの発言を受けて痛がるそぶりをする。
「ったく。しっかりしておくれよ。アンタとあの赤い魔法使いが決めないと、どうしようも無いんだからね」
「うーん。俺は頼りないけどシルバーウィングは頼りにしていいよ」
「……バカ野郎だな」
「よく言われるよ」そう自傷気味に言う。
――だけれど。それでいいんだよ
ノエルとシルヴィーの他のメンバーもどこか見た覚えがあった。
転移の間でシルヴィーと一緒に居た人達だ。クリアさんの所に行く時にシルヴィーを連れ出してしまったときに気持ち良く見送ってくれた人たち。
「君たちも前合ったね。ホワイトフェザーのベイリーにフットレル、ヘスキスにルルーにダーレスだ」
それぞれの名前を読み上げる。一人一人の表情には驚愕が浮かび、次第に尊敬の眼差しに変わった。
「今日もよろしくね」
各々、元気よく了承の旨を伝えてくれる。素直で良いなあ。
もう少し話したい気持ちに後ろ髪を引かれつつ、その場を後にした。
「名前呼ぶのにどんな意味があるんだよ」
ハーディに質問される。
「意味あるのかはわからないけれど、俺が呼ばれたら嬉しいから呼んだんだよ。ハーディだって、犬っころって呼ばれるよりハーディって呼ばれた方がいいだろ?」
「そりゃそうだけど、何か違わねえか?」
「あれ、そうかな? ごめんごめん」
しっかりしてくれよと目を細められる。良い例えが思い浮かばなかったんだよ!
「さあ。準備は万全だよね、カーネリア」
腕を組み何食わぬ顔で立っている小さな少女に目を向ける。
赤いローブともドレスとも取れる衣服は彼女の戦闘服。その姿のカーネリアは近づき難い。
「当たり前じゃないの。何が来ても焼き尽くしてあげるわ」
犬歯が目立つ白い歯を見せて華やかに笑いながら言う。
「巻き込むなら俺かハーディにしておけよ」
「おいっ!? 勝手に俺を巻き込むな。流石にコイツの一撃を直撃されたら生き残る自信は
ねえよ」
「でもハーディなら何とかなる気がするんだよね」
「俺は不死なんて持ってねぇぞ」
戦う前だっていうのに誰一人として態度を変えない。それがシルバーウィングの強みかな。
もうすぐいよいよ戦いだという事で、気になる事がもう一つ。
「注目の戦いだな。幸いに自分たち以外の目があるから、ここでシルバーウィングのエースが決まるぞ」
クリアさんとハーディの表情が引き締まり、視界の端でお互いを捕えた。やはり負けん気の強い二人はどこかで譲れない所があるんだろう。
……どちらになるか。
当然今の声はホワイトフェザーにも聞こえている。印象付けるためにも口にしたんだ。
シルヴィーが笑みを携えて語っていた。
――見定めさせてもらう
どうぞどうぞ、と微笑み返しておいた。
しずかな沈黙が訪れる。
士気高揚。みんなの戦う準備は整い、英気に満ちていた。
「……行く」
静かに迷宮に響き渡るノエルの声に、頷いて返した。
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