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第二十九話 エース争い

柔らかで温かい感触を手に感じる。果たして、この正体は何なんだろうか。

朦朧とする意識の中、目がはっきりと認知するのを待つ。

やわらかな寝台の上、頭を枕の上に乗せたまま目だけを起こす。

「あ、あのっ」

耳元でそんな声が響く。

「……はっ? うおおお!?」

大きな瞳が上目づかいで俺を見上げて来ていた。

思わず唸り声を上げてしまった。それも仕方ない。何故か起きたらクリアさんが俺と同じ寝台の上に乗っているのだから。

寝ながらだが、その豊かな体を抱きしめていた。起きた今もそれは変わらない。

「そ、その。すみませんっ」

顔を赤くして羞恥の感情から目を合わせる事ができず、背けられる。しかし、真っ赤に染まった頬は視認できるため、いじらしい様子は堪能できた。

「ごめん」

そう言って、急いで寝台から逃げ出た。

胸から早鐘を打つように大きな鼓動が伝わってくる。

かぁっと耳まで熱くなるのがわかった。

「ど、どうしてこんな状況に?」

「その、一応ノックもして起こしに来たんですけれど。起こそうと体を揺すると抱き着かれまして……」

尻すぼみに声が小さくなっていくけれど、大体は把握できた。

「ごめん、どうかしてた」

「あ、いえいえ。嫌だったわけでは無いので気にしないでください」

「そ、それって……。いや、何でも無い。起こしに来たって、何かあったの?」

はっとした表情を浮かべるクリアさん。気が動転して忘れていたんだろう。申し訳ない。

「お客さんが来ていますよ。ホワイトフェザーからシルヴィーともう一人」

「わかった。急いで行く」

「はい。それでは」

あくまでも冷静を保ったまま、凛として一礼し部屋を出ていくクリアさん。

誰も居なくなった部屋でブンブンとかぶりを振り、二度、三度顔を叩く。

「よしっ!」

心機一転。急いで身支度にかかった。





パタパタとスリッパの音を立てながら慌ててリビングへ逃げ帰る人影。白金の長髪に透き通るような白い肌、聡明な整った顔立ちをし、女性らしい体つきの長身でスタイルの良い女性。しかし、その白い肌が仇となったか、頬が赤く染まる様子は誰の目にも容易く確認することができた。

白いスカートに黒のニーソックスは引き締まった長い脚の脚線美を露呈させ、上品な薄い緑のブラウスは彼女の清楚さを助長している。

「うぅ~~~~ッ」

クリアは可愛らしく小さな声で喉を鳴らしていた。赤くなった顔を隠そうと両の手で顔を隠しリビングの客人の待つ机の向かい側の椅子にストンと腰を下ろす。

「……どうしたんだクリア」

ピンクのウェーブのかかった髪を高い位置で一つに束ねた少女が声を上げる。目つきは鋭く、その容姿からは威圧感が溢れ出る。

「まさかあの男が何かしたんじゃないだろうね。……ちょっと締め上げて来てやる」

「ち、違いますっ! アオイさんは悪くないんです!」

顔を赤くしたまま、目を丸々と見開き制止の声が上がる。その様子は年頃の乙女だった。

「なら、良いんだけどね。アイツが何かしたようならスグにアタシにいいな。駆けつけてやるから」

「ありがとうシルヴィー。でもね、アオイさんはそんな人じゃないですよ」

「あの能天気でヘラヘラしたヤロウ見てると……どうもね」

「……シルバーウィングのリーダーは能天気でヘラヘラしているの?」

「アタシの見たままだとね。実際はどうだか知らないよ。けど、あのタイプはどこ行っても自分を変えないと思うけどね」

椅子の上に片膝を立てて、抱き込むように腕を回しているシルヴィー。

「……ふぅん」

その場にいる三人目の人物。物静かな白い少女が、静かに言葉を口にする。

「……そういう人嫌いなんだけれど」

「まぁまぁ、そういうなノエル。気の悪い奴じゃないから、付き合っていく分にゃ問題ない。アタシはああいう馬鹿嫌いじゃないけどね」

キシシッ。白い歯を見せてあどけなく笑うシルヴィー。

我関せず、自分で見定めると言わんばかりの白い少女の姿は憮然としたままだった。

キッチンからカチャカチャと物音が立ち、しばらくするとティーカップとポットがひとりでに飛んでくる。それぞれの前に勝手に配膳され、体良くクッキーまで添えられたそれは魔法によるものだった。

「魔法使いって言うのは何もかも効率化を図って魔法に頼るから困るよね。近頃は紅茶だってお手の物になっちゃったよ」

そう言いながら開けっ放しの扉を潜るのは、いかにも普通の人。

目にかかる長さの前髪をくしゃくしゃと整えながら歩き、優しげな眼でそれぞれの来客者を射抜く。白のズボンに緑色のシャツを着て、一応の体裁は整えられては居た。

アオイはクリアの隣の席に座る。

「さっきはごめんね。って顔真っ赤だよ。熱でもあるの?」

そう言ってアオイはクリアの額に手を当てる。アオイの色白な肌よりも更に白い肌が目立つが、次第に色を変え赤が占める割合が増えた。

「ちょ!? すごい熱いよ! 大丈夫? 体調悪いなら部屋に戻ってて良いんだよ」

バッとアオイから離れて、赤いままに顔を振るクリア。大丈夫ですッと言う言葉も幾分か高い声になっていた。

それを見てアオイは目を伏せ考えるが、良しとしたらしい。経過を見守るという所だろう。

アオイは自分の前のカップに手を伸ばす。

落ち着いた様子でティーカップを口に運ぶ様子は中々様になっていた。

「熱ッ」

唇をつけて急いでカップを離した。熱すぎて口に含む事も叶わなかったらしい。

「大丈夫ですか?」

「どうにか」

軽いやけどをしてしまったのか、目にはうっすらと涙を溜めていた。精いっぱい取り繕った態度が台無しである。

「で、何かシルバーウィングに用かな。ホワイトフェザーのノエルにシルヴィー」

優しげな瞳がわずかに光り、質問を口にした。






「……はじめまして」

「はじめまして。シルヴィーは久しぶり!」

「アンタは相変わらずの様子で安心したよ。最近良い噂ばかりじゃないか。やるね」

「そりゃ、当然」

笑いながら軽口を言う。ニヤリと笑みを返してくるシルヴィー。

「……率直に用件を言う」

「おいおい、いきなりか。まぁ、別にいいけど」

「……シルバーウィングには優秀な魔法使いが居ると聞いた。34階攻略に付き合って欲しい。シルバーウィングで火を扱える魔法使いは何人?」

思わずシルヴィーを睨みつけた。34階で何があったか忘れたわけじゃあるまいに。

――34階。それはブルーローズが挑み、負傷者を出した階だ。言わずともそれはクリアさんの事で……。

シルヴィーは顎でクリアさんを指す。

横目で様子を窺った。

その瞳は決意に満ち、前向きな姿勢が現れていた。

――ああ、この人は本当に強いなあ

トラウマになってもおかしくない事があったというのに、それに再び立ち向かえるんですか。

……俺の視線に気が付いたクリアさんは、強いまなざしのまま頷いた。やれますと。戦いたいですという意志表示だ。

当人が問題無いというのなら受けよう。リベンジマッチだ。

「シルバーウィングで火の魔法を使えるのは俺ともう一人、女の魔法使い。カーネリアって言うんだけど、火のエキスパートだよ」

「……十分」

「ったく、もう一人火の魔法使い居るのかよ。てっきりアンタだけかと思ったけれど層が厚いんだね」

「俺以外の三人はとびきり優秀な奴ばっかりだよ。一応リーダー俺だけど、能力的に見ると俺が一番……」

トントンと背中を叩く手が暖かかった。自信を持って、と諭すようで優しい。

ネガティブになりがちな感情が一瞬で立ち直った。

「シルバーウィングは4人で少ないけれど、良いかな」

「……構わない。火の魔法使いが必要なだけだから」

「コイツ口下手なんだよ。多少の物言いはすまないね。アタシとしてはシルバーウィングと仲良くしていければ良いと思ってるけど。個々の実力は今度知るとして、エースはクリアだろ?」

「って、思うじゃん。前衛二人魔法使い二人なんだけれど、エースは決めかねてる」

その意見を受けてクリアさんも進言する。

「私としてはハーディさんでしょうか」

クリアさんの意見にシルヴィーとノエルが驚く。

「クリアにこんな事言わせる奴いんのか」

「とにかく速くて、手付けられない奴居るんだよ。俺としてはクリアさんに上げたい所なんだけれど、言えないんだよね。今度見たときに自分たちで決めてくれ」

「速い奴ね、楽しみだ。是非そうさせてもらうよ」

歯をむき出しに笑う様子はとても楽しげだった。案外ハーディとシルヴィーは合うのかもしれない。

さっそく、34階の情報交換をし、打ち合わせに入った。


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