第二十七話 sweet home
「我が家がやっぱり一番さ~♪」
ふんふんふーん。
懐かしいイングランドの民謡を口ずさみつつ、部屋を見回っている。少し部屋数が多かったかなあと思うが洋室を客間として扱ったり、自分の書斎を用意してみたりと大忙し。何だか自分の家のインテリアを考えるゲームを彷彿とさせるが、実際は家具の搬入のために街中に何度も足を運んでおり、ここ数日忙しかった。どうにかこうにか、皆が来ても大丈夫なようにソファーなどの応接用の家具なども揃って中々形になってきた。
初日はつらかったなあ……。寝室はあるものの寝具の搬入を忘れて結局椅子で寝る始末だった。今思うとまだ庭かテラスの長椅子で寝た方がよかったと後悔していた。
俺が家を買ったと言う事は一応手紙を書いて各々の元へ転移させたので知られている。ハーディは真っ先に来て重い家具等を運ぶのを手伝ってくれた。彼曰く、「一応使い魔だから」と恥ずかしそうに言っていたのが印象に残る。
オリビア様にも伝えたため、さきほど転移の魔法によって数十冊の本が飛んできた。それを書斎に運び込み本棚にしまった。どれもこれも専門書のような厚さを誇り、本棚の見栄えを良くしてる。
俺の経験的に家及び部屋は必要最低限の家具だけで飾る。見る人が見れば少し物足りなく、シンプルに見えるぐらい。というのも長い一人暮らしの経験で部屋を綺麗に保つためにはなるべく物を置かないようにするというのが俺の持論。それに従って必要最低限だけは買い揃えた。必要な物が生まれた時にまた買い足せばいいやと、少しお金に余裕は見ている。
やっと、人を招いて一服できるほどに落ち着いた。
リビングの座り心地の良いソファーに座る。何となくの達成感に加えて、マイホームという嬉しさがやっと込み上げてきた。
――チリーンッ
透き通る鈴の音が響き渡る。
来客を伝える合図だ。誰だろう?
でも、良いタイミング。初めてのお客さんだ。
「はい」
ホールを抜けて玄関扉を開ける。引き戸を開き、来客者の顔を確認。
「……あっ」
目と目があった。
スッと通った鼻立ちに、綺麗な瞳が美しい。
今日はいつもと雰囲気が違う。真っ白なワンピースに髪を結いあげてカチューシャを着けている。
可愛い。
その言葉がつい口から出そうになって、押しとどめた。
「いらっしゃい。クリアさん」
「お邪魔しても大丈夫ですか?」
「どうぞ。今やっと落ち着いた所なんだよ。ゆっくりしていって」
「はいっ」
嬉しげに頷く彼女を家の中に招き入れる。
ホールを抜けてリビングへ。
「どうぞ、座って」
そう言って俺はキッチンへ。壁一枚で隔たられるけれども、姿は容易に確認できる。
買ったばかりの紅茶の葉に湯を注ぐ。蒸らして十分に味を出した後、温めたカップに注いだ。ふわりと紅茶の香りが鼻をつく。うん、いい感じ。
少し待たせてしまったけれど、紅茶とコーヒーを淹れるのは俺の趣味だった頃もあって少しだけ自信を持った一杯を提供する。
「美味しいっ」
思わず上ずった声を出すクリアさん。
うわあ、よかった。すごい嬉しい。
時間帯は午後という事で、何かお菓子でも出せれば良いなと思って貰い物があったのを思い出す。先ほどオリビア様が本を送ってくれた際にソフィアさんがお菓子を送ってきてくれたんだ。上品なメレンゲお菓子を三種類ほど。上品な波の文様を浮かばせるその菓子は目で見ても楽しめた。
自分が食べたかったってのもあるけれど、ぜひクリアさんにも食べてほしかった。だってこれ男より女の子の方が好きそうなお菓子なんですもの。俺は甘いお菓子好きだけど、チョコレートとかの方好きだし。
「これ、貰い物だけれど」
「可愛いお菓子ね。ありがとう」
背筋を伸ばして凛とした様子は崩さないが、顔を綻ばせていた。右手でお菓子を取り、左手を添えるようにし口に運ぶ。その仕草に優雅さを感じた。
「そういえばクリアさんは貴族だったなあ。今思い出したよ」
「一応は、そういう事になっています」
「生まれてくる時に貴族なら、死ぬ時も貴族だ。っていうのは良く聞くよね」
「ええ、ですけど私は貴族だからと言って、アオイさんと何が違うかと言えば何も上げられません。貴族というのは、生まれてきた環境が良かったぐらいに思ってます」
「俺からすれば貴族なんて存在しか知らなかったから、どう接すればいいかわかんないし態度を変えるつもりも無いから良いんだけれどね。仕草に気品を感じる所から育ちが良いって感じただけだよ」
「ありがとうございます」
「感謝される事でも無いんだけどなぁ」
自分で淹れた紅茶を啜る。まだ悪魔のように熱いそれは、口に含んだだけで芳醇な香りを楽しめた。
一つ、話題を変えるために話を振ってみよう。
「クリアさん。剣の方はどう?」
クリアさんは多少なりとブランクがある。それを少し気にかけているんだけれど、どうだろうか。
「問題はありませんよ。以前と変わり無いままです。コンディションだけ言うと、前よりも数段良いぐらいですよ」
「頼もしいよ」
ステータスを覗くまでも無い。彼女の表情には自信が溢れ出ていた。
「アオイさんの方はどうですか」
「調子は変わらず、かな。怖い師匠に教わってるせいで上達はしてるよきっと。さっきも、魔法に関する書物がいっぱい届いたんだよ。これ読んでおかないと怒られそうでさあ」
「あら。良い師匠さんじゃ無いですか」
「本当にね。頭が上がらないよ」
「カーネリアさんと同じ精霊さん、なんでしたっけ」
「そうそう。精霊王のオリビア様。聡明で知識が豊富。賢者のような人なんだけれど、人間が嫌いみたい。色々背景があるみたいだけれどね」
「あら、そうなんですか。でも、カーネリアさんとハーディさんとも面識があるのでしょう?」
「そうそう。カーネリアは精霊だからわかるとして、ハーディは色々悪さした結果の面識みたいだけどなあ……」
「ふふっ。ハーディさんらしいですね」
「本当。アイツなんかやらかしそうだからなあ……」
「あん? 誰が何だって?」
不意にテラスの方から声がした。ハーディはいつも玄関を使わずテラスから入ってくる。そのため、テラスにはハーディの足拭きようのマットが常備されている。律儀にそのマットで足を拭ってから部屋に上がってきていた。
「こんにちは、ハーディさん。お菓子食べます?」
「……甘そうだな。オレはいいや」
「何か飲むか?」
「水くれ」
普段の姿より数回り小さな狼の姿でテーブルの横に座るハーディ。その前に木の皿に入れた水を差しだす。ここらへんは犬よろしく、舐めるように飲んでいた。
「ああ、今更で悪いが邪魔なら帰るぞ」
「本当今更だな。いいよいいよ」
「おう、悪いな。それと伝言だ。オリビアが近いうちに顔を出せって言ってたぞ」
「了解。時間見つけて顔だすよ」
――チリーンッ
来客のようだ。
玄関先に視線をやり、誰なのかを見定める。来客者を確認し、リビングから魔法を使って扉を開いて招き入れた。
「お邪魔するわよ」
赤いスカートに黒いブラウスの恰好をしたカーネリア。ふわりとした膨らみをもったポニーテールが左右に並び、可愛らしい。
「あら、皆来てたのね」
「本当、気が合うよなあ。示し合わせたように揃うんだもの」
「オレも今来た所だけどな」
「あら、じゃあクリアとアオイが居たのね。邪魔しちゃダメじゃない」
「邪魔だなんて思っていませんよ。チームの皆さんが揃って嬉しいです」
優しく否定するクリアさん。
「庭から覗いたら楽しそうに話してたから帰ろうとしたんだけどなあ、オレの話してたからつい口出ししちまった。お前の話もしてたぞ」
「別にそのぐらい良いでしょう。悪い噂してるわけじゃ無いでしょうし」
「オレの耳が確かなら、身長と胸が小さいとかどうこう」
意地の悪い笑い方をしながら言った。その口からは鋭い牙が見えていた。
「アオイ~~!!」
「言ってない! おい、ハーディ!ウソ言うのやめろよ!人が気にしてる事いうのはただの悪口だぞ!」
「あんたのそれも十分失礼よっ!」
「嵌められたッ」
怒るカーネリアに、傍で笑うハーディとクリアさん。どうもみんなが揃うとどうもこういう雰囲気になる事が多い。元凶はハーディなんだけれど!
「で、カーネリアどうしたの。遊びに来た?」
「ええ、そんな所よ。忙しそうにしてたら手伝おうとは思ってたんだけれど、もう済んじゃってるみたいね」
「一応ハーディが手伝ってくれたからかな。お陰様で片付いたよ」
「へえ。あんた、一応そういう所は気が利くじゃないの」
「たまたま気が向いただけだっつーの」
「ふぅん。たまたま、ね」
「うるせぇ」
ハーディが尻尾を立てて威嚇していた。感情は素直にここに表れている。
「良い家ね。光がさして暖かい」
「でしょー。思わず買っちゃったよ」
「妙な所でセンス発揮するわよね……」
「アオイさんの見る目が優れているという事では無いですか」
「そう言うと聞こえが良く聞こえるから嫌ね」
「嫌って何!? それ、俺を否定したいだけでしょ!?」
「あら、良くわかってるじゃないの」
「分かりたくも無かったよ!」
「ククッ。素直じゃ無いだけだよな」
「うるさいわよ! 黙ってなさいバカ犬!」
「ふふっ。カーネリアさん、可愛い」
「クリアまでっ!」
仲睦まじい様子が微笑ましい。
「まあ、あれだよね。シルバーウィングが集まる所もできたね」
「この場所を提供してくれるんですか?」
「うん。もちろん。必要なら泊まれるように洋室もいくつか用意してる」
「部屋いくつ余ってるのよ」
「いっぱい」
そう答えて一つ二つ三つ……指を折って数える。
「4部屋ほどかな。客間と洋室予定含めたらもう少し。ほら、この家って空間広げてるからさ、外見よりかなり広いんだよね。後その術式解析終わったからもう少し広げようと思えば広げられるよ。無理の無い範囲でだけどね」
「へぇ。じゃあ、オレ住み着いてもいいのか?」
「別に良いよ。正直一人じゃ持て余すし、俺は防音性の高い書斎に居るだろうから誰居ても気にしないし」
「へえ。あたしも住もうかしら。ねぇ、クリアもそうしなさいよ」
「わ、私も、その、良いんですか?」
「い、いいですよ。うん」
ちょっと予想外の展開だけれど、楽しそうだ。
「何か面白そうな事になってんな」
「面白いから、良いんじゃないかな」
「マスターがそう言うんなら良いんだな」
「くふっ。ほらクリア。宿引き上げて来なさいよ。あたしも荷物持って来るから合流しましょ」
「は、はいっ!」
女性陣が和気藹々としながら、挨拶もそこそこに一度出直すようだ。
それを見送りつつ、リビングにはハーディと俺が残る。
ハーディは口を大きく開けてあくび。
「……くふぁ」
ふりふりと尻尾を動かす様子はどこか楽しそう。
「オレは庭先で寝れれば良いや。雨ふりゃ屋根の下入れば良いし。藁の中で寝れりゃ十分だ」
「そんなので良いのか?」
「ベッドとか寝具とかは良くわかんねえんだよ。藁の上とかで寝れりゃそれで十分なんだ。うまい飯は食えるし、何も文句ねぇ。何だかんだこのチームで居ると楽しいしな」
その言葉で何か嬉しくなった。
それにしても、ふとしたきかっけで事態は思わぬ方に転ぶものだなあ。
クリアさんとカーネリアと一つ屋根の下、ちょっとドキドキする。色々と準備もあるだろうし、時間がかかって夜になると思うから食事の支度でもしようかな。
「ハーディ。何食べたい。食べたいもの作ってやろう!」
「肉ッ!!」
「肉か。よし、ステーキか?ハンバーグか?」
ハンバーグと言った瞬間。何々、ハンバーグって何?と言ったように尻尾が加速した。今晩のメニューは決まったね。
そうと決まれば、食器類含めて買い物に行かなければ!
「ほら、ハーディ。買い物いくぞ」
そそくさと立ち上がり俺の一歩後ろをゆっくりと着いてくる姿を確認して、買い物に出た。
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