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第二十六話 マイホーム

――――素晴らしい

ギルドの受付嬢であるエリーさんが住まい選びに付き合ってくれて、いくつかの家を見てきた。予算等はおおむね伝えてあり、そこから彼女が見繕った数々。その多くは外見がこだわりすぎているという印象を受ける。宝石より豪華な宝石箱なんて無用の用なように、外装が豪華な家と言うのは如何なものだろうか。俺の好みの問題と言われればそうかもしれないが、俺は家という物は外見よりも中身の方が大事なんじゃないかと思う。いや、家に限った話でも無いのかもしれないけれど。

その中で初めて良いと思う建物に出会う。

外見は白を基調とした壁、黒い屋根に控えめな装飾達。それに流行の形式の窓がいくつか。それに煙突が飛び出しており、軒が長い。家全体を上から見ると凸の形をしているように思われる。この家を一言で表現するならば、清楚という言葉がぴったりだ。加えて外見からわかる情報としては窓の配置が良いという事だ。光を取り込みやすく、自然光を意識した窓になっていた。ただ、家自体はそう大きくないのに、少し広めの庭にやけに多い窓に興味が湧いて止まない。

「どうぞ」

エリーさんが扉の鍵を開けて開く。引き戸だった。そのために、まるで家自体が招いているかのように扉が開く。

玄関をくぐる。

廊下が短い。日本の建築は長い廊下を良しとする風潮もある中で、西洋では長い廊下は無駄だと言い張る事もあると聞く。これは後者が採用されているんだろうか。

ホールを抜けると、そこはダイニング。多く思われた窓から、自然光をふんだんに取り入れ、かなり明るい。まるでサンルームのように。そしてダイニングやリビング、書斎にテラス。二階へと意気揚々と上がると、寝室や洋室が。加えて吹き抜けが存在し、ここからも光を取り入れている。

――ここが素晴らしいのは建築だけじゃない

違和感の正体にやっと気が付く。外装と内装の大きさが異なるのだ。つまりこの家は外装だけ見ればビルトインガレージかと思うが、内装はかなり広々としている。空間を魔法で広げているんだ。これは魔法と建築がうまく組み合わさっている。そして特段に押し出されるのはそれぞれの使い心地だろう。キッチンを初めとした間取り、玄関横の小さな収納など良く考えられていると思う。

――優しい家だ

光源が確保しにくいこの時代。自然光をふんだんに取り入れて、高級なガラスを使った居心地の良い家。加えて、家の節節に建築家の心が見えて気に入った。

心持を決めてエリーさんに購入を伝えた。

ギルドへと戻り、そそくさと受付嬢としての業務をこなすエリーさん。契約自体は複雑なものじゃない。お金を払えば後はギルドがやってくれる。

「……少し寂しいです」

エリーさんは、応接室の机の上で書類を縦に束ねて整えながら言う。

「宿には長い間お世話になったね」

「はい。新人の頃――とは言ってもついこの前のように感じられるんですけど――から贔屓にしてもらって、色々と噂や注目されながら毎日のように迷宮に行かれてて。少しの間どこか行かれて、帰ってきた後の活躍は目覚ましいものでした。もうルーキーとは言えません。シルバーウィングというチームで最前線で活躍する、一流の冒険者ですね。なんだか、あまりに速く成長されてて実感がわきませんよ」

あははっと軽快に笑って見せるエリーさん。

「実質はそんなものだね。俺はもう少し長く感じてる――いや、長かったんだけど。冒険者なり立ての頃は、宿に迷惑かけたなあ。夜遅く帰って来た時もご飯用意して待っててくれたのとかは感動したよ」

「ありましたね、そんな事も。そんな前の話じゃないのに懐かしいですよ。うーん。なんだか、最近はアオイさんが遠く感じられます」

「ええっ。何でだろう……俺自身あんまり変わったとかは思ってないんだけど」

「間違いなく変わってますよ。あ、もちろん! 良い風に、です」

「そう言ってもらえると自信がつくよ。ありがとう」

「いえいえ」

ハニカミながら、事務を完了していた。

お金も払ったし、幾分か軽くなったお金の入った袋を持つ。それはずっしりとした重みがあり。まだまだ使える分は大そうだ。もっぱら使わなきゃいけないお金の方が多いんだけれど。

いくつかの事務辞令を交わしてから、家の鍵を受け取る。これで俺の家と言い張る事ができるわけだ。

「落ち着いたらエリーさんも遊びに来てよ」

鍵を手で遊びながら言った。

「あ、本当ですか。絶対行きますからね!」

「ああ。待ってるよ」

「アオイさん。あの家にはお一人で住まわれるのですか?」

「あー、いやどうだろう。一人で住む予定なんだけど。少し広いよね」

「もしかしてですけど。白薔薇さんと……?」

「ち、ちがっ。そんな事考えて無いよ! 本当に。これっぽっちも考えて無いから!」

「またまたぁ! そういう噂は速いんですから、隠しても無駄ですよっ」

「隠すつもりも無いよ! それにそんな予定も無いもの! 住みつきそうなのは犬一匹ぐらいだよ!」

「ええ、そうなんですか。仲の進展は遅いんですね」

「……っく」

なかなか痛い所を突かれた気分。少しだけ考えはしたけれどね。まだ早い。きっと。たぶん。残念だけど。

「あまり外から口出しする事でもありませんが、うかうかしていると先越されちゃいますよ。女心は移ろいやすいんですから」

「……ああ。心に留めておくよ。ありがとう」

「いえいえ。ただのお節介です」

それじゃ。と言って話の区切りも良い所で席を立つ。

エリーさんにお礼を言うとギルドを出た。

鍵を握りしめていく先はもちろん自分の家。

さぁ、まずは掃除からだ!


お読み頂きありがとうございます

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