第二十五話 棚から牡丹餅 牡丹餅は棚へ
ギルドへはいつも受付の依頼や魔石の買収などのために訪れるが、受付の奥――応接室に招かれるのは初めてだった。個室となっており、座り心地の良いソファーに深く腰掛け落ち着きなくあたりを見回す。壁に掛かっている絵画の類や俺の目から見るとアンティーク調の雰囲気を持った数々の家具は親しみが無い。アンティークやヴィンテージと言われるような逸品が横行しているために、物珍しげに見るのは俺ぐらいなんじゃないか。そういうふとした所でカルチャーギャップを感じる。
「お待たせして申し訳ありません」
音を立てて扉を開き、部屋に入ってくるのは受付嬢のエリーさん。今回、魔石の売買に来たんだけれど規格を外れて大きな品だったために査定に時間がかかってしまったのだ。持ってきた魔石とはもちろん、自爆する妙な魔物が生み出した魔石だ。かなりの値段になるだろうと浮き足立って来たがその結果は良好。ギルドの受付嬢が驚愕の表情を浮かべた時に思わず笑みを浮かべるぐらい。
「あまりに大きな魔石だったために多少価格で悩んでしまったようで、先ほどギルドの鑑定士より見積もりが上がりました。このぐらいでどうでしょうか?」
「……おお」
紙に書かれて提示されたその価格に思わず声を上げた。今まで迷宮に潜って魔石や鉱物などを拾っては売りに来ていたけれど、それらとはケタが違った。具体的には0が二つほど。価格や取引の面ではギルドを信用している。この話を飲まないわけがなかった。
「是非お願いします」
「商談成立っ、ですね。良かったぁ。どうしても買い取って来いって上から言われてたんですよ」
「へえ。エリーさんの上司から?」
「いえいえ! ギルドマスターかららしくて、ビックリしましたよ」
ギルドマスター。
聞きなれない単語に戸惑うが、少しして思い出す。
このギルドの最高責任者だ。同時に迷宮を取り巻くこのギルドの街での最高権力者でもある。会ったことも見たことも無いけれど、勝手ながら人格的にできた人だと尊敬している。ギルドが冒険者に寄り添うように、かゆい所に限らずどんな所でも手が届くように整備され迷宮を包括するこの迷宮都市を作り上げたという経歴を持つ人物。もしお会いしたならば、頭が下がる。ビジネスとは言えその恩恵を受けているのだから。
「へえ。ギルドマスターって、どんな人なの?」
興味本位で聞いてみる。
「詳しくはわからないんですよ。お忙しいのかあまり人前に出る事も少ないみたいですね」
「ははっ。なるほど。ありがとう」
「ああ、そういえば。魔法に関心があるとは噂で聞きました!」
「へえ。そういう人って色々な事に興味持ってそうだね」
「あはっ。そうかもしれませんね」
エリーさんは売買内容を確認し、了承を得るとお金を取りに奥へと行き男性職員二人を引き連れて戻ってきた。何事かとも思ったが、どうも用意したお金を入れた袋が重くて二人掛かりの大事になってしまったらしい。
「……すごい光景だな」
「あ、あはは」
思わず苦笑いするエリーさん。何人かで一緒に硬貨の数を数え合わせているのだがこれまた量が多く大変なんだ。数えてくれる便利な機械など存在するはずも無く全て手作業で数えていく。この作業にかなり時間を使った。
ようやく数え終わり、その袋は俺へと渡されるが……。
「うおおお! 持て無いよ!」
軽く強化の魔法を使って持ってみるも叶わない。おとなしく、誰かに力を借りようかと思って思い浮かぶのはクリアさん。
――ダメだ。ダメだ。
おそらくクリアさんなら意にも介さず持ち上げる――持ち上げてしまうだろう。だけど、そこに俺の体裁の問題とか情けなさとかが生まれてしまう!
「ど、どうしましょうか……?」
見かねたという様子で困惑するエリーさん。何か申し訳ない。
そこで一つ答えを閃いた。
「よし、わかった。これ使えば良いんだ。軽くなるまで」
ピクリとエリーさんが反応し、商売人の顔になっていた。
「何をお求めでしょうか? ギルドにはあらゆる物が揃っています。今は無いものでも、近いうちにお手元に届くことを約束致します」
ギルドの売り文句が延べられる。数々の商人や生産職の方とつながりを持つギルドならではの発言だろう。
その中で俺は欲しいと思う物を浮かべるが、これはちょっと違うかとかぶりを振る。今は欲しいものじゃなくて、必要なものを買うべきだ。
生活を取り巻く環境の内、俺が一番欲しいと思うのは……やはり自分の済む場所だろう。ギルドの宿も慣れたんだけれど、やはり少しだけ高望みがしたい。そしてアンティークが好きな俺からすれば、家具も家も憧れを抱くばかりなのだ。今のアンティークには年月の重みという物は無いが、それでも赤レンガで構築された洋館には少しだけ憧れる。和風と洋風どちらが好きかと言われればいつもホテルでは和洋折衷と答える俺だけれど、今ならこの洋風が好きだ。というか洋風しか無いから、環境に引っ張られているのかもしれないけれど。
「エリーさん。ギルドで、家って扱ってる?」
「勿論です。少々お待ちくださいっ!」
エリーさんの屈託のない最高の笑顔。思わず眩しくて目をそらしたいぐらいだったのだけれど、その表情から目が離せないのは人の性か。
エリーさんは急ぎ足で奥へと引っ込んだ。紹介する物件の資料などを持ち出しに行ったんだろう。
目の前に置かれたお金の入った大きな袋。それを見てふと思った。
――ギルドで稼いだお金をギルドで使う。俺、貢献してんなあ
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