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第二十四話 それぞれの役割

「情けねえな。もう無理か?」

「……まだまだっ」

滴る汗をかぶりを振って落とし、ハーディに向きなおす。未だにハーディの表情に疲れは見えない。それに加えて俺は体力的な不安が露呈していた。

連日迷宮に潜っていたせいか、思った以上に疲れが出ている。それも当然。30層の呼び声がかかろうとしてくると、迷宮のレベルがさらに一段上がった。来る敵来る敵厄介な魔法を使って来たり、妙なスキルを所持していたりする。大抵は俺がそのスキルを見破り対処するという風に行って、ハーディが前線を上げてくれている間に俺が魔法を詠唱して発動し倒すというスタイル。ハーディはおそらくこの階程度ならば、さしたる労力も無く触れるだけで倒せるはずだけれど、俺の経験のためだろうか、何も言わずに俺に魔法を使う機会をくれている。そのおかげで自分のステータスは上がっているのでありがたい。倒せば倒すだけ、経験値を積むようにステータスが上昇するのがわかるが、ハーディを見ているとステータスが上昇していない。おそらく、ハーディの成長スピードは緩いのかもしくは上昇しないんじゃないかと推測する。もう一つの可能性としてステータスの上限一杯というのもある。ハーディのステータスを見る限り、それもあり得ない話では無いかもしれない。

「何となくオレとの組み方わかったか?」

「やっぱり気にしてたのか。正直。難しい」

「そりゃな。チームを組むとは言うが、リーダーであるマスターがオレの戦い方を良く知らないんじゃ不味いだろ」

先ほどからの行動は俺と合わせる練習だったらしく、おかげで何となくとは掴めていたが……。

「ハーディの動きが速すぎてさ、魔法を当てやしないか心配だったよ」

ただでさえ動きが速いのに加えて、空中を足場に自由自在に駆け抜けるその様子は見ているだけならば良いのだが、組んでその隙を縫い敵に攻撃を当てるとなると至難の業だ。

「ん。ああ、なるほど。オレに魔法当てるつもりで撃っていいぞ。どうせ当たんねえし、当たっても絶対効かねえから」

「そんな自信……ああ、なるほど」

「解析の魔眼持ってやがるならわかんだろ。ある程度の威力の魔法ならオレは弾くんだよ」

ハーディならば上級魔法までなら余裕で弾く。古代魔法でも広範囲に散布する魔法ならば耐えそうだ。それぐらい高い魔法抵抗能力を持っていた。加えてスキルの数々が凄まじい。空中を駆けるスキルや、その牙や爪が必殺である事を感じさせるスキルなど様々。有用なスキルを山ほど持っていた。

俺なんか天眼の他はカーネリアやオリビア様に授かったスキルなのに……。俺の天眼は先天的なスキルとし、後者を後天的なスキルとすればハーディの持つスキルの多くは先天的なスキルだ。スキルというのは面白いもので努力がある一定のレベルに達するとそれはスキルと呼ばれるようになる事もある。そう言った意味でもスキルというのはその人の才能と努力の両方を現していると言えよう。そう考えるとハーディは俗にいう天才なのかもしれない。

「この階の主が近いな。オイ、主はオレがやっても良いのか?」

「ああ、いいよ。というかボスは二人でやらないと流石にキツイでしょ。何が出てくるか知らないけれど、厄介な事はこの上ない。31階のボスは確かかなり研究されてたはずだから、一旦外に戻って情報を仕入れるのもありだよ」

「何が出て来てもオレとおま……マスターなら大丈夫だろ」

「俺は結構くたくたなんだけどなぁ」

「ハハ。情けねえ。後ろで指でもしゃぶってやがれ」

「使い魔の後ろで指揮するだけでも立派な仕事だと思うけどなあ。だけど、そうなると俺は魔法使いじゃなくて魔物使いあたりを名乗らなきゃいけなくなるから、パス」

「フン。オレもそんなマスターだったら、蹴り飛ばして魔物の餌にしてやる」

「そりゃ勘弁だ」

悪態も慣れたもので一種のリラックスのようになってくるから不思議だ。

「マスターは攻撃型の魔法使いでは無いよな。かと言って支援だけでも無い。何か立場ビミョーなんだよなぁ。リーダーの癖に」

「うわあ。そんな事言う?」

「ンー。組んでて思ったんだよなあ」

「いいんだよ。俺はそれで。エース争いはハーディとクリアさんでしてろ。俺は俺にできる事をやるだけだから」

「ふぅん。なるほどな。確かに、あの嬢ちゃんとは戦いてぇな。互角か、あるいは……」

「ハーディの方がステータスを見ると圧倒的に高いんだけどなー。クリアさんは戦う時の勘と読みが素晴らしいからね。あれは凄いと思う」

「ああ。野生の勘とは違う。技術と経験に裏付けされた本当の意味での直感だからなあ。人間って恐ろしいぜ」

「本当にね。チーム組んでるって言ってるのにまだ勧誘されてるんだよ……。もう俺は今この瞬間も気が気でないよ」

ハーディはボソリと呟いた。「人間っていう言葉にゃマスターも入ってるんだけどな」その声は届かなかった。


しばらくすると、大きな扉が現れる。重々しくそびえ立つそれは何度見ても慣れず怖気づく。

今回はこの中から何が出てくるか。階層事に出てくる魔物は固定され長い時間をかけて攻略することも十分に可能なのだけれど、俺とハーディはほぼ出たとこ勝負。何となくでずっとクリアし続けていた。

「良し、行くぞ」

「オウッ」

扉を開けて、中に足を踏み入れる。

中には何も居ない。通常ならここから召喚され戦闘となるのだが……

――おかしい。

いつまで経っても召喚され無い。

やっと空中に魔法陣が現れ魔物が召喚される。

「ん。また妙なスキル持ってるな」

「ああっ? 今度は何持ってやがんだ」

「身体能力上げる類のスキルと自爆。こいつ最後やられる瞬間自爆するぞ」

「面倒臭ぇ……」

「でも、いつも通りサクッとやっちゃおう」

「オウッ!」

魔物が姿を見せる。

その姿は人型。体長が3mほどあるが動きは重い。黒く、土くれの塊のようだが戦闘の意志すら感じさせないのは何故だ。

――やるぞ?

目でそうアイコンタクトしてくるハーディに頷いて了承する。

その瞬間ハーディは飛び出す。銀の弾丸となり、軽く魔物を貫いた。相手は避ける仕草もせずハーディの牙を爪を喰らう。

――ああ、なるほど。そういう奴ね。

最後の最後に、あの魔物は妙な魔法を発動させた。自らの命を魔力に変換し、自分の能力以上の魔法を行使するような気味の悪い魔法。

それが何を呼ぶかは想像に容易い。最後の一撃に賭けているんだ。

そこから生み出される魔力は膨大。おそらく、魔力の大暴走は古代魔法に匹敵するぐらいの威力を誇る。

「ハーディ! 俺の後ろへ!」

迅速にハーディは俺の後ろに戻る。

その間にも魔物の魔力は急激に膨れ上がる。風船が空気を入れ続けているような感覚。それは自らの破滅を意味するが、それは構わないのだろう。かの魔物の最後は自爆と決まっているのだから。

最初から相打ち覚悟の妙な魔物。そして妙な魔法。気に食わないな

魔物の魔力が絶望的に大きくなる。

「オイ。流石にこれはマズイだろ。オレが盾になる。マスターが下がれ」

「黙ってそこで座ってろ。大丈夫だから」

詠唱を終える。いつでも魔法は発動できる。

こらえきれなくなった魔物が爆散し、膨大な魔力が行き場を失い暴走する。それは形を持って魔力の奔流を起こし大きな爆発を起こした。

それと同時に杖を高く掲げた。

『イージス』

俺が誇れる。最強の盾。

この魔法にならば例え絶望的な状況であろうと任せられるほど信頼している。

目の前に発動するのは薄く銀に光る魔法障壁。

――かの精霊王に褒められるほどの優秀な盾

爆発が俺とハーディを容赦なく襲った。

――この程度、精霊王の一撃に比べれば軽いものだ

その魔力の奔流を全て受けきる。

ハーディが驚くのが伝わった。

話を少し戻す。先ほどハーディが言った事は正しい。俺は攻撃型の魔法使いでは無い。おそらくは防御の方に秀でている。それに、俺のチームは俺が攻撃しなくても良い。クリアさんにハーディ、加えてカーネリアまでいるため攻撃の手は様々だ。だから俺はこのチーム内での役割を支援と防御に求めた。敵の魔法は俺が引き受ける。味方の支援も行う。大局観を持ち、戦況を動かす重要なポジション。その位置で自分の能力が十全に発揮されると踏んだのだ。

魔力の奔流を完璧に受けきった。

魔物は魔石へと姿を変えていた。異常な魔力を吸い込んだからか、かなり大きい。棚から牡丹餅という奴かな。

「な。大丈夫だったろ」

「……流石に驚いたぞ」

「俺はこれぐらいしか出来ないからね。やる事はしっかりやるさ」

「守りの魔法使いか。魔法は威力勝負になりやすい時代に一人ぐらい変わった奴居ても良いんじゃねぇの」

魔法使いは大魔法の撃ちあいに制した方が勝つというのは闘技場の魔法使いの戦いを見て良く知っている。だけど、俺はそれに則しなくてもいい。

「あはは。うちのチームは大火力の魔法使い一人居るからさ」

「……なんだ。思ってたより良いチームなんじゃないか?」

「やっとわかったか!」

「フン。だがな! 四人そろって動けねえと意味ねえよ。これでオレとお前の動きは大丈夫だろ。後はテメェが何とかしやがれ」

俺のスタイルになんだかんだ言いつつ納得してくれたみたいだ。

「そうだな。今度は四人で迷宮来ようか。それまでに少し動き方を考えておくよ」

「頼んだぜリーダー」

「ああ、任せとけって」

リーダーっていう響きが、妙に気持ちよかった


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