第二十三話 結成『シルバーウィング』
―――迷宮で噂になっている事がある。
それは白薔薇が復活したという事。探索中に大怪我を負い、前線を引いたと思われていた白薔薇が迷宮に顔を出して探索に精を出していると言う。ブルーローズのエースの名は大きい。だから、人々が気になるのも仕方がない事だ。そんな噂の人物――白薔薇ことクリア=セラフィスはそんな事は気にせず、ギルドが経営する飲食店で楽しそうに食事をしていた。
「ちょっとやめなさいよ」
カーネリアの制止の声を聴かずに俺は声を上げる。
「いや、気になるだろ。おいハーディ! その体と顔を魔法で人間の姿に変えたのはわかるけどさ。どれだけの時間、鏡の前で造形造り変えたんだよ!」
俺の向かい側に座って肉を豪快に食らう色男に声をかける。未だにこの姿形に慣れないが、この男はハーディだ。長い銀髪に中世的な顔立ち、そして涼しげな眼が特徴的な色男。長身で足も長く、非の打ちどころが無かった。だからこそ、気に食わないでしょう!
「そんな事気にしたことねぇよ。適当に人間の姿取ってるだけだ。まず人間なんてほとんど一緒に見えるからわかんねぇよ」
「何だその余裕―! そんなに俺らが飯食ってる間、店の前で座ってるのが嫌だったのか!」
「当たり前だろうがっ! テメエらばっかり美味そうなもん食ってんの見てるだけっつーのは嫌に決まってんだろうが!」
「あ、確かにそうかもしれない。今のは俺が悪かった。なに?これからはたまに人間の姿取るの?」
「ああ。飯食う時とかだけな。慣れてないから動きにくいんだよ」
「ふーん。なるほどな」
「いつでも姿ぐらいなら変えれるから、必要なら言ってくれよな。あと、おかわりくれ」
そう言って再びステーキのおかわりを注文するハーディ。人間の食べ物は優れている。食事にこれだけの手間をかける姿勢は尊敬すると口にしてからずっと食べ続けている。美味しそうに食べるから良いんだけどね。彼には俺の財布事情はわかってもらえてないようで、そろそろ俺の支払い能力を超えるという事を知ってほしい。問答無用で皿洗いとか雑用係としてハーディを置いていくから良いけどね!
「バカ犬。そこまでにしときなさいよ。そろそろアオイの財布が空になるわ」
「カーネリア! よく言ってくれた! もう少しでハーディを皿洗いに置いてく所だったよ!」
「ん、ああ。わかった。しかし美味いな。ついつい食っちまう。もうちょっとだけ食っていいか?」
「後二回ほどおかわりされたら俺は今すぐ迷宮へ潜って魔石を取ってこなきゃいけなくなるよ」
そんな俺の悲痛な声を横に、優しく微笑む人が居た。
「ふふ、大丈夫ですよ。私も払いますから。気の済むまで食べてください」
「お前! 良い奴だな!」
尻尾があったら絶対揺れている。そんな明るげで嬉しそうな表情を浮かべる犬。
「クリア! 甘やかしちゃだめよ。バカは付け上がるんだから。あと、このチームにはバカが二人居るって事忘れないで」
「……ああっ!!」
そう言ってハーディが手を叩きカーネリアと俺を指をさす。
――コイツ!
「ッチッチッチ」
俺は人差し指を立てて、横に振った。
その後にすぐカーネリアとハーディを指さす。馬鹿はお前らだと。
「バカはあんたら二人よ!バカッ!」
ゴツンと音を立てて拳が振るわれる。俺とハーディの頭に鉄拳が落ちた。
「「いってえ」」
「ひどいよ! わざわざ今一瞬強化発動したよね! 俺たちを殴るためだけに!」
「オレの方の強化、尋常じゃ無く強かったぞ」
「はぁ。無駄な魔力使っちゃったわ」
カーネリアは呆れたような溜息をつきグラスの水で喉を潤している。
「ふふふっ」
一連の様子を見ていたクリアさんが笑っていた。
チームを組んだという事でチームメンバーの紹介を合わせた懇親会という事だったんだけど、あまりの協調性の無さにチーム組んでくれなくなるんじゃないかとヒヤヒヤしている。
「アオイさん」
「はい!」
「チームを組む上でチーム名は必要だと思うのですが、決まってますか?」
・・・・・・あー!!
「……その顔じゃ決めてねぇな」
「バカじゃないの!? 忘れてたわね!?」
「いや、うん。そうだね。名前って大事だよね。で、どうしよう?」
ブルーローズとホワイトフェザーを筆頭に様々なチームがこの迷宮に溢れている。それらは紋章を身に着け迷宮で活躍することで、その紋章とチームの名前を有名にするのだ。
一同は発言を控えている。これは、俺が決めろという意思表示の表れだろう。意見を聞こうと思ったがそれはできないらしい。
仕方なく考えていた名前を口にした。
「『シルバーウィング』なんてどうだろう。翼は自由の象徴で、誰よりも自由に動けるチームだ」
「良いと思います。自由というのがアオイさんらしい」
「銀か! 良いな。オレの色だ」
「へぇ。あんたが思いついたわりには悪くないわ」
良かった。一先ずは気に入ってくれたみたいだ。
「はい。ハーディにプレゼント。首に巻いとけ」
そう言って渡すのはスカーフ、もちろんチームの紋章入りだ。
「ちょっと! あんた昨日の夜寝て無いとか言ったけど。 それ作ってたでしょ!」
「何のことかなー。クリアさん、剣の鞘を貸してー。よっと。はい、オッケー」
剣の鞘の紋章を書き換える。このぐらい刺繍に比べれば簡単だ。
「カーネリアはどうするー? どこにつける?」
「あんたはどうしてんのよ」
「俺? ほら」
そう言って左手を上げる。そこには銀の翼のマークが既に入っていた。
「はあ……。あたしもそれで良いわよ」
「本当? それじゃ、手貸してね」
カーネリアの手を取り俺との契約印が入っていない方に紋章を浮かび上がらせる。魔法で描いているので、そう簡単には消えないが消したいときには消せるようにしてある。
「あの、私も。手にも紋章を入れて頂いていいですか?」
「いいけど、いいの?」
「ええ、構いません」
静かにクリアさんの手を取る。その手にも紋章を浮かばせた。
大事そうにその手を抱える姿が愛らしい。
「なんだかんだ言ってるけど、しっかり考えてんじゃないの」
「そりゃ、俺のやらなきゃいけない事だからね。ちゃんとチームの目標も決めてあるよ」
わざと咳払いをして間を置く。
「迷宮制覇!」
大きな声で言った。ただ、ここにいる誰もがそれは知っていたようで驚く事が無かったのは残念。
「フン。当然だ」
「言われなくてもやるわよ」
大きな目標を当然と言い張る二人に頼もしさを感じる。
「大きく出ましたね。でも、私達なら。きっと」
やはり迷宮制覇というのは難しい目標なのだろう。誰よりも迷宮に詳しいクリアさんがその難しさを言うかとも思ったが、俺たちを信じて手を貸してくれている。
「何か感動して涙でそうになったよ」
チームというのは素晴らしい。同じ目標をめざし助け合える仲間なのだから。
「……ムフフフッ」
「何にやにやしてんのよ。気持ち悪い」
「いやー、何か楽しくなって来てさ。いいよね仲間って」
「ええ、本当に。信用できる仲間は、本当にかけがえの無い大切なものです」
クリアさんが笑いながらそう言った。その言葉は決して軽くなく彼女の経験談がそれを示している。
「ね。クリアさん」
「何ですか?」
「君の背中は絶対に俺が守るからね」
「はい。安心して任せますよ」
後ろは大丈夫だと、安心させてあげたかった。でも、優しい言葉をかけられて自信がついたのは俺の方だった。
「わかってる。すげぇ真面目なセリフだったのはわかってる。けど、ウゼエ。イチャイチャしてるようにしか見えないようになってきたぜ」
「アオイが何か言うと全部そういう風に聞こえるのよね。ヘラヘラしてるから」
「してないよ!ひどいなぁもう」
「アオイさんは、欲しい言葉は欲しいときにくれますよ」
「クリアさん……!!」
「何でこんな、男を立てられるようなできた女がこんな男と……」
「同感ね。性格的に反対の二人なのに合ってるのよね。わからないわ」
「お前ら、聞こえてるからね!」
チームリーダーとしての威厳とかは俺には全くないみたい。とほほ。
けど、この四人なら大丈夫。何があっても乗り越えられると感じる。
これからのチームの活動が楽しみだ!
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