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第二十一話 助けあい


目の前に立つ少女の口から出た言葉が胸に刺さる。

「その様子じゃクリアの事、何も知らねえんだろ?」

明らかに、クリアさんに何かあったということを言葉とシルヴィーの雰囲気から察してしまった。

「クリアはもうブルーローズを抜けたよ。クリアだけじゃなくてアタシも抜けたんだけどね」

「何で抜けたんだ。クリアさんもホワイトフェザーに?」

思わずシルヴィーの方に掴みかかりそうになる。

「落ち着けって。アタシは此処にいるけど、クリアはもう居ない」

「待って。それって」

どういう意味だと聞くのが怖かった。明確に居ないと言葉にされたんだ。その意味は深く考えなくてもすぐに理解できた。

「待て。すまん、いまのはアタシの言葉が悪かった。クリアはもうこの街を離れてる。迷宮に潜ることができなくなったから」

良くない話だ。けど、知らぬ存ぜぬで捨て置ける話では無かった。

「詳しく話を聞かせてくれ」


――――ブルーローズで34階のボスに挑んだときの事だ。

アンタも知ってのとおり、ウォーレンを中心にしたチームでクリアとアーノルド――ほらアンタに襲いかかった馬鹿だ――そいつで前衛を務めてアタシはその一歩後ろで遊撃してたんだよ。後衛にはウォーレンともう一人魔法使いが居たんだ。アンタはたぶん会ってないと思う。そいつも腕利きの魔法使いだよ。ウォーレン並みの器用さは無いけど威力重視の魔法使いさ。ボスとの戦略が、前衛はボスの足止めしながら戦って魔法主体で攻めるスタイルを取ってたんだよ。火の魔法と相性が良いボスで、火の魔法使いのソイツ頼りに戦う予定でひたすら詠唱時間を稼いでいたんだ。で、長い詠唱が終わって、いざ魔法を放つから離れろっていうタイミングだった。ボスがクリアを狙っててね、下がるのが遅れてたのに、それに関わらず魔法を放ちやがって……。

それに、クリアが巻き込まれた。


――何て事だ

チームを組む上での魔法使いとして最大の禁忌。味方に攻撃を当ててしまう事――フレンドリーファイヤを犯し、それにクリアさんが巻き込まれたなんて。

「クリアさんの今の状態は、どうなって……!」

「ひどい火傷を負っているが生きてるよ。ただし、もう戦えない。剣を持つこともままならない状態だ」

「そっか。もう一つだけ、クリアさんは今どこ?」

「やめとけ。アンタが行って何ができる。クリアが今の自分を一番見られたくないのはアンタだ。剣を持てないと知った時泣いてたよ。あれだけ剣と共に生きた奴が、剣を捨てる事よりもアンタと共に戦えない事を悔いてたんだ。どんな顔をしてクリアと会うつもりなんだよ……!」

あまりにも声を荒らげたために転移の間が誰も居ないかのように静まり返る。ホワイトフェザーの人も思わずシルヴィーを止めに入った。

「ッチ。すまん。アンタにあたるつもりは無かったんだ。ただどうしても、あれを事故とするブルーローズの空気もクリアの無念も、糞みたいな魔法使いにも腹が立つんだよ」

「いや、いい。その気持ちはわからなくはないから。……でもさ、俺はクリアさんに会いに行くよ」

胸ぐらをつかまれた。

「アンタ一体何を聞いてやがった!? アンタがクリアにできる事なんてねぇだろ!? 行っても不用意に傷つけるだけだと知れよ!」

胸を掴んでいる手をそっと取り、手を重ねた。

「俺に出来る事は無いのかもしれない。それでも、俺はクリアさんと一緒に居たいんだ。ずっとチームになることばかり思ってたけど、その根本にあるのはクリアさんと一緒に居たいって気持ちだったんだよ。だから、チームに縛られずにどんな形であろうとクリアさんを支えたい。例えクリアさんが戦えなくなってもそれは変わらない。彼女が拒まない限り、俺は彼女を受け入れる」

静まり返った転移の間に驚いたような歓声が起こる。誰もが告白という言葉を軸に愛だの恋だのと騒ぎ立ててしまう始末。ちょっとした喧噪が起こっていた。

「ッチ。恥ずかしい奴だなアンタ。ただ、そこまで言える男が少ないだけってのもあるのかもしれない。いいよ。クリアの元に案内してやる。だけど忘れるな。クリアが良いと言わなければアンタをクリアの元には連れて行かない」

「うん。それでいい。ありがとうシルヴィー」

「ああ、うるせぇ。アンタと関わってると調子が狂う。ごめん、皆。ちょっと行っていい?」

ホワイトフェザーの人たちは喜んで許可してくれる。それどころか、応援してくれているようだった。感じの良い人達だ。集団の中に居ながら私事を優先したいと言っているのに喜んで背中を押してくれるというのはなかなかできないんじゃないかな。ホワイトフェザーが多くの人を抱えて機能している理由が少しだけわかった気がした。

「先にアタシが行って、アンタが会いたいって言ってる事を伝えてくる。そこで拒むようならそこまでだ。それでいいな?」

「それで構わない。ありがとう。よろしく頼むよ」

「少し待ってな」

シルヴィーはすぐに転移していった。残されたホワイトフェザーのメンバーも、すぐに迷宮へ潜るようで転移しようとしていた。何となくシルヴィーが欠けたのを不安にしているのは様子でわかる。何か俺に出来ることは無いかと考えて声をかけた。

「強化使える魔法使い居る? 居なければ少しだけ力貸すよ」

魔法使いが首を振る。どうやら強化は使えないようで、幸いと強化の魔法を詠唱する。4人同時に付与をおこなった。効果の上り幅は大きくないが長い時間戦えるようにしてある。迷宮に潜っている間は大丈夫だろう。「ありがとございます」と気持ち良く反応されて、俺の方まで嬉しくなった。何階に行くか聞いてないけれど、ステータスを確認する限りは戦えないという事は無さそうだ。

目の前の問題に戻る。

おそらくは全身を覆うほどの重度の火傷。それもかなり症状が重く、運動障害が残っていると予測される。このケースは俺の知る治療魔法で治すことはできるのだろうか……。いや、何としても治したい。かつて、クリアさんは俺を立ち直らせてくれた。今度は俺が助ける番だ。


お読み頂きありがとうございます!

少し文字数が多く読みにくいとご意見いただきました。少し支持してみようと思います。貴重なアドバイスありがとうございます!

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