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第二話 迷宮は誰かと共に

迷宮は街の中心にある。

この迷宮が現れたために、この場所に人が集まった。それが街になったのがこの街の発端であるらしい。

迷宮の入り口で簡単な手続きを行う。

迷宮は地下数十階に及ぶ広さを誇り、その広大さ故に迷子や遭難といった事態が起こる事があるらしい。そのため、何階の迷宮に行くのかという記録とギルドカードの提示を求められる。あまりにも迷宮に潜ったまま出てこない冒険者に対しては、先輩の冒険者達が捜索に出てくれる事もあるそうだ。

助け合いって、素晴らしいね。たぶん助けられる方なんだけっど。

そんな中、受付でギルドカードを提示し一階へ行く旨を伝えた。

「頑張ってくださいね」

新米冒険者を歓迎する声が受付の人から上がる。

「ありがとうございますー」

軽く返事だけをして、迷宮に足を踏み入れた。

迷宮の下層への出入りは転移という魔法具を使って行うらしい。また、出るときも同じく迷宮脱出用の魔法具を使って出るというのが主な出入り方法となっているようだ。

あれは魔法使いならば魔法で代用する事が可能らしく、今度一度魔法具を見せてもらおうと思う。そうれば、俺の持っている唯一のスキルで、魔法を再現する事ができるんだ。俺の持っているスキルは、鑑定と言われる物の詳細を把握するスキルの上位版である。名を天眼と良い魔眼の一種に数えられる、らしい。カーネリアにそう教えてもらったが、スキルなんていっぱいありすぎて把握しきれていないという事だそうだ。それに、魔眼と呼ばれる物のなかでは直接的な効果は少なく、戦闘に役に立つ事も無いとの事でさして強くないという判断だ。俺は気に入っているんだけどなぁ。それに常時発動する事が可能で、この世界に慣れていない俺からすれば物の名称や、それの持つ価値、品質等、実に様々な情報が手に入るのでお気にいり。そして、魔法を見て詳細が把握することができるという点。物に限らず、魔法を見る事ができるという点が異質だそうで、その魔法の形態をも把握する。そして、把握した知識は俺の中で知恵となり、それを再現する事ができる。つまり、魔法を見るだけで再現する事が可能になる。ただ、使ってみると熟練度や、経験というものが不足しているため十分な効果は生まれず思った通りにはいかない。ただ他の魔法使いに比べて魔法を習得するスピードが段違いであると誇る事ができる。当面の目標は、さまざまな魔法を見て、自分に合った魔法を見つける事となっている。

そんな思慮をして歩いていると、迷宮の入り口へとたどり着いた。

入口は、古代の遺跡の入り口のように石でできた堅牢な造り。その扉を潜ると転移の間と言われている大きな広間があり、名前の通り転移で迷宮に潜る人や、探索が終わって出てくる冒険者が居る場所だ。ちなみにそこで待ち合わせをすると混雑の原因になるため、複数人で探索をする場合は外の待ち合わせ場所で待ち合わせてから入るというルールがあることをさっき教えてもらった。といっても俺の場合しばらく一人だろうから関係ないんですけどね。

一人のようで、一人ではないのかもしれない。精霊は人という数え方でいいんだろうか。柱という数え方が適切なのかもしれないが、俺は人と精霊の違いなんて明確に知らないからカーネリアの事は人と数える事にしよう。

迷宮の入り口をくぐり、転移の間を訪れる。

壁には火のついた松明が灯り、見晴らし事態は悪くない。転移の間は、戦闘装束を身に着けた冒険者がたくさん居た。今から迷宮に潜るだろう、消耗品のチェックをしている一行や、今探索を終わり、自身に治癒の魔法をかけて傷を癒した後出ていく魔法使い。魔法使いの転移の魔法で集団で迷宮の下層へと転移していく人たちも居る。

年甲斐も無く、少しだけわくわくしてきた。というか、しばらくここで周りを観察して魔法を勉強しようかな、と思えるぐらいに魔法が使われてる。

目の前の地面にいきなり魔法陣が現れた。転移の魔法陣、下層から転移の間へと戻る魔法だ。そこから、長身の女性が現れた。ただし、状態は満身創痍。立っているのがやっと、という状態で倒れこんでくる。たまたま前にいたので、その体を支える。

「おい、大丈夫か」

寄りかかられているという体制上、上目使いで俺の顔を覗き込まれる。目と目があった。

すごく、綺麗な女性だ。

艶やかな、職人が丹精をこめて作った芸術的な金糸のような長い髪を垂らし、白銀の鎧を着、剣を携えた女。顔立ちは整っているの一言、特徴的なのは意志の強さを感じさせる切れ長の目と、見透かすような碧い瞳。この人も冒険者なのだろう。傷つき疲弊した様子が何よりもそれを証明していた。

「どなたか治癒を使える魔法使いは居ませんか。お礼はします」

その女性が座ったまま、周りを見渡して言った。

「俺、使えるよ。足にヒビ入ってるの治してあげる」

天眼を通して状態把握してあるため、思わず口にしていた。

ふと、思った。

もしかして、この転移の間には治癒を生業とする魔法使いが居ただろうか。それなら仕事を奪うようで申し訳ないんだけれど。スキルを使って見回したところ魔法使いは居ても、治癒を使える人はいないようで、俺がやる事で良いみたいだ。

きつく縛られたブーツの紐をほどいて、足を露出させる。

頭の中で記憶を引っ張り出す。先ほど魔法使いが使っていた魔法。ヒール。イメージを強く、強く、強く繰り返す。

「ヒール」

魔力を強めに且つ長く治癒魔法を使用する。イメージ通りに魔法陣から柔らかな緑の光が発せられ、みるみる状態は良くなってきた。その過程を見るとまるで時間を早送りしているかのごとく状態が変化し、ようやく完治となった。この治癒の魔法があれば間違いなく医療の分野の進化は遅いだろうなぁと感心する。

「よし、それじゃ」

多少寄り道したけれど、一階へと足を進めるために奥の扉へと向かう。

「ちょっと待て下さい」

その声の主は先ほどの女の冒険者だった。

「まだ痛い? 違和感はあるだろうけど、痛みは取れたと思うんだけど」

「そうじゃないんです。 お礼をさせて下さい」

「律儀だねー。いいよ、何してくれるの?キスでもしてくれるの? ごめん。ウソウソ冗談だって」

思わず軽口を叩いたら、背筋が凍りそうなぐらい怖い目で睨まれたために撤回した。たぶんもう少し続けていたら斬りつけられたと思う。

「べ、別にお礼とかいいから、それじゃ!」

逃げるようにその場を退散しようと奥の扉へと向かって行く。

腕をつかまれた。ものすごい力で。

「貴方は、私をバカにしているんですか!?」

「ちが、違いますって。痛いっ痛いって、ごめんなさい、ごめんなさいー!」

手を離されてなお赤く跡が残る腕を見つめる。俺ってやっぱり非力かもしれない。

「……何階層の冒険者ですか?」

「えっと、今から一階、です」

「一人で?」

「ああ、そうだけど」

「やめておきなさい」

低く、落ち着いた声で言われる。

「貴方は、魔法使いでしょうけれど、あまりに弱すぎる。それに戦闘の経験は少ないでしょう。その証拠にステータスはかなり低いはずです。一階とはいえ、やめておいた方がいいと思いますけど。もしくは、誰かと一緒に行った方が良いと思います」

この人がいう事は正しい。

戦闘数とステータスの間には関係がある。経験値を積んでレベルを上げるように、戦闘をこなすとステータスに反映されるのだ。おそらく俺のステータスが恐ろしく低いという原因はこれ。だから、少年程度のステータスしかない俺は、こうやって忠告を受けたのだ。

「なるほど。それじゃあさ、俺と一緒に一階いってくれる?」

感情の変化が少ないと思っていたこの女性だけれど、ようやく驚いた表情を浮かばせる事ができた。

「良いでしょう。貴方の護衛として同行します」

「決まりだな。疲れてるみたいだけど、大丈夫か?」

「おかげさまで。戦闘に支障が出る事はありません。お気になさらずに」

そうして、カーネリアを含めて三人で迷宮の入り口へと向かった。

「くふふ。面白くなりそうね」

悪戯っぽく呟いたカーネリアの声は耳に残った。


お読み頂きありがとうございました。

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