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第十三話 気高き心

「眠りの風」

威力は抑えて、洞窟の入り口に立っていた見張りを眠らせる。

ドサリと重い音を立ててその場で眠りこけた。少しだけ眠っていてもらうために、睡眠欲を刺激する魔法を使った。朝という時間的にも眠気が襲っている事もあるのだろう、効き目は抜群。ゆっくりお休みなさい。

静かに洞窟へと足を踏み入れる。足音を消して、ゆっくりと歩く。緊張を超えてしまったのか、何か楽しくなってきた。

だが、ここから先は魔法を控えたい。勘のいい魔法使いなら付近で魔法を使用されたらばれてしまうからだ。なるべく使いたくないところなんだけれど。

慎重に、慎重に進んでいく。

目的は狼とのコンタクト、だが見張りを眠らせてしまっているので万が一にでも気づかれたら面倒だ。見る人が見れば魔法で眠らせたとわかってしまう。

建物の地形と、敵の位置、及び数をしっかりと把握し特に魔法使いの一挙手一動に注意を払って進む。

――マズイッ

そう気づいたのがもう少し前ならば撤退の手段があった。しかし、少しだけ手遅れのよう。

手下の一人が入口へと向かっていた。

気だるげに歩いている様子を見るとおそらくは見張り交代。

――こんな時にしなくても良いだろうッ!?

対処を考えなくては行けないのに! 時間が無いッ!

仕方ない。頼む。バレないでくれ!

「眠りの風」

角を曲がる瞬間、魔法を吸い込むように魔法を置いた。

幸いにも姿を見られて騒がれる事も無く、一瞬で眠りに落ちる。

嫌な汗をかきながら魔法使いを見た。

変わった様子は……無い。

相変わらずフードを深くかぶり、椅子にもたれかかっている。

ホッと胸を撫で下ろす、が事態は悪化している!

おそらく見張りの交代の時間で人が行き来したのだろう。見張りは来たが、戻ってこなかったらどうなる。何かあったと疑われるのも時間の問題だ。クッソ!

足早に狼の元へと急いだ。最悪の場合転移で逃げる事も考える。

入口からそう離れていないが隔離された大きな広間。薄暗く、明かりの指しこまないその場所に圧倒的な存在感を誇る狼が居る。

魔法陣が足元に浮かび、その上で力なく横たわっている。一瞬死んでいるかとも思ったが息を荒くして、そのたびに腹が動いている所を見るとまだ生きてはいるようだった。

「……誰だ」

俺の毛並みが敵と違うとわかるのだろうか、声を小さくして様子を変えずに声を発した。やはりこの狼、相当知能が高い。その上冷静に意志疎通できるようだ。

「さっきの戦いを見ていた。君を助けたい」

横たわる体の上体を起こし狼が俺の品定めをした。

「なぜ、だ。お前の利益は何だ。人間は金が絡まないと動かないだろ」

何故かと問われると、少し困った。何故だろう。

オオカミを、そしてその少女を助けたいと思った気持ちは何故だろうと考えて少し時間をおいて答えた。

「お前の態度、かな。誰かを助けたいっていう真剣な気持ちが見えたからだよ。うん。たぶん、そう」

冷静に言ったつもりだった。だけど、狼の方は冷静になれなかったようだ。

「ガァーッ。やめろっ。何か、痒くなるんだよ!」

「ちょ、騒ぐな騒ぐな」

「……すまん」

反省したように大人しくなるが、後ろ脚で体を掻いているのは照れ隠しなのだろうか。犬の感情表現なんて知らんぞ……。

銀狼の下にある魔法陣の解析を始める。

術式は拘束、そして力の吸引。

――胸糞悪い

力の吸引と言うと何の?と問いたくなるだろう。ここでいう力とは命のエネルギー、つまりは生命力の事だ。

狼は常に生命力を奪われ、魔法使いの糧となっている。衰弱するのも時間の問題であり、これは早く解いておくに越したことは無い。だが、狼の衰弱を止めるために魔法陣を解除してしまうと、魔法使い側にすぐにバレてしまうのだ。供給されていた力がいきなり失われれば、様子を見に来るのは明白。

この狼の目的は少女を助ける事だ。つまり戦闘になる。

勝てる、か?

ここで魔法陣を解くのは容易。だが、狼も力を奪われているだろう。

「頼む。この魔法陣を解いてくれ。解いてくれたならお前の奴隷になり、お前の力になってやる。だから、頼むッ。オレは金を持っていない。だから、オレ自身が必ず対価を払う。何でもやる。テメェの敵は全員俺が殺してやる。頼む、あの娘を助けてぇんだよ」

心から生まれた声を聴いた。この狼はこの怖い外見で、天使のような純粋さを持っている。いや、白では無いのかもしれない。誰かのためになら、自身の損得をも考えずそれを成し遂げようとする強い鋼の精神。色で言うと、ちょうどこの狼のような銀の色をしているのでは無いだろうか。

「気に入った」

そこまで言われちゃ、引けないでしょう!

この狼はここを正念場と見た。この一瞬を、あのエルフの少女を助けるためならば何ですると言う。俺ができるなら何か少しだけでもいい。背中を押してあげたいじゃないか!

「何だ? 惚れた弱みか?」

「バッ、そんなんじゃねぇよ!」

「まぁいいよ。鎖には気をつけろよ」

「あのアーティファクトか。厄介なもん持ち出しやがって」

「アーティファクト、って言うのか。魔法具とは違うのか?」

「ニンゲン程度が作れるもんじゃねぇんだよ。神代のドワーフの名工、エルフの大魔法使いそれに魔人や魔王、そんな類の化け物が作る化け物魔法具だ。あいつはまだ扱い切れてねぇようだけど、面倒くさい事この上ねぇよ」

「異質な物だと思ったがそれほどの物か」

「アレの凄さを見てしれるだけで、テメェの見る目だけは一流だろうよ」

「そりゃ、どうも」

準備していた魔法を発動する。

俺、特製! 干渉魔法『オーバーライト』

魔法陣を少しだけ弄る。精密なプログラムの重要な機能を担う文字をランダムに消すような迷惑行為。これで魔法陣は本来の機能を失うのだ。

「よしっ」

魔法陣は思った通りに輝きを失い、消滅した。

白銀の狼は、再び立ち上がる。魔法で縛られ、力を奪われ状態は最悪だろう。何となく雰囲気から覇気が抜けたようにも感じる、が、目には炎が宿り戦う意思を示した。

「わりぃな、ニンゲン」

そのセリフを聞いて、嫌な予感がした。

そのセリフが俺個人では無く未だにニンゲンという言葉を使っていたからだろうか、そこに違和感を覚えた。

思わず身構える。コイツが俺の敵に回ってしまったなら死を受け入れる他無い!

「世話かけた。何、襲わねえよ。約束は守る。とりあえず、あの娘を助けてからにしてくれ。自分勝手で悪いが、それは譲れねぇんだ」

そう言うと風を起こして狼は去っていく。恐らくはこの奥に居るだろう敵を狩りに行くのだ。何も策も無く突っ込んで大丈夫だろうか。狼はあの鎖に対する対処法を何か見つけられたのか。

後は、俺の知った事では無いのかもしれない。エールを届けるだけが俺の精一杯なのかもしれない。

狼とエルフの少女はどうなったのかと気にし、天眼で様子を見ようとした。

「気になる?」

いつの間に、そこに居たのだろう。

敵であるフードを深くかぶった魔法使いが、そこに現れていた。


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