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第十二話 夢と現実は繋がる

夢に魘され朝と呼ぶにはまだ早い時間に目が覚める。悪夢というのが嫌な事を見る夢とするのなら、俺は悪夢を見たのだろう。

嫌な汗をかき、が重い。鼓動が耳に障るほど大きく聞こえている。俺の胸を高ぶらせるのはきっとアイツだ。

――白銀の狼

夢だ、夢だとはわかっている。だけれど、どうしても気になってしまうのは何故だろうか。あまりにも生々しく、面白くない夢だったからか。夢なんて、起きて少ししたらどんな夢を見ていたかなどすぐに思い出せなくなってしまうようなものだろう。だから、俺が気に掛ける事は無い。そう割り切ろうと自分で決めるのだけれど、簡単に記憶から薄れてしまう事はあるのだろうか。

記憶を呼び起こす。鮮明に白銀の狼を想像する事ができ、鎖につかまるシーンも明確に思い出せた。

やはり、あれは従来の夢とは違う。そう確信すると、居ても立ってもいられなくなり、外に出かける支度をする。

固いベッドから抜け出し、殺風景な部屋の唯一の家具であるクローゼットから上着を取り出して羽織る。簡単ながら、これだけしか準備と言える物が無いのは少し問題だろうか。いろいろ必要なものはあれど、急に必要になるものは無く後回しにしてしまっている。金銭的には多少ながら余裕があると言った所でしか無いが、その都度買う事にしていこう。

とりあえずは、移動だ。あの場所がどこだとかいうのは全く見当がつかないが、知らないわけは無い。

転移の魔法を発動する。行先と願うのは、狼が立っていた小高い崖の上。

――頼む、行ってくれ

転移が完了し、周りの景色が変わる。

見慣れない景色、やはり適当な場所指定では間違った場所に出てしまったかと思いつつ周りを見渡してほくそ笑む。

どうやら転移自体は成功していたようだ。その証拠に、崖から見下ろす地面には大蛇が這って歩いたような跡が残っている。おそらくこの跡は鎖によるものだろう。そう思うとその戦いの壮絶さを垣間見る事が出来た。

はたして、あの鎖はどういう理屈だったのだろうか。あの鎖自体は魔法か魔法具か判断が付きかねる。天眼のスキルを通して見ればそれは一瞬でわかる事なのだけれど、おそらくは魔法具だとアタリをつけている。それも、かなり高位の魔法具。ランク付けの概念があるのならばS級という所。あの白銀の狼は、魔法を軽くレジストするほどの魔法抵抗を持っていたにも関わらず、あの鎖には太刀打ちする事ができずに捕まっていた。恐らくは拘束のための魔法具なのだろうが、あれは魔物だけでなく人間に使えると思う。そして、かなりの身体能力でも易々と封じ込めている点。拘束を目的とする魔法及び魔法具の最上位の物なのでは無いだろうか。低級の魔法具ならそれこそトラバサミなどから始まるものの、あれだけすごいものは魔法具のお店でもお目にかかれない。

――どうしようか

興味本位だけでここまで来てしまったのだ。それも夢か現実かを確かめるためだけに。

だが、何故だろうか。

あの、捕まってしまった狼の望みを果たしたいと思っているのは。そしてあわよくばあの狼も助けたいと思っているのは。

銀狼の、真剣な姿に魅せられたのかもしれない。そしてそれは、人間に敵対し魔物に肩入れする構図が出来上がってしまっていた。

恐らくあの人間は人攫い、もしくはそれに近いものというのは予想できる。ならば、何も問題は無いのではないかとも思うが人と対立するのは気が引ける。が、やるしか無い。それを超える思いがある。ならば行動に移す。

目的は二つ。

オオカミを助ける。

攫われた子を助ける。

この二つ。そのために、敵地へと乗り込み制圧する。

夢に見ただけで敵が四人は居た。その全てが男であり、一人は魔法使い。それも、恐らくは俺より練度の高い魔法使いだ。

情報を想起し、敵の本拠地を天眼で覗き見る。

その構造はただの洞窟と行ったところ。その中で人員の配置を調べる。入口に一人と中に三人が同じ場所に固まっている様子。狼は入り口付近の小部屋に魔法で動けなくされているらしい。そして少女の方は最奥に留置されていた。なるほど、あの少女はエルフだ。人と見分けがつかなさそうな容姿ながらも唯一特徴的な耳をしている。

いつもの迷宮攻略のように、地形と敵の配置、数、強さを把握する。

リーダー格の顔に傷のある男、そして魔法使い。この二人は俺では太刀打ちでき無い。迷宮の階層で言うと25階前後を探索しているような腕利きの冒険者だ。

「参ったな」

その部下である二人も同じだろう。魔力こそ少ないものの身体能力は上。魔法で不意を突くしか勝つ方法はなさそうだ。各個撃破という前提条件で。面倒くさいのは三人が三人固まってしまっている事。あの三人とまともにやり合うのは避けたい。リーダー格と魔法使いはどうしようも無いにせよ、人数不利で戦って良い事なんてあるはずがないだろう。

今からでもカーネリアに助力を乞うべきなのだろうか。

カーネリアが居れば正面からの殴り合いでも分があるのだけれど、どうもカーネリア含め精霊というものは食事や睡眠といったものを必要としないらしく、夜なんかは何しているか知らない。眠くなるまで他愛もない話には付き合ってくれるのだけれど「おやすみ」と言い合った後はそのまま消えてしまう。それに夜中呼び出したら少しだけ怒らせそう。自分の契約精霊に怒られる主人というのは如何なものだろうかと思うが、対等という関係を築いているのだと前向きに考える。

話を戻すと、つまり俺は一人で制圧、もしくは救出しなければいけなくなる。

ふと頭に浮かんだ一つの可能性。

――あの銀狼を仲間に引き込めるのでは無いか

少しの期待と活路が見えた。

うん、悪くない。両者に利益をもたらす提案ではないか。問題は向こうが俺を信じてくれるかという問題だけれど。

まずは、狼にコンタクトを取る。だめならそこで逃げよう。オオカミだけ戒めから解き放つだけでも良いじゃないか。

「よし、行こう」

後は、出たとこ勝負作戦!大丈夫、何とかなる!

颯爽と崖から飛び降りて、敵のアジトへと向かった


お読み頂きありがとうございます。

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