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第02話

「おつかれー」


 塾の顔なじみに挨拶をして、加奈は駅を目指した。

 人通りがあるとはいえ、高校生の一人歩き。このかではないが、あまり気持ちの良いものではない。

 だからこそ、快楽殺人者のデスゲームみたいな都市伝説が流行るのだろう。


 たしか、あれは……。


 都市伝説の内容を思い出しながら歩いていたら、目の前に奇妙なものが映った。

 サンドウィッチマン。この通りでは一度も見た事がない。

 さらに奇妙な事に、周りの人々はその目立つ風貌にかかわらず彼に目を向ける事がない。

 通り道だったので、徐々に彼との距離が縮まる。下げている看板の内容が分かる。

 それはサーカスの看板だった。

 心臓が高鳴った。


 ありえない。ただの偶然。だって、あれは私が創作した――。


 差し出されたチラシをあえて無視して通り過ぎる。


「お友達もいらっしゃいますよ」

「?!」


 振り向いた。

 彼はどこにもいない。

 思わず手を握り締めて、紙を握りつぶす感触に背中に悪寒が走った。


 だって、あれは私が創作した作り話。


 恐る恐る、加奈は握りつぶした紙を広げた。

 それはサーカスのチケットだった。

 開演は0時。そして、チケットの絵にはサーカスのリングに立つ加奈の姿が写っていた。思わず加奈はそのチケットを破って捨てた。

 そして、駅まで駆け出した。



*---*



 加奈は家に帰ると、まっすぐ自室の部屋に閉じこもった。


 なぜ? あれはただ、このかを怖がらせようと考えて作った話。

 夢を見ているの?


 ベッドの上で膝を抱えて、ふと机の上に何か置かれているのに気付いた。

 ベッドから降りて、机に近づいてそれが何か分かった時、卒倒しそうになった。


「なんで……」


 それは破り捨てたはずのサーカスのチケットだった。

 とっさにそれを手にし、窓を開けて投げ捨てた。

 しかし、その瞬間生臭い匂いと共に風が吹き抜ける。

 加奈はゆっくりと窓を閉めた。

 そして、拾い上げた。風に吹き戻されたチケットを。



*---*



 デジタル時計を見ると23時50分。

 時間が経つのが長く感じた。

 加奈は着替えもせず、食事も食欲がないと食べなかった。

 誰かに助けを求めようとも考えた。

 でも、誰に?

 両親? クラスメイト? 警察?

 誰が真面目にとりあってくれるというのか。

 考えている間にも刻々と時間はすぎていく。

 23時59分。


 ああ、もうすぐ0時。


 もはや手放す勇気すらなくしたチケットを握り締める。

 そして……。


 0時。


 刻々と時間は過ぎていく。

 加奈はおいつめられたネズミのように丸くなっている。


 0時01分

 0時02分


 ……?


 思わず時計を手に取り確認する。

 この時計は電波時計。自動で時刻を修正するようになっている。

 念の為に受信状況を確かめたが良好を示すマークが表示されている。

 なんだか分からない。

 少なくともイタズラではなかっただろう。

 でも……。


「助かった……の?」


 急にお腹が鳴った。

 そういえば夕食を食べてないのだ。

 インスタントか、運がよければ冷蔵庫に作り置きのものが残っているかもしれない。

 そう思って、加奈は自室のドアを開けた。


「……え?」


 そこはサーカスの舞台――リングであった。

 慌てて振り返る。

 ドアがない。壁もない。ただ、奥が見えない一本の通路があるだけ。

 突然、上から格子が降ってきた。

 加奈が来たはずの通路を阻む。

 だが、果たして格子がなかったとして、その一本道は加奈の部屋に通じているのだろうか?

 歓声が左右から聞こえる。

 観客席を割ってこの通路になっているのだろうが、下からでは仕切りが邪魔をして、どんな客なのか分からない。

 リングを見ると中央に人がいる。

 反射的に駆け出していた。

 この異常な状況を説明してくれるかもしれない。

 しかし、説明の前に警告が届いた。


「よけてっ!!」

「よけろっ!!」


 え?

 声と同時に何かが後ろを通り過ぎた。

 思わず過ぎていった方向を見やる。

 それは空中ブランコだった。それをピエロが両膝の内側でバーをフックし、両腕には身の丈ほどもあるテーブルナイフを抱えている。

 そして、空中台につかまったままだったそのピエロが再び手を離した。


「いやぁぁぁぁ」


 全力でリングの中央に向かった。

 リングの中央にいたのは、ピエロ達と違ってまともな人達だった。

 だが、何一つ有益な情報は得られなかった。

 いや、一つだけ有益かどうかはともかくとして分かった事がある。

 加奈は補充されたのだ。

 リングのすみでくすぶっているもの。

 それは地獄のグリルショーと称して、火炎放射器を持ったピエロに殺されたOLのなれの果てだそうだ。

 間違いない。

 ここは加奈が想像し創造したピエロの都市伝説だ。

 観客席を見れば、先程から歓声をあげているのは骸骨達だ。生きている人間は一人もいない。

 人間がいるのはリングの中央に、加奈を含めて5人だけだ。


 こんな馬鹿な事って……。


 否定したかった。ただの作り話のはずだった。

 だが、痛いほどの心臓の鼓動が、先程の空中ブランコのピエロに殺されかけた恐怖が。これを現実だと告げている。

 急に天井のライトが消えた。

 スポットライトが当てられた先にはピエロがいた。

 彼の手にはマイクがあった。


「さて、勇敢なお嬢さんが無事我々のディナーになるのをまぬがれました」


 観客席から笑い声が上がる。


「人数もそろいましたのでショーを再開しましょう。お次は名付けて、残酷解体ショーでございます」


 司会役のピエロが手を向けた先にスポットライトが次々とあたる。そこにはチェーンソーを手にしたピエロ達がいた。

 そして、天井のライトが再び戻る。


「さぁ。今宵のピエロ役が逃げ惑う姿。ご堪能くださいませ」


 次々とモーター音が鳴り響く。

 陽気そうな足取りでピエロ達がやってくる。


「逃げるぞっ」


 誰がそう言ったのか分からない。だが、それにはむかうものは誰もいなかった。


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