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僕は祖父の後継者に選ばれました。  作者: きのしたえいと
14,相坂しとらの逆理逆説
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98, 相坂さんとの手がかりさがし

 危機感があまりないように見えていそうだけれど、僕は焼きそばを頬張りながら、なんとなく周囲を見回した。でも、それで分かるのはたくさんの人がこのお祭りに参加しているという事実だけだった。


「そういえば」


 僕は思いついて相坂さんに尋ねた。


「こんなに人が多いなかで能力を使うということは簡単じゃないよね。たとえば、特定の相手に何かしらの犯罪を犯そうとしている悪人がいたとしても、お祭りのど真ん中を狙わないよね。たぶん、誰か能力を持っているひとが僕のことを狙っているんだろうけれど、ちょっと照準が狂ったら、その辺を歩いている全然関係のない人に当たっちゃいそうなんだけれど、異能の力の場合にはそんなこと関係ないのかな?」


 相坂さんがつまようじに突きさしたタコ焼きを食べようとして、ちょっとだけ凍りついたようになった。なんとなく思いつきを言っただけだったけれど、それは案外致命的なことだったみたいだ。


「聡太、なんでそんなことに気がつくのですか」


 相坂さんは手元のタコ焼きを相次いで口の中に放り込んで飲み込んだ。


「ん――、そうですね、たとえば私なら聡太を人通りの少ないところに連れ出そうとします。」

「うん、そうだよね。現にそうされたわけだし」


 あれは春先のことになるけれど、僕は誰もいない教室に呼び出されて相坂さんの能力を目の当たりにしたことがある。

 相坂さんは、相坂さんのことを可愛いと感じたひとの心を掴んでしまうことにある。ふだん、相坂さんは「しなければならない」とか「せざるをえない」とか、命令的に喋ることが多い変わった口ぶりをするけれど、それはそのまま相坂さんのもつ容姿が、それをみる人に対して何かを強制していることを意味している。


 たとえば僕は、相坂さんに対して何かをしてあげたくなる気持ちを抱くことがある。これはやっぱり、相坂さんが男性に対して特別な感情を抱かせることが多い、容姿の整った女の子だというせいだ。

 相坂さんのことを可愛いと感じてしまったひとは、みんな相坂さんの思い通りの世界に取り込まれてしまう。そのうえ、それは不思議な能力の使い手として当たり前のことなのかもしれないけれど、他人に気づかれるようには能力を使わない。約束事かなにかかもしれないけれど、その強力な暗示のような力は、そう簡単に目にすることはできなかった。


 相坂さんは僕に襲いかかった4月のことを指摘されると、それをちょっとだけ嫌がった。あれは相坂さんの勘違いだったから、あまり繰り返すと可哀想みたいだ。


「いえ、人の多いところは難しいと言わざるをえないのです。たとえば私の場合は、対象のひとを避けつつ能力を使うということ自体に慣れていません。それは、ひとを避けながら能力を使う場面がないからに違いないのです」

「みんなに披露する機会があるわけじゃないもんね」


 つまり、相坂さんの能力が強いか弱いかに関わらず、相坂さんは他人をいっさい無視してみんなに能力を使う必要がいままでなかったんだ。

 いや、そうじゃないのかもしれない。相坂さんの能力はいつだって周囲に影響を与えている。相坂さんのことを見る誰もが相坂さんの能力にかかる可能性があるけれど、それと同時に、相坂さんは誰にでも能力を使うわけではなかった。


「異能力といえども、それは物理的なちからと大して変わらない面もあると言わなければなりません。大勢のひとを前にして、自由に能力を使えるわけではないのです」

「うん、それなのに能力を使えるということは相応の特徴があるということでもあるんだよね」

「少なくとも、周囲から影響を及ぼすという能力ではないはずです」


 ***


 相坂さんは髪が短くて、ちょっとだけ目つきの悪い、ヘンなしゃべり方をする女の子だった。でも、頭がよくて、小柄なからだつきなのに身のこなしがしなやかで、とても活発だった。だから、ちょっとだけ男の子みたいなところもあるようにも思えてしまう。

 けれども、いつも引き結んでいるように見える薄い唇は、それでもどこか優しげに微笑しているように見えるし、目つきだってぜんぜん冷たくなかった。もちろん、よくしゃべるわけでもないせいもあって、その声は聞くだけで心地よさすら覚えてしまうんだ。

 相坂さんは僕と分け合ったタコ焼きを頬張って、「おいしいと言わなければならないのです」と言った。


「言わなければならないのです?」僕は尋ねた。

「そう言わなければならないのです」とても不思議な話し方だった。僕はそれが面白くなって、相坂さんの後を追いかけるみたいに口に出してみた。

「美味しいと感じたなら、美味しいと言わなければならないのです」


 相坂さんがニコっと微笑んだ。


「どうして?」

「美味しいなら、しょうじきに美味しいと言わなければならないのです。お母さんが言っていたから、言わなければならないのです」

「ふうん」

「だって、こんなにも美味しいのですから」


 僕は相づちを打って、タコ焼きを飲み込んだ。たしかに、僕は日頃からお父さんやお母さんに正直に言いなさいとか言われていたような気がするし、そうしないといけないとも言われてもいたけれど、それを本当に口に出すなんてこと、お父さんやお母さんはしていなかった。

 つんつん、と相坂さんが僕の頬をつついた。


「言わなければならないのです」


 ***


 つんつんと、相坂さんが僕の脇腹のあたりを指でつついた。僕はびっくりして、思わず身をよじった。


「わっ」


 つんつん、つんつん、相坂さんは僕の体をつついている。ちょっとだけ気むずかしい顔をしながら、相坂さんはなぜか僕にちょっかいを出し続けた。一応、単にそうしているだけじゃなくて、何か考え事をしているみたいだった。


「ん――」

「ど、どうしたの?」

「むう……」

「相坂さん、か、考えにくいんだけど!」


 僕は悲鳴を上げながらも考えていた。もっとも、相坂さんがこうして僕の体をつついていることは、それなりに意味のあることのはずだった。それを説明してくれないということは、たぶん、相坂さんが説明しにくいことに直面しているのだった。


「ね、ねえ、相坂さん。相坂さんは、どうして僕に能力を使っているひとが、いることがわかるのかな」


 相坂さんの突っつき攻撃が止まった。


「……あ、聡太、何か言いましたか?」

「うん、相坂さんがどうやって僕に対して能力が使われていることを判断しているのかな……と思って。ただの直感?」

「直感といえば直感ですが……ん――、普段と同じことをしているだけと言いますか、特別なことをやっているとは言えないのです」


 特別なことではない、ということは相坂さんは意図的に索敵をしているというわけではないみたいだった。集中すらしていないのかもしれない。もちろん、それは相坂さんの実力が相当のものだという事実を表していたのだけれど、だとしても「なんとなく」で能力を発揮できるわけじゃない。


「ひょっとして、相坂さんがいつも周囲のひとに影響を与えていることと同じなのかな?」

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