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僕は祖父の後継者に選ばれました。  作者: きのしたえいと
13,ふたりの七倉さん(後日修正予定)
71/140

71, 館の中

 僕たちは式島さんの後をついて2階に上がった。外目から見るよりも屋敷の中は広い。言うなれば本館と別館に別れているかのようになっている。こんなにたくさんの部屋があって使い切れたことがあったんだろうか。

 けれども、館の中はどこも清掃が行き届いていた。ところどころに最新式の清掃ロボットが動いていて、塵を集めている。ここは絨毯が敷き詰められているから、テレビショッピングで見たディスプレーのように活躍していた。


「綺麗なお屋敷ですね!」


 七倉さんがとても嬉しそうに笑っていた。僕もそうだと思う。


「お屋敷はおふたりで管理しているのですか」

「はい」


 七倉さんの質問に、式島さんはニコリともせずに答えた。恋ヶ奥さんよりもまるい顔のかたちをしているけれども、恋ヶ奥さんと同じように全然感情の読めない表情をしていた。京香さんもそうだけれど。ひょっとして、七倉さんの前だとみんな緊張しているのかもしれない、なんてことをなんとなく思った。

 式島さんがどんどん歩いて行ってしまうので、京香さんが代わりに七倉さんの相手をしていた。


「普段は島民のなかから何人か雇用して維持しているそうです。昔は女中を何人も雇っていたそうですが、今はご覧のとおり。24時間稼働のロボットがありますから」

「すごいです。それに賢いですね。司くんのお家にはありますか?」


 僕は首を振った。全自動掃除機を使うほど広い家じゃない。


「私の家にも1台ほしいです」

「久良川の屋敷の床には合わないでしょう」

「そうですか……」


 七倉さんは機敏に動き回る掃除機を目で追っていたけれど、式島さんが足を止めて僕たちを待っているのに気づくと、観察をやめて式島さんを追いかけ始めた。賢い掃除機が充電のために電源のそばに動いていくのは、僕ももうすこし見ていたかったけれど。

 僕たちが並んで歩けるほどの広い渡り廊下を抜けると、そこには幾つかの部屋が並んでいた。


「海の見える部屋と承りましたので、こちらにご案内いたしました。お嬢様は中央のお部屋をお使いください。京香様はお嬢様のお隣に、司様は京香様の向かいの部屋に」


 相変わらず式島さんは感情のこもっていない声だった。七倉さんはそれを気にしていないかのように頷いて、ひとつだけ質問をした。


「他にお泊まりの方はいらっしゃいますか」

「はい、もうひとり。今は出ておりますが」

「どなたでいらっしゃいますか?」

「楓様のご学友です」


 それを聞いて、七倉さんは声をあげた。


「では、ご挨拶しないといけません」

「いまは外出されておられますのでいらっしゃいません。夜にご挨拶ください」


 僕はそのひとがどこに出かけているのか気になった。跳ね橋は上げてしまったから、そのひとが館に戻ってくるにはもういちど橋を下げないといけない。それとも、橋を渡らないでも1日過ごせるような場所があるのだろうか。


「分かりました。式島さん、ありがとうございます」

「至らぬ点があればお申しつけください」


 七倉さんがいちばん広そうな部屋をあてがわれたみたいだった。もっとも、広そうと言っても一つ一つの部屋で間取りが大きく違うとは思えなくて、どの部屋も僕の家のどの部屋よりも広かった。その部屋の隣が京香さん。僕だけが廊下を挟んで逆側なので、七倉さんの部屋が海側なら僕の部屋からは海はすこし見えづらいのだろう。

 でも、だからといって七倉さんの隣の部屋がいいのかといえばそうではなくて、むしろ京香さんの目の前に割り当ててもらえて喜んだくらいだった。これなら京香さんに気づかれずに僕が七倉さんの部屋に行くなんてことは難しい。


「司くん、お部屋は自由に使っていいそうです。もしそちらのお部屋が気に入りませんでしたら、言ってくださいね」


 僕は七倉さんにお礼を言って、もちろん不満なんて言うつもりではなかったけれど、僕たちは部屋に入った。


「うわっ、すごい……」


 僕は思わず声をあげてしまった。だって、その部屋は数日間滞在するだけではなくて完全に住めてしまえるほど全てが整っていたんだ。広さは僕の家のリビングから壁を全て取り払ったくらいの広さがある。まず目についたのが重厚な造りのテーブルとソファー。とりあえず僕はそれに腰掛けて、あまりの座り心地の良さに横になってしまう。

 目の前にはテレビがあった。新聞も置いてあって、それは今日の日付だった。試しに点けてみると、電波はきちんと入っている。番組数もかなり多い。


 ところで、壁には絵画が掛けられていた。壁側にはクローゼット、窓側はカーテンが掛けられていた。よく見ると電動で開閉できるようになっている。リモコンは机の上にまとめて置いてある。

 部屋の明かりも遠隔操作できるようになっているみたいだ。火を点けられる燭台もあるけれど、さながら高級ホテルのように雰囲気のある洋燈風の照明がほとんどだった。ちなみに、僕はそんな高級な場所に泊まったことはなかった。


 そして、本棚がいくつか並んでいた。その中には漫画や雑誌や――それから歴史の本があった。何の歴史が綴ってあるのかはすぐに分かる。でも、七倉さんと一緒にここまで来て、その本の中に七倉さんのことが書いてあると思うと手に取るのは躊躇した。

 そういえば、この部屋からは海はわずかにしか見えなかったけれど、本館――と呼んでいいのか分からないけれど、さっき楓さんと面会した和室が見える部屋だった。ひょっとしたら楓さんから見えているのかもしれないと思って、窓のそばまで近づいたら、本当に楓さんの姿が見えてびっくりした。


 僕の見間違いでなければ楓さんが中庭の向こうの窓で手を振っていたので、僕はとりあえず頭を下げた。びっくりした。びっくりしてばっかりだ。

 とりあえず窓から離れてソファに座った。

 なんの不満もなかった。七倉さんの友人ということで楓さんの招待に応じた僕だったけれど、こんな歓待を受けるなんて思いもしていなかった。これからしばらくこの島で、のんびり過ごすのは楽しみだと思った。


 しばらくそのままソファの転がっていると、ノックの音が聞こえた。

 僕は髪の毛をいじりながらドアノブを回すと、そこに七倉さんが立っていた。

 七倉さんは長い髪を解き直したみたいだった。お化粧もしていないのにぱっちりとした瞳が目の前にあった。さっきまでと印象が違う。そんな気がしたのは、さっき移動中に七倉さんが眠っていたからだと思い出した。衣装も変わっていて、丈の短いスカートの下にハイソックスを履いていた。 


「司くんはおつかれではありませんか。まだ夕食までは時間がありますから、一緒に館のなかを歩いて回りませんか」


 僕は二つ返事で頷いた。


「うん、そうしよう。この館って広いから迷いそうだよ」

「はい、大きな館ですから遊べる部屋もあるかもしれません。一緒に捜しましょう!」

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