村
熊の解体作業はは黙々と続いた。
解体作業といっても少女が熊の皮と所々についている甲殻を剥ぎ、俺は頭部の巨大な牙と紅色の目をくりぬいただけだった。
「そういえば、名前を聞いていなかったな」
少女が熊の肉を剥ぎ取りながら聞いてきた。
どうなら持てるだけの肉を持って帰るらしい。
「月見里悠里。お前は」
「私はリーラ・ベネットだ。よりろしくなユーリ」
「悠理だ悠理」
「ユーリ、お前もこの肉を持ってくれ」
…………無視か。
リーラが大きな葉っぱに包んだ肉を渡してきた。
「他の肉はいいのか」
「これ以上持てないし、ここに置いていっても勝手にほかの魔獣が食べる」
「…………はぁ」
何だかもったいない気がするがこれ以上持てないなら仕方ないか。
「さ、帰えるぞ。もうすぐ夕方になる」
剥ぎ取った素材をパパッと毛皮で作った袋に入れると早足に樹海を歩いていった。
俺も慌てて追いかける。
「村まで何分ぐらいかかるんだ」
「村はここから数キロ離れたところにある。夜になる前につくだろう」
「やっぱし夜になると危なかったりするのか」
「当たり前だ。夜は魔獣が活発になりやすい。そもそも昼だろうと樹海は魔獣が出て危険だ」
「じゃあ、なんでリーラはなんで樹海にいたんだ?」
「私はただ狩りをしていただけだ。そこで熊を見つけて水浴びをしてるところを後ろから斬ってやろうとしていたのに…………」
俺がいたせいで失敗になった、とリーラ
あんなでっかい熊と真正面からやり合いたくなかったのだろう。
「……悪いな」
「いや結果的に熊を狩ることができた。そう落ち込むことはない。それにお前の戦ってる姿はなかなか勇敢だったぞ」
「いや逃げてたんだけど」
「逃げるのも戦いだ。岩場で熊に見つかってときもそうだが、なかなか冷静な判断だったぞ。あのまま逃げていたら突進の勢いが落ちないまま追っかけられていただろう」
「…………見てたんなら助けろよ」
俺がジト目で言うとリーラはふふっと笑った。
「すまない。なんだかお前と熊の追っかけ合いが見ていて面白くてな。さすがに不謹慎だった」
「不謹慎にも程があるだろ」
こっちは命懸けだっていうのに。
「もちろんいざとなったら助けに入るつもりだたが、ユーリは逃げ切ったじゃないか。神能も使わずあの熊から逃げ切るなんてなかなかできないぞ」
最初から助けろよと言おうとしたが、ユーリの話に聞き慣れない単語があった。
「神能ってなんだ?」
「ああ、そうか確か記憶がないんだったな」
俺が記憶がないことをもう忘れていたらしい。
「神能というのはその名のとおり神の能力という意味だ」
「もっと詳しく」
「神能というのは火、水、土、風、雷、毒の6種類あって人は皆そのどれか一つの能力を有している。まぁ中にはごく稀に2つ、神能を有する人がいるらしい」
「つまりリーラも神能が使えるんだな?」
「私の神能は風だ。なんだ、見たいのか?」
「見たいです」
男として超能力的なものはどうしても見てみたい。
リーラは「離れてろ」と言うと、空いている片手を前にかざした。
俺はリーラから離れる。
「エアロ・ガンズ・パレット!」
リーラが叫ぶと手のひらから一瞬で1メートルぐらいの大きさの緑色に光る球体の風が形成され、物凄い勢いで前方に向かって放たれた。
風に弾丸は落ち葉を巻き込みながら樹木に命中し大きく陥没させた。
「…………すげぇ」
「今のは呪文と言ってな、唱えると勝手に術が発動する」
「俺も使えるのか」
「私と一緒とは限らないがお前も神能は使えるはずだぞ」
残念なことに俺はこの世界の住人じゃない。
神能なんて今知ったものだ。
そんなもん使えたら熊なんてやっつけてるところだ。
「手に思い切り力をいれてみるといい。慣れると簡単に作れるようになるぞ……こう、……ほら」
リーラが手に握り拳の球体の風が作られる。
俺も真似しようとしたが辞めた。
制御の仕方が解らない以上、使うのは危険だ。
それに出なかったら恥ずかしいし。
「やめとくわ」
「難しいか?なら呪文を唱えてみるといい」
「何回も言うけど記憶ないから」
「いや、唱えることはできるはずだぞ。呪文というのは生まれた時から頭が勝手に覚えてるものだ」
「